22話 カルギス邸お宅訪問!
「さぁ、上がってくれ。ここが俺の家だ」
闘技場から徒歩30分ほどの場所にカルギスの自宅はあった。
移動手段が徒歩と荷馬車しかない事を考えると職場までなかなか近く、通勤ルートに商店が多くあるのも高ポイントだ。
招待へのお土産に、露店で桃を4つほど買い求めながら(剣闘士を続ける決心がついたら近くに家を借りよう)と心に留める。
「おかえりなさいませ、旦那様。いらっしゃいませ、お客様」
深々とお辞儀をする中年女性を前に、俺は驚きのあまり固まってしまった。
本物のメイドだ…いや、奴隷なのか?
目の前の清潔で健康そうな女性の姿とカルギスの性格から、奴隷とその主人というイメージがうまく結びつかない。
俺の困惑を見てとったカルギスが紹介を挟んでくれる。
「息子の側仕えを頼んでいるマンティだ。うちの家事も切り盛りしてくれている」
さすがは気づかいの達人カルギス!
「側仕えのマンティと申します。以後、お見知りおきくださいませ」
「ど、どうもヘリオンです。よければ皆さんで召し上がってください」
めちゃくちゃ日本人な挨拶をしてしまった!
どうしよう、ヘリオンの姿でどうもどうもとペコペコする姿はさすがに似合わなかった。
ん?息子って言った?
もう、なにがなんだか。
メイドはいるし、豪邸だし、カルギスは子持ちだし…今日は驚かされてばかりだ。
「ヘリオン様!モモタロスのお話をもう一度お聞きしたいです!」
カルギスの息子ニウスは病弱でほとんど家から出た事がなく、めったに訪れない訪問客の俺を驚きと喜びで迎えてくれた。
外国の話を聞きたいとねだられたので俺は昔話『桃太郎』を聞かせたのだが…
「モモ、タラウス?」と名前の時点でつまずいてしまい、とっさに『モモタロス』となってしまった。
誰だよ、モモタロス…って。
「よ、よし、次はウラシマヌスのお話を聞かせよう」
「やったー!とても楽しみです!」
ニウスは期待に瞳を輝かせ、いかにもワクワクが止まらない様子で身を乗り出してきた。
ニウス、可愛いすぎるぞ!
ニウスのクロネリア知識と俺の悪ノリが科学反応を起こし「異世界昔話ウラシマヌス」は出来上がった。
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砂浜を散策していたウラシマヌス(自由市民)は、浜辺にうちあげられた水と氷を司る竜ウォータードラゴンの幼生(シャチの姿らしい)を助けた事で、海中に眠る楽園都市アトランティアに招待される。
快適な楽園の生活で堕落したウラシマヌスは一つの宝箱を与えられる。
その箱を決して開けてはならぬと言い添えられて……
地上へと帰還したウラシマヌスは好奇心から、アトランティア市長との約束を破り、箱を開けてしまう。
中に封印されていた混沌と争いを司る竜ケイオスと百八の悪徳が世界に解き放たれてしまい、それを知った、時と空間を司る竜レガシー(梟の姿)の怒りを買い、ウラシマヌスは時を進められ老人に変えられてしまった。
自責と後悔の念に駆られたウラシマヌス。
彼は自らが封印を解いたケイオスを倒すための旅にでる。
「復讐だ」
そう言い残して彼は旅立つ。
続く。
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いったいどこの神話か、というトンデモ昔話が完成するとニウスは満足そうに笑い、次回はイスン・ボウシスのお話が聞きたいとねだりながら、スゥスゥと寝息をたて始めた。
前世では小さな子供に縁がなかったけどなかなかいいものだ。
「子供の扱いがうまいな。ニウスが世話をかけた」
声量を落とし、カルギスが微笑ましげにニウスを見つめていた。
ニウスを起こさないよう、そっとダイニングに連れ出された俺は夕食をごちそうになった。
歴史の教科書で見かける、寝転がって食事を取る古代ローマのスタイルは貴族や富裕層の接待や宴での事らしい。
カルギス邸ではテーブルに椅子という俺にも違和感のない食卓でマンティが給仕をしてくれる。
高層住宅には大きなキッチンがないそうで、露店や近所の食事処からのテイクアウト品だそうだが、パンと水が主食だった俺には全てがごちそうだ。
「ところで、ヘリオンは剣闘士を続けないのか?」
少し心配そうにこちらを伺うカルギス。
大男のくせに上目遣いで見るなよ。
人懐こいゴールデンレトリバーと話してるような気分になる。顔は土佐犬そっくりなのに。
「他の仕事も考えてみたんだけど、強制されない形であれば剣闘士もいいかなとは思っている」
今のところはね。
と心の中で付け足しておく。
カルギスは俺の返事を聞いてほっと胸を撫で下ろす。
随分と心配をかけていたらしい…
「ヘリオン、お前にフレイルを教わってから連勝中なんだ。感謝している。お前が剣闘士を続けてくれるなら嬉しいよ」
剣闘士を続けるなら存在しない武器の作製をしてみたいのだと話をするとカルギスは面白がって「槍のように巨大な剣を作れ」とか「火を吹く剣が欲しい」などと言い出し、その戦闘方法について大いに盛り上がった。
「鍛冶師と話をするなら、剣闘士の訓練所に入所しないといけない」と教えてくれた。
訓練所か、剣闘士として生きていくなら俺もそこで習うべきだろう。
一日体験コースみたいなサービスがあると助かるがどうだろうか。
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