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【祝9万PV】転生式異世界武器物語 〜剣闘士に転生して武器に詳しくなるメソッド〜[月水金17:30更新・第二部完結保証]  作者: 尾白景
奴隷剣闘士編

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19話 権力の策動とカルギスの願い

「ライカンでも殺せぬのか、あやつは…」

 豪奢な邸宅の書斎、黒檀でできた机の前にドカっとふんぞり返るようにして座る一人の男が憎々しげに呟いた。


 側仕えの美しい女奴隷を眼前に立たせ、全身を舐めるように眺め、欲望を掻き立てながらワインをすするのが彼の日課であり至上の喜びなのだがそれが今日はどうだ。


 女は肌荒れが気になり、いつも通りの怯えた表情をしていても歪んだ口元は彼を軽んじているように見える。


 これは仕置が必要だろう。

 ワインも不味い。まるで山羊の小便を飲まされているようではないか。

 仕入先を変えるべきだ。

 評議員の力を見せつけてやらなくてはなるまい。


 彼がたっぷりと金を注いだ闘士アンクラウスを殺した憎い男の無惨な最後を見届けるため、貴賓席でワインをくゆらせて観戦してみれば、男はワインを飲み干す間もなく、鎖一本でライカを叩きのめしてしまった。


 属州であるパルテナスの少数部族、ライカンスロープはかなりの希少種。

 こちらの手配にも相応の金がかかった。溜飲を下げるつもりが怒りは増すばかりである。


「奴は奴隷から市民になった上、卑しくも英雄気取りよ。アンクラウスの立場を横取りしおって!」

 腹立ち紛れにグラスに残ったワインをぶちまける。女は沈痛な面持ちで顔を背け、服を濡らした姿に愉悦を感じ、少しだけ気分が晴れた。


「ふむ、まずは剣闘の世界から逃さぬ事が肝要よな。平穏な暮らしなど剣奴には高望みが過ぎるわ。蛇が蛙を締めるようにゆっくりといたぶり、呑み込む事にしよう。クククッ」


 彼の思索は、憎きヘリオンを思い通りに操り、果てはもがき、のたうち、苦しみながら自身の大口に飲み込まれる姿にまで昇華した。

 今夜も楽しく過ごせそうだ。


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 下級闘士カルギスは心の底から舞い上がっていた。

 友人(だと自分は思っている)のヘリオンが偉業を達成したのだ!


 市民権を得た剣奴(奴隷剣闘士)なんて剣闘士の間で噂される都市伝説だと思っていたのに。

 本当に凄い奴だ。


 我が事のように誇らしくてついふれまわってしまう。良いことは続くようで、カルギス自身にも先ほど吉報が舞い込んだ。

 この事を自宅で伏せっている息子に伝え、共に喜びを分かち合いたい!


 いかついスキンヘッドの大男はスキップでもしてしまいたい心持ちでウキウキしながら家路を急ぐ。


 カルギスは剣奴ではない。

 元はクロネリアの端に住む大工の息子で、ありふれた恋をしてありふれた家庭を築いた。


 裕福ではなかったがカルギスは満足していた。

 身ごもった妻が難産で、一人息子の『ニウス』と引き換えに命を落とすまでは…



 カルギスはニウスを溺愛し懸命に育てたがニウスは生まれつき体が弱く、薬代に世話代にと、とにかく金がかかった。


 良い医者に診せ、よく効く薬を買い、そのうえで子供と少しでも多くの時間を過ごしたい。

 その夢を叶えるため、ニウスを連れてクロネリアの都市部に移り、体が大きく力自慢のカルギスは、自由市民の通いの剣闘士となった。


 カルギスの住むインスラ(マンション)は6階建ての2階。賃貸で上階にいくほど安いのだが、体の弱いニウスを気づかい、水道が通っている2階を少し無理して借りている。


 一階のテナントが比較的行儀の良い居酒屋なのも都合がよかった。

 彼の職場とも言える闘技場と訓練所も比較的近く、好立地好条件である。


「おかえりなさいませ、ご主人様」

 快活で割腹のいい中年女性、側仕えのマンティが笑顔で迎えてくれた。


「ニウス坊ちゃんは本日ご気分が良いようで、お昼にはパン粥を二杯も召しあがりましたよ。お熱もございません」

 俺が玄関先で荷物を降ろし、金庫に報奨金を放り込む間、マンティはニウスの様子を丁寧に報告してくれる。


 彼女には俺の世話ではなくニウスの体調管理と家事を優先するよう伝えており、彼女の行き届いた仕事ぶりにはいつも感心させられる。

 ニウスが全幅の信頼を寄せて懐いている事からも彼女の献身ぶりが判るというものだ。


 帝国での暮らしに奴隷は必須で、市民は必ず数名の奴隷を所有している。

 俺はあまり仰々しく扱われるのが好きではないので我が家の側仕えはマンティだけだ。


 彼女の身分は奴隷だがいつか要件を満たして解放できたらとも思う。

 ニウスの健康もマンティの身分も結局、必要なのは金だ。もっともっと稼がなくてはならない。



「父さん、おかえりなさい。無事でよかった。ケガはしてない?」


 今年で7歳になったニウスがケホケホと軽く咳き込みながら、キュビキュルム(木製ベッドの起源)から体を起こして出迎えてくれた。


 俺が帰る度にケガの心配をしてくれる心優しい子だ。俺の方こそお前が辛くないか、熱をだしていやしないか毎日心配しているよ。


「問題ない。父さんは凄く強いからな!」


 笑顔でそう応えると、ニウスも年頃の少年らしくニカッと笑い返す。今日は本当に調子が良さそうだ。


「父さんな、ついに議員さんからお声をいただけたんだ。父さんにパトロヌス(パトロンの起源)がつくんだよ!

 これからはお前にもっともっと、旨い食い物や果物を両手いっぱいに抱えて帰ってきてやるぞ!」


 俺は誇らしげに朗報を伝えるとニウスは「僕、そんなに食べきれないよ」と苦笑を返した。


 構うもんか。

 ニウスが腹いっぱいになるまで好きな物を食べて、貴族でも手に入れられないような薬を飲んで健康になって、俺と一緒に男同士、外にでかけよう。

 父さんが必ず叶えてやるからな。

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― 新着の感想 ―
カルギス、いいお父さんですね〜! 最初はただのごっついスキンヘッドのおじさん(ただの?)かと思っていたのですが、実はとても優しくて、愛妻家で子煩悩なところが素敵です。 ニウスも本当にいい子ですね☺️ …
カルギス、ウキウキすぎて本当にスキップしてそうですね!友の吉報を我が事のように喜べるとは、いい奴すぎですね!! ただ気になるのは…悪巧みの後のカルギス家の温かいシーン。 これは、なんだかフラグっぽく見…
いかつい大男がキュートなのは大好きです。 可愛い♡ カルギスにも色々事情があるんですね……。 しかし、悪巧みしている議員さんと、議員さんのパトロンがついたという報告のタイミングと……、少し悪い予感がし…
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