18話 開戦の詔勅(しょうちょく)
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勅書
地上海の端々まで統ぶ、神代の時代より延々引き継がれしクロネリア帝国は、精強無類の兵を持ちたり。
朕はここに帝国の安寧を乱せし、スパルタクスなる逆賊の討伐を命ず。
各々、よくよく朕が意を得て、山河と町とに繰り出し、一切の手段を尽くに用いて、必ず帝国の目的を達する事を期せよ。
逆賊の如きは奴隷制解放の美辞麗句を謳いて、帝国の真意を解さず、地上海世界を濫りに撹乱し、帝国の生存に重大な脅威を加うものなり。
事既に此れに至る。
帝国は自存自衛の為、決然と障害を破砕する外なきなり。
インペラル・ディディ・フィルメヨール・アウグス・クロネリア
クロネリア帝国第十三代皇帝
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指令書
発クロネリア帝国第十三代皇帝
宛ギニアス・クラッスス将軍
栄光溢れるクロネリア帝国の繁栄を濫りに侵すは、帝国臣民と言えど、それを逆賊という。
スパルタクスなる首領に与し、悪逆非道の徒を殲滅するは義にして帝国騎士の責務と信ず。
此れに至り、朕の忠実なる臣ギニアス・クラッスス将軍に最高司令官の名誉と指揮権インペリウムを与うるものなり。
烏合の逆賊共10萬余、帝国の東はピケヌム市に於いて武備を増強し、不遜にも我に挑戦せんとす。
君、精強たる帝国兵6萬を従え、逆賊共の殲滅を命ず。
一つ、
首領スパルタクスを生け捕り、若しは誅す事。
一つ、
頭目クリクスス及びオエノマウスを誅す事。
一つ、
不当に占拠せしめられたるピケヌム市を解放する事。
一つ、
非道に与せし群衆共を解散せしめ、諸々の処断を成す事。
尚、帝都防衛の任たるや、君には及ばず。
アスラ・コルネリウス・フェリナス将軍に其の任を預ける事とす。
彼は防衛の才人されば忍耐の勇なり。
以て残存せし兵によりて多大な戦果を期す。
朕は忠誠勇武の臣を打ち頼み、速やかに禍根を排し、落居するを期す。
己が使命をたゆみなく、
ゆめゆめ、もてそこなふなかれ。
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帝都クロネリア市内マルティウス地区、マルス広場。
大神に任ぜられし七竜の長兄の名をケイオスという。
今でこそ混沌と争いを司る竜として恐れられているが、第十代皇帝までの治世においては、勝利と勇猛を司る竜として戦支度には誰もが祈りを捧げる対象であった。
その証に、ケイオスの巫女マルスの名を冠したこの広場を元はマルス練兵場という。
マルス広場は兵の訓練の他に、戦に関する主な儀式を執り行う場でもある。
マルス広場に規則正しく整列した兵達。
その数は2個軍団(12000人)に及ぶ。
兵はロリカ・セグメンタタ(板札鎧)、頬当のついたカッシウス(金属兜)を着込み、腰にはグラディウス(直剣)、手にはスクトゥム(長盾)とピルム(投擲槍)を備えた完全武装だ。
クロネリア帝国軍の象徴ともいえる、赤のマントと兜飾りが目にも鮮やかにたなびく。
軍団最前列で皆が粛々と見守る中に唯一人、皇帝の前にかしずくのは、6万の兵とその指揮権を預かるギニアス・クラッスス将軍その人である。
アウグス皇帝より直々に詔勅を賜る出陣式は、帝都の混乱を収めるに十分な威光を持った荘厳な式典となった。
「インペリウム…良い響きよ」
出陣を前に皇帝陛下よりお言葉を賜った将兵の士気は高い。
歴戦の百人隊長が列挙し、重装騎兵、重装歩兵、軽装歩兵が整然と隊列を成す。
眼前に2個軍団、城壁の外ではさらに8個軍団が号令を待っている。
この威容、与えられた権力の大きさを実感したクラッスス将軍もまた、高揚を隠せずにいた。
「胸が高鳴るわ。余もまた騎士なのだな……」
クラッススは戦争指揮を取る将軍でもあるが主な活動範囲は政治分野であり、彼に贈られる名声はそのほとんどが富裕さに由来するものだ。
そんな彼にとってスパルタクスの乱は、軍部への影響力を伸ばす絶好の好機であった。
帝国における経済だけでなく、政治、軍事までもを支配下に収め、口やかましく合議制などという非合理な制度を固持する元老院を黙らせる事こそギニアス・クラッススの野望。
「その日もそう遠くはあるまいよ……全軍、出陣!」
その日、クロネリア市から10個軍団、兵6万余名のスパルタクス鎮圧軍がギニアス・クラッスス将軍指揮下、東の町ピケヌム市へと出陣したのである。
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