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木の枝の伝説(8)




リンネ:前回の~、あれが気になって~。

レオン:何がだ?

リンネ:バンビの歌~、どう歌うのかな~?

レオン:はは、リンネは子どもだなあ。(かわいい妹がいて幸せだな!)

リンネ:(かちんとくる~、むぅ~! むかつく~!)

レオン:そんなことよりも! ついに今回はフォルテボアと戦うはずだぞ、リンネ!

リンネ:お兄ちゃん~? どうしてそんなに戦いを望んでるの~?

レオン:どうしてって・・・はっ? た、確かにおかしい! これじゃまるで・・・。

リンネ:完全に戦闘狂みたいだよ~。

レオン:・・・そ、そんなつもりではなかったんだが。

リンネ:お兄ちゃんの望みが叶ったら~、HP3のアインさんは~、死んじゃうかも~。

レオン:なっ・・・いや、そんなことは望んではいない!

リンネ:他人の不幸が好きなお兄ちゃんはほっといて~、ちゃんと第8話を読もうね~。

レオン:願ってない! 願ってないからな~~~~!









 さて、朝起きたらベッドの上……? あれ?


 ……素振りして地面で強制スタンのはずだったのにな?


 そう思っていたら、姉ちゃん登場。


「もうアイン! ねぞうがわるい! ゆかでねちゃダメ! ちゃんとぎょうぎよくして! おもかったんだから! アインってほんとうにばかよねっ!」


 姉ちゃん、ぷりぷり怒って、拳骨一発。


 ……あいたたた。


 どうやら朝になって姉ちゃんがベッドまで抱え上げてくれたらしい。


 いい姉だ…………ゲンコツがなければ、だがな!


 ……と、そんな心の中は隠して素直に謝ると、姉ちゃんは部屋を出ていく。母ちゃんの手伝いで朝食を作るからだ。


 おれはタッチパネルを開いてベッドを出ると、立てかけられていた木の枝トリプルオー・オリジンを握って素振りを開始。


 ぴったり100回でSP1/3となって素振り終了。


 タッチパネルで木の枝トリプルオー・オリジンをアイテムストレージに放り込んで、装備変更ファンクションキーの基本装備の右手武器に設定。いちいち面倒なんだけど、昨夜の強制スタンで倒れて手放したから所有権が消されて、ファンクションキーの登録がなくなってたからな。


 それから朝食。


 おれが「どうのつるぎがほしーい!」でとうちゃんが「ダメだ!」って、はいこれお約束。父ちゃんと母ちゃんがやっぱ嬉しそうにしてるな。


 以降、この流れが我が家の毎日の朝のルーティーンとなっていく。


 ただーしっ! 10日後くらいから、姉ちゃんは地面に倒れてるおれをそのまま放置するようになったけどな! 放置だからな! いや、姉ちゃん悪くないけどな! 拳骨なくなったけど優しさも一緒になくなったからな! さすが姉ちゃん!






 朝食後にじじいん家へ向かうくらいにはSPも2/3に回復してる。


 で、じじいん家では、マジ、絶対本気、計算機! じじいが目をむくスピード解決!


 ふふふふはははははは!!! 今は安心してサボるがいい、じじいめ! いつかおれさまがお手伝いをやめたその瞬間! 後悔に打ち震えてもだえるがいい!!


 ……と、心の中でこっそり魔王プレイを楽しんだり。


 …………って、もれてないよな、心ん中? ないよな?


 ソッコーで仕事は終わらせて、シャーリーと小川へおでかけ。


 シャーリーのお母さんであるおねいさま…………とてもおばちゃんには見えねぇんだな、これが。うちの母ちゃんもだけどな! マジでうちの母ちゃんもだけども! …………に布をもらっておいたので、その布の角をおれとシャーリーでそれぞれふたつずつ持って、小川のめっちゃ浅い安全なとこに入っていく。


 そんで布を川底にいったん沈めて、布の上に小魚がきたらせーので上げて。


「しゅごーい! おしゃかなとれたー!」


 ううううう、噛んでるよ、2回噛んでるよ! 噛んでるシャーリーがマジでかわいい! おさかな見て、目ぇまんまるさせて、めっちゃ笑顔でかわいーわー、もうマジバリかわいい!


「ねえねえ、これ、たべられるの?」


「いや、たべるにはちいさいよね。おがわにかえしてあげようか」


「え~」


「おっきなまものがむらにきて、そんちょうさんとかおとなたちをたべていって、こどももたべてやる~っていったら、シャーリーもいやでしょ?」


「おじいちゃんたべちゃヤ!」


 確かに! 真理だ! 子どもの純粋な心だ!


「おっきなまもの、むらにきちゃヤ!」


 これまた真理だ………………。


 …………嫌に決まってるよな、村に魔物がくるなんて。


 おれが自分で変なたとえを言い出したもんだから、素直なシャーリーの返答にちょっと心がレイピアで刺されてしまったぜ……。


「……と、とりあえず、にがしてあげよ? ね?」


「うん、わかった。つぎはおおきいの、つかまえる!」


 ワァオ! シャーリー意外と肉食系? これ、魚だけどな! 魚だけど!


 とまあ、そんなことをしていたらSP3/3に回復したので、シャーリーを説得して、なだめて、次の約束もして、じじいん家まで送っていく。大きい魚は無理でしたよ、はい。警戒心がちがうからな!


 シャーリーとバイバイしたら、おれは村を出て森を目指す。


 さて、シャーリーと和んだ分だけ、気合いを入れ直せ、おれ!







 さて、森の手前まできたおれ。


 昨日の偵察で、フォレボを見たところまで移動すると、タッパの表示が黄色に。


 縄張り的な感じでこの辺にいるってのは予想通り。ゲームのリポップポイントみたいなもんだろう。ここのフォレボを狩ったら、しばらくしたらリポップするんだろうな。たぶん、猟師さんたちはそういう感じのことを知ってて、ツノうさを狩ってんじゃないかと思う。


 完全には消せないけど、できるだけ足音を消して、森へ入る。


 森に入って三本目くらいの木の枝がちょうどいい高さと太さだったので、アイテムストレージからロープを取り出す。これ、うちの畑の倉庫から確保してきた。無許可だけど! 無許可だけどな!


 昨日の夕食前に持ち出して、部屋のベッドの下に一晩置いておいたら所有権はおれの物になったみたいで、アイテムストレージに入れといた。ちょっと窃盗かもだけど、家庭内だからセーフ……いや、アウトかもしれないけどな! おれも必死なんだよ!


 何回か……いや、十何回かロープを投げて、木の枝に引っ掛けて、手元のロープをちょっとずつひょいっと上に向かって波をつくるみたいに動かし続けて、ロープの両端がどっちもおれの手元にくるまで頑張った。


 そんでそのロープをがっつりつかんで、木に登ってみる。


 登った枝は、だいたい、今のおれの身長の二倍より少し高いから、2mよりは上だ。


 3回くらい登ったり下りたりして、大丈夫だと確信したら、やっぱり音をたてないように努めて歩き、フォレボを探す。


 ……うん。すぐ見つかった。ノンアクティブじゃなかったらたぶんもう死んでるよな。


 ロープを引っ掛けた木と、フォレボの位置ができるだけ90度くらいになるようにして、フォレボとの距離を測る。うん、5mもない。ロープまで3mくらいかな?


 フォレボは地面を掘り返してるみたいで位置の変化はない。ノンアクティブとはいえモンスターなのに、フツーに動物っぽい動きするんだな。ゲームん時はそんなこと気にせずタゲ取りしてたからわかんなかったけどな。


 ソルマは6m範囲の直線で貫通型の魔法。MP消費は2だ。どんなものでも、たとえ神級の魔法スキルであったとしてもSP消費は2となってる。MP消費は等級によって増えるけどな。


 これが物理攻撃スキルと魔法スキルの大きなちがいなんだよな。


 物理攻撃スキルは基本的に等級が高くなったり、範囲攻撃になったりするとSP消費が高くなる。MP消費はフツーはない。


 ……緊張してるからか、頭ん中で、これからフォレボを狩るってことから話をそらしちまうみたいだな。


 おれは、覚悟を決めて、呼吸を整える。


 頭の中で、詠唱する呪文について再確認。まちがったら絶対に発動しないからな。


 別にのみたくないけど、ごくり、とつばをのみこむ。


 ……よし、いくぞ。


 おれはまっすぐ左腕を伸ばし、さらに人差し指でフォレボを指し示す。


『われ……』


 呪文の詠唱開始と同時にSPが1/3になる。ゲーム『レオン・ド・バラッドの伝説』での魔法の詠唱は日本語だ。日本語なんだけど魔法言語という扱いで、設定上は「古代神聖帝国語」という、らしい。


 同じく、おれの詠唱開始と同時に、タッパの表示が赤くなり、フォレボがおれを振り返る。


 目が、目があっ…………ふぉ、ふぉ、ふぉ、フォレボの目がぁっ、赤く光ってやがるぅ!


 なんだよおい、なんだよおい、ゲームん時とずいぶん印象ぢがくねぇか? ぢかうよな? 濁点は誤字じゃないがらな! おれのあぜりだがらなっ! なまりでもねぇっ!


 いきなり急に、かわいい女の子が空飛ぶ国民的アニメーション映画の超でっかい目玉たくさんなぞ生物みたいになってんじゃねぇよっっ!


 攻撃色か? あれが伝説の攻撃色なのか? おれのめしいてない若々しい少年の目にははっきり赤く見えてんだよっっ! 金色じゃねぇよっ! かんべんしてくれぇっっっっ!


『……太陽神に乞い願う……』


 なんとか根性で詠唱を続ける…………んだけど…………。


 フォレボが、前足をその場で、一回、二回、三回と準備運動みたいに動かして……。


 気にしちゃダメだ、気にしちゃダメだっ、気にしちゃダメだっっ、気にしちゃダメだっっっ!


『……敵を貫く……』


 フォレボ、おれに向かって突進スタートっっっっっっっっっ!


『ひとすじ……って無理むりムリ無理絶対ムリだってっっ!』


 呪文は途中でただの日本語になって詠唱破棄。MPは起句となる『ソルマ』を言い終わるまで減らないから3/3のままだけどSPは1/3すでに減ってる。


 おれはロープを引っ掛けた木に向かって、てってけ、てってけ、全力疾走! てってけじゃ、全然全力っぽくないけどな! 全然全力っぽくないけど! 7歳だからな! 今のおれの全力だな!


 フォレボはさっきまでおれが立ってたところを、おれからしてみたら猛スピードで通過っっ! 完全なるスピード違反でござるよ! 危険でござるっ! おまわりさーん! リアルにこいつですっっ!


 おれはロープを手につかみ……。


 フォレボは急ブレーキっ!


 おれは、ずるっ、とん、ずるっ、とん、と、両手でロープをたぐり、足で木の幹を蹴って全力でとにかく木を登る。


 フォレボは方向転換、おれに向かって? おれが登ってる木に向かって? とにかくどっちでも同じことなんだけどな! 再び突進開始っっ!


 こええええっっ! こわすぎるっっっ! タゲ取りしたのに耳引っ張っでゲンコツだげで済まぜだ姉ちゃん超やざじいっっ! おれが間違っでだよぅっっ! 姉ちゃん愛じでるうううっっ!


 おれは逃げないって決めたんだろう、だって? いや、これは逃げじゃない! 戦略的撤退である! 我が軍に敗北などない! どんなに涙目になってたとしてもなっ! なってたとしてもだっ!


 そんななりふりかまってられるかっ! 超コエーっっっつーのっっ! 命が危ないっっ!


 おれが枝の上に登り切る。


 フォレボは突進の勢いのまま、ジャンプ…………って、猪って飛ぶの? ねえ、猪って鳥さんの仲間なの? それとも週刊少年漫画雑誌なの? 誰か嘘だと言ってくれええええっっっ!!


 フォレボの頭が、おれが登った枝の少し下に直撃!


 うわあ、ゆれるゆれる~、木がゆれてんよ? めっちゃゆれてんよ! マジかっ!


 おれは両手で木にしがみついた。


 落ちたら死ぬ、落ちたら死ぬ、落ちたら死んじゃうよおおおおおおおおぅっっっっ!!!













 それで、どうなったか、だって?




 あれから、何度かフォレボの突進を受け止めた木がけっこう揺らされたんだけど、とりあえず木が倒されるようなことはなさそうだと理解したし、SPが2/3まで回復して呪文詠唱から1時間耐えられたと気づいて、割と冷静になった。


 まだフォレボの目は赤いし、突進したり、なんか興奮状態で木の周りを回ってるし、戦闘状態はそのままなんだけどもな。


 でも、この木の上ならとりあえずおれの命は無事と判断できた。とりあえずだけどな! あくまでもとりあえずだけども!


 突進してくる時はしっかり両腕で木に抱き着いてたんだが、試しに片腕で耐えてみたら、枝の根元にしっかり右足を踏んばったら、なんとかいけた。


 魔法についても、フォレボのタゲ取りができたんだから、発動すんのはまず間違いない。これはかなり助かる情報だと思うな。


 ただし、目の前に向き合って詠唱すんのは無理。絶対に無理。詠唱省略は熟練度2になるまで無理だから工夫がいる。


 例えば、先に木に登った状態で、フォレボが近くに来るのを待つとか。または、フォレボに近い木に登ってから詠唱を始めるとか。近くで木に登ることがどう判定されるか次第だからな、そのチャレンジはけっこー怖いかもな。ソルマは熟練度1じゃ最長6mだからな。


 こうして考えてる間も、突進は続いてるしな。




 いっそのこと、木に頭ぶつけてるダメージで自滅してくれりゃいいのにな…………。




 ……そんなにうまい話はある訳なくて。


 突然、フォレボの行動が大人しくなったなと思ったら、ステ確認でSP3/3になってた。


 フォレボの目も赤ではなくなった。


 おれが登ってる木からも離れていきそうな感じの動き。


 2時間でノンアクティブに戻ったみたいだった。


 いま。


 決断を迫られてる。


 これ以上離れたら、木の上からソルマでのタゲ取りはできない。


 でも、タゲ取りしたら、また2時間、ここで耐えなきゃならないだろう。ひょっとしたら、二度目のノンアクティブに対するタゲ取りは2時間じゃ済まないかもしれないしな。


 どうする?


 ……どうするもこうするも、やるしかないよな、もう。


 ここで明日にしよう、とか思ったら、きっと明日もやらねーよな。


 精神的にはストレス限界ぎりぎりな気もすっけどな……。




『われ太陽神に……』




 詠唱を始めたら、再び、フォレボの目が赤くなる。


 半身を木の幹に押しつけながら、右腕でしっかり木の幹を抱き、左腕はフォレボに向かって伸ばして人差し指を差し向けている。




『……乞い願う、敵を貫く……』




 フォレボの突進が再開され、加速していく。




『……ひとすじの光を……』




 フォレボが猛スピードでジャンプする。




『……この指に……』




 どごんっ、とフォレボが木に頭をぶつける。おれがのってる木の枝のすぐ下。おれは右足を踏んばる。めっちゃ踏んばる。絶対に落ちない。落ちたくないっ! 受験じゃないけどな! そんなんじゃないけど絶対に落ちないぞごらあっっ!!


 落ちていくフォレボがまるでスローモーションのように見えた。


 ずっと、同じところに着地しているから、その地面だけ少しえぐれてる。


 おれは、予想落下点に指先を定め……。




『ソルむゃ』







 最後の、起句を………………噛んだ。




 …………………………もちろん、魔法は発動しなかった。












リンネ:・・・・・・。

レオン:・・・・・・。

リンネ:そ、そういうことも~、きっと~、いつかは思い出だよ~。

レオン:い、いや、これはかなりのトラウマだろ?

リンネ:お兄ちゃんはひどいね~。

レオン:ひどいって、リンネ? 何を言ってるんだ、正しく状況を見ないと!

リンネ:正しく見たらどういう状況なの~?

レオン:上級者だって威張ってた奴がまさかのビビりで初心者以下ミス・・・。

リンネ:・・・お兄ちゃんが残酷な人ってわかったところで~、みなさん次回もお楽しみに~。

レオン:最近うちの妹がひどいんだが・・・・・・みなさん、↓↓↓↓の評価ポイントを「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にしていただけたら! ぜひとも、ぽちっとクリックを! ブクマも、感想も、レビューも、待ってますから! よろしくお願いします!



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