聖女の伝説(18)
エイフォン:ところで、モンスターに襲われていた村はどこの村なんだ?
レオン:そういえば、どこの村とは言われてない。
エイフォン:ひょっとして、アイン殿の領地となったフェルエラ村なのでは?
レオン:まさか? 自分が領地として受け取った村の危機に偶然やってきて解決して救う? そんな都合のいい話なんてある?
エイフォン:なるほど。そんな都合のいい話はないだろう。
レオン:そうそう、ないない。みなさんは第18話をどうぞ。
エイフォン:・・・そういえば、こういうものを「ふらぐ」というのではなかったか?
おれと姉ちゃんと戦闘メイド(見習い)部隊……とユーレイナ……のところへ村から人々が集まってくる。
たぶん、姉ちゃんが範囲型回復魔法をかけた、木の柵の向こうにいた人たちだ。
先頭の人がさっとひざまずくと、付いて来ていた人たちも一斉にひざまずく。男性ばかりで、女性がいない。戦っていたんだから、そういうのは当然なのかもしれない。
こっちはとりあえず、おれ以外はみんな女性……っていうか、ユーレイナ以外はみんな女の子なんだけどな。
「……村の危機に際し、ご助力頂き、誠にありがとうございました。私はこの村を預かるイゼンと申します。ご覧のようなありさまで十分な歓待をできる訳ではございませんが、どうぞ、村へ。
ところで、いずれの神々の御使いさまでございましょうや?
御名を問うても御無礼でなければ、教えて頂けると一族の誉れにございます。どうか」
あ、村長さんか。
ここの村長さんは、『はじまりの村』の村長さんよりちょっと年上くらいかな。
でも、「神の御使い」って……何ソレ? どういうこと?
姉ちゃんがちらりとおれを見る。
目で、アイン、答えなさいと言っている。
答えようがないんだけどな?
「そのような大した者ではございません」
「いえ、神々の御使いさまは子どもの姿をとると、神殿での伝承では伝わっております。また、神々の軍勢は美しき少女騎士たちにて構成されているとも伝わっております。どうか、われらの村に祝福を」
「あ、そういえば……」
神話の学習で確か、そういうのがあったな。
人間の本当の姿を見抜くため、神々の御使いはその力を伏せ、油断させるため、子どもの姿で現れる、だったっけ。
あと、太陽神と火の神との戦いで、火の神の軍勢を大きく打ち払った戦乙女の軍勢はみな少女の姿であったと…………これ、戦の女神イシュターがえいかっぷ女神なことがちょっと間違って伝わってるだけなんじゃ……。
……いや、胸のサイズに関係なく、大変凛々しい女神さまでございますが何か問題でも???
胸の好みはそれぞれだよ、それぞれ。うん。そこで不毛な争いはしないのがいい。
「大青羊は、ケーニヒストル騎士団が二十数年前、壊滅的な打撃を受けたことで知られる恐るべき魔物にございます。
そして、それに続けての『竜殺し』。全てを貫く光魔法と目にも止まらぬ見事な剣技。まさに、勇者に剣技を授けたという伝承の通りでございました。
先ほどの戦いが人の手によるものではないことは明白。
……恥ずかしながら、私はこの村を預かる身であるにもかかわらず、村を守ることも、支えることも、十分にできてはおりません。
何卒!
どうか! どうか!
せめて、この呪われたフェルエラ村に神々の祝福を!」
ああ、ケーニヒストル騎士団がねぇ。やっぱそうだよな。レベル低いもん、この世界の騎士たちは。レベルだけじゃなく、スキルの使い方もな。アオヤギの相手なんて、たぶんできねぇよな。
神々の御使いが子どもの姿で勇者に剣技を授けたってのも、神話の勉強にあったよな。これ、たぶんプレーヤーマニュアルの予備動作の説明で描かれてるキャラが2頭身だからじゃね? なんか可愛らしく描こうとして、その結果として予備動作がよくわかんねぇんだよな、アレ。流用されて『れおん・ど・ばらっどのでんちぇちゅ』のSD4コマになってたけど…………って、え?
「ここ、フェルエラ村なんですか!」
「はい、御使いさま。ここはフェルエラ村にございます」
「あ、いや、もうその御使いとかのくだりは別にいいですから……」
「は?」
首をかしげつつ目を見開くという器用なマネをした村長さんに、おれはまっすぐ視線を向けた。
「フェルエアイン・ド・レーゲンファイファーと申します。ケーニヒストル侯爵閣下より男爵位を授かり、ここ、フェルエラ村を領地として与えられました。
代官の方を、筆頭執事に任じられると閣下からは聞かされておりますが、どちらにいらっしゃいますか?」
「だ、代官は私でございます。
は?
御使いさまはレーゲンファイファー男爵でございますか?
確かにそのような命令書は届いておりましたが、閣下は、この村に神々の御使いを派遣された、と?」
「だからそのくだりはもういいですって。私は御使いなどではありません。そうですか、代官はイゼン殿でしたか。では、今日からはこちらでお世話になります。みな、長旅で疲れていると思うので、休める場所に案内してもらえると助かります」
「は、はい。すぐにでも!」
立ち上がって、てきぱきと指示を出すイゼンさん。
これはかなり有能な人なのでは?
でも、こんなところに派遣されたってことは、何かあるのかな? やっぱり?
「イゼン殿、紹介いたします。こちらはアラスイエナ・ド・ケーニヒストル侯爵令嬢です。侯爵閣下のご養女となられた方です。実は私の実姉でございます」
「聖女さまは侯爵閣下のご養女さまでございましたか……しかも、領主さまの実姉と……私はイゼンと申します。どうか、お見知りおきを」
「アラスイエナです。これからよろしくお願いしますわ」
ええと、あとは……。
「こちらは姉の護衛のユーレイナ。ケーニヒストル騎士団から派遣されております」
「ユーレイナだ。よろしく頼む、イゼン殿」
「イゼンと申します。こちらこそ、よろしく」
「しかし、言葉だけで受け入れようとするのは早計ではないか? 馬車に発令書と身分証明書が用意してあるが……」
「ほう、武官の言葉とは思えぬ。あれほどのことを為し得る方をただ人だと思うか? 証明書など目の前で起きた奇跡の前に意味などなさん」
「それこそ文官の言葉ではあるまい?」
「何を?」
「なんだと?」
……仲、悪ぃなぁー、こいつら。武官と文官の確執ってヤツか?
「……あの、仲良く、してくださいね?」
おれがそう言うと、にらみ合っていた二人が慌てておれを振り返る。
「申し訳ありません、フェルエアインさま」
「し、師匠、今のはこいつが……」
「イゼン殿、アインでかまいません。そう呼んでください。ユーレイナさん、次に師匠と呼んだら、騎士団に送り返して別の人を頼みますからね?」
「はっ……では、公的な場でのみ、フェルエアインさまとお呼びいたします。日頃はアインさまと呼ばせていただきますので」
「そ、そんな、しし……アインさま、それだけは! それだけはお許しを!」
「だったら仲良く。頼みますよ、ユーレイナさん」
なんだか不安になってきたんだけど、気のせいじゃないよな、これ?
村長ではなく代官だったイゼンさんの案内で、村の中を進んでいく。
いくつかの家が見えるけど、ちょっといたんでる? 使われてないのかな? でも、懐かしいよな。小川の村のうちも、あんな感じだった。隙間風が入ってきて……。
「あれは、ひょっとして、空き家ですか?」
「気づかれましたか? フェルエラ村では毎年、あのような魔物の襲撃が二回起きるのです。そのせいで死者も多く、空き家がどうしても出てしまうのです」
「あれが、年に2回…………あ、空き家はふたつ、使わせてください。ひとつは一緒にやってきた商会が店を開きたいというので貸し与えます。もうひとつは私と姉で使います」
「商会? でございますか? このような辺境に……いえ、すぐに契約書を準備いたします。しかし、アインさま、空き家の必要はないと愚考いたします。領主館を代官所として使わせて頂いておりましたが、私は使用人室で寝泊まりしておりましたので、問題なくアインさまが領主としてお使いになれます。アラスイエナさまのお部屋も準備できますので……」
「いえ、領主館はそのままイゼン殿がお使いください。私と姉はもともと平民で、ああいう家の方が落ち着くんです。ああ、連れてきた使用人は領主館で働かせますので」
「は、はぁ、しかし……」
「もちろん、領主としての執務は領主館を政庁として行いますし、どなたか、貴族籍の方がいらっしゃったら、領主館でそれらしく寝泊まりをします。ここが辺境だと聞いて、のんびり姉と過ごせると二人で喜んでいたのです。私たち姉弟の小さな願いを叶えてください」
貴族の来客なんて、来そうもないけどな、こんな遠くまで。
それよりも、心配なのはそこじゃねぇし。
「そこまでおっしゃるのでしたら……」
「それよりも、先程、年に2回、魔物の襲撃があるとおっしゃいましたね?」
「はい。今回は、今まで以上に大青羊の数が多く……」
「それでは、木の柵の防壁ではもたないでしょう? 石垣に作り変えなければ」
「フェルエラ村にはそのような予算があるはずもなく……」
「予算の心配はいりません。ハラグロ商会に頼んですぐに手配を…………商会の方は……」
「ここに。すぐお近くに控えておりますれば」
うわっ!
びっくりした!
忍者か? 忍びの者か?
まあ、ちょうどよかったけど。
「村の外壁を石垣にしたいので、大至急、それが可能な資材と技術者、あと働き手を集めてください」
「アインさま! そのような、何百万マッセと必要になることは……」
「いいんです。それが必要なら用意すべきですから。村人の命がかかっているのでしょう? 絶対に必要なものです。では、急いで、半年で間に合いますか?」
「必ず間に合わせます。ご安心を……代官殿、あなたとはいずれゆっくりお話を。我々と話が合いそうですので楽しみにしております……『リタウニング』」
そう言って、深々と礼をしたハラグロ商会の男性が音もなく消えた。
あ! リタウニング! あん時の奴隷職員の人だったのか! ……っていうか、契約書! 口約束じゃん! 支払いどうすんの? いや、ちゃんと払うけどさ! これって大規模事業だよな? あ、メイド服!? メイド服の注文忘れてた! メイド服ーーーーっっ!!
「い、今のは、伝説の冒険商人の御業……」
「……メぃ……が、外壁工事の契約書を準備しておいてください。金額は空欄で」
「は、はい。作っておきます。しかし、本当にこの村ではろくな稼ぎが……」
「一か月で、なんとかします。っと、その前に、これに必ず目を通しておいてください。部下もいると聞いていますが?」
「一か月で? あ、いえ。部下は3名、おります。後ほど、紹介いたします…………これは…………『メフィスタルニア死霊事件に関する一考察』、で、ございますか?」
「よく読んで、部下の方にも回し読みを」
「はい。必ず」
ちょうど、その話を終えた瞬間、領主館と呼ばれる屋敷がはっきりと見えた。
それは、なんだろう? 世界遺産とかで紹介されそうな、貴族の洋館。というかもうこれ宮殿?
なんていうか、あの10円玉にある左右対称っぽい建物、あれを洋館にした感じ。メフィスタルニアでヴィクトリアさんやエイフォンくんがいた屋敷よりもでけぇ気がする。たぶん気のせいじゃねぇよな?
とっても立派な、なんでこんなに広いのが必要なんだ、と思うような。ここ、辺境の村だよな?
こんなもんを建てたから、予算が足りなくなって反逆したんじゃねぇの?
そんなイメージから、おれの領地改革は始まったのだった。
レオン:都合のいい話、ありましたね・・・・・・。
エイフォン:ああ、まさか、ここがフェルエラ村だったとは。
レオン:反逆の領地、でしたっけ。
エイフォン:あのような魔物の群れに年に二度も襲われるのであれば、反逆も起こしたくなるというものだろう?
レオン:そういうものなのかな・・・・・・ではみなさん、↓↓↓↓の評価ポイントを「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にしていただけたら! ぜひとも、ぽちっとクリックを! ブクマも、感想も、レビューも、待ってますから! よろしくお願いします!
エイフォン:すでに『聖女』と呼ばれて・・・・・・イエナ殿にはよく似合う呼び名だ・・・・・・。
レオン:・・・・・・エイフォンって、確かイエナ義姉さんに往復ビンタもらってたような?




