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アインの伝説(62)

ラム:・・・・・・シオンは、どちらに?

バッケン:いねぇな? どこいった?

プラン:そっとしておいてやってくれ・・・どうか、第62話を。







 魔宰相の暗殺。


 これまでの話を考えたら、この戦争を終わらせるという意味で、必要条件かもしれない。


 なんといっても、人間に対する憎悪みてぇなモンがたぶんハンパねぇんだろうし。


 庭で話すようなことじゃないなと、与えられた部屋に戻る。


 姫さまと二人きりにさせるワケにはいかんという決死の顔をしたオルトバーンズが生まれたての子鹿のように足をぷるぷるさせながら立ち上がろうとしたので、あまりにも残念過ぎるイケメンおじさんに見えて、その哀れさから月の女神系回復魔法を使った。


 すんごぃ悔しそうな顔でお礼を言ってたのもちょっと笑えた。


 …………今から笑えそうにない話になるだろうから、和むわぁ。


「2つ、聞いておきたい」


「なんじゃ?」


「魔王……『あのお方』ってのは、どっち側なんだ? それと、どうしてビエンナーレ・ド・ゼノンゲートに依頼しない?」


「あのお方は……わらわたちに興味がないというか、関わろうとなさらぬ。何を言っても『よきにはからえ』としか、お答えにならぬ。王城よりも神殿にて祈りを捧げることを好んでおられるし、政には触れようとなさらぬ。この戦を止める気もなければ、ニンゲンを滅ぼす気もない、としか言えぬのじゃ」


 …………魔王暗殺は意味がなかったのか? ひょっとして? いや、でも、なんでそんな感じなんだろ?


「叔父上に頼むと無理を強いることになりかねぬ。もともと、ガイアララの者同士での暗闘ではあるがだからこそニンゲンであるそなたに頼みたいというのもある。

 それに、何より、叔父上は、暗殺、というものを強く忌避しておるのじゃ。その、クィン姉さまから聞いておるかもしれぬが、わらわの母上が、叔父上をかばったことで暗殺者によって殺されたのじゃ……」


「くわしくは、聞いてないけど、ある程度のことは、知ってる」


 クィンではなく、王都で殺した長耳の男からだけどな。


「そういや、半端者って、言われてたな……?」


 わらわっ子が急に強いまなざしをおれに向ける。


「それは違うのじゃ。そうではない。叔父上は『先祖返り』の『覚醒者』じゃ」


「先祖返り? 覚醒者?」


「ゼノンゲートの家はいつのことやらわからぬほどの昔、ニンゲンの血が入ったことがあるとされておる。そしてそれを隠しておらぬ。そのことで半端者だの混ざり者だのと口汚く罵る者もいるが、遡ればどこの鬼族の家も本当は似たようなものじゃろうに。

 それとは別に、生まれた時、叔父上にはツノがなく、鬼族ではなくニンゲンと同じ姿だったと聞く。わらわはまだ小さくてその姿はあまり覚えておらぬがの。

 確か10歳だったか、そのくらいの歳で突然ツノが生えて鬼族の姿を得たそうじゃ。

 昔から、このような形で『先祖返り』として生まれて後に鬼族として『覚醒』した者は、他の鬼族よりも強い力を得るとされておる。

 だが、ニンゲンの姿をしておった叔父上は鬼族からも長耳族からも忌み嫌われ、色々と辛い思いをしていたそうじゃ。それが『覚醒者』となったものだから、復讐される前に、まだ力を得る前の叔父上を亡き者にしようと動いた。その結果、母上は叔父上を守り、亡くなられたのじゃ」


 …………そんな過去が? ガイアララってヘビーだよな? いや、あっち側の色々がヘビーではないとは思わないけどな。思わないけども。エイフォンくんの人生とか、レオンやリンネも、言ってみればおれと姉ちゃんだって、かなりヘビーな気がするし。エイフォンくんなんて、マジで闇落ち寸前だったしなぁ。


 でも、そうすると、魔公爵は、ニンゲンの血が入ってると言われてる侯爵家の姫を娶った? そういうことになるのか? 魔族内の融和でも図ろうとした? 魔公爵本人ではなく、その父とかの意思だろうか? そして、その姫を失った? 差別主義者のせいで?


 ゲームだとそこでさらに娘も失うってことだろうか?


 こう、ガイアララの誰かが強くなる過程が陰惨なのはどうにかなりませんか? 運営にクレーム入れたい。あ、いや、姉ちゃんやレオンも考えてみればそれは同じか? 強くなるってそういうもんなのかな?


「それから叔父上は力をひたすら求めて自らを鍛え抜いたと聞くが……」


「あー、ごめん、ランティ。悲しい話をさせて」


「……いや、よい。母上はとてもわらわに優しかったが、それも小さい頃のこと、本当はあまり覚えてはおらぬのじゃ」


 ……わらわっ子も、大変な人生送ってんなぁ。鬼生か。いや、おれもたいがい大変だったけどな。大変だったけども。


「それで、どうなのじゃ? 考えてもらえぬか?」


 魔宰相の暗殺の件ね。


 うーん。


 まあ、問題なしのもーまんたいだ。


 どう考えても、話し合う余地はなさそうだしな。それに、間違いなく、講和の最大の障害になる。

 同情? しないワケじゃねぇーけど、それだけだろ。


 あっちも人間を滅ぼすつもりで動いてるんなら、そこはもうお互い様だ。今の人間がエロフ奴隷を性的虐待したワケじゃねぇしな。


 長生きな分、人間がそういう過去を忘れてることにすら、腹を立ててそうだけどな。


 魔宰相の方も、人間が直接敵となって襲い掛かった方がやられても成仏しやすいだろ、たぶん。いや、恨み辛みで成仏できないか? ま、どっちでもいいや。


 何より、確認したい。日記とやらを。おれの予想だと、これはちょっと……。


「引き受けるよ」


「………………すまぬ」


「気にするなよ。それより、日記とやらが見たいかな」


「図書室の禁書庫にあるのじゃ。図書室へ向かおう」


 おれはわらわっ子に先導されて、与えられた部屋から公爵邸の図書室とやらへ歩いていった。










 禁書庫とやらに入ったわらわっ子は、護衛のオルトバーンズに重そうな本を一冊、運ばせていた。本なのにまるで奴隷のように鎖がつながれている。表紙はなんか金ぴかだし、派手だ。これが日記? そういうもんなんだろうか?


 そんな重そうな本を斜めに置いて、鎖をつないでいる。なるほど、持ち逃げされないようにするための鎖か。ものすごく巨大な譜面台みたいなところの前で、わらわっ子が豪華なその本の表紙を開いた。


「どうせ、見てもわからぬと思うがの。長耳族の研究者でも、古代神聖帝国語は読めぬ。わずかに、闇の女神の御業を伝える言葉が口伝で受け継がれてはおるようじゃが、その言葉の意味も、誰も知らぬらしいのじゃ」


「へー」


 …………おれにとってはただの日本語なんだけどな。


 わらわっ子の横に進むと、すっとその本の前をわらわっ子が譲ってくれる。


「……座って、いいか?」


「かまわぬ。オルトバーンズ、わらわにも椅子を」


 ナチュラルに人を使うよな、高貴な人ってさ。


 まあ、それはともかく。


 それを見ておれは、ごくり、と唾を飲み込んだ。


 確かに、古代神聖帝国語……つまり、日本語が、そこには書かれていた。


『こんなことになるなんて考えてもみなかったけど、

こうなったからには記録を残すってぜったい大事な

ハズ。

 これも、いつかきっと誰かの役に立つべさ。うん。

 いつか、ウチとおんなじようなことになって、こ

こに来ちゃった人のために、これを書き残しマス。

                    渡紫音』


 ………………さっき、古代神聖帝国語って聞いて、名前カブるからまさかとは思ったけど、これマジか。そうきたか。そういうことか。なんかいろいろつながってきた。レオンのこととか、神々の啓示とか、もっと早くに気づいててもおかしくなかったのかもしんねぇ。


 渡紫音。


 それは、あの、連続技の祖にして、ゲーム『レオン・ド・バラッドの伝説』で最速クリアを達成した剣聖と呼ばれるプレーヤー、サワタリ氏……の、中の人、だ。









 おれがサワタリ氏の中の人、渡紫音と会ったのは、MMOイベント『死霊都市の解放』で組んだ野良パーティーの打ち上げ兼オフ会だった。打ち上げオフ会を企画したのは社会人だったのんびり聖騎士のジリーさん。リアルでは内藤さんだ。名前は聖。内藤聖さんは、いろんなゲームで聖騎士プレーを楽しんでるという、おっとりしたおじさんだった。


 そのオフ会では最年少の当時中学2年生だったおれと、次点の高校2年生だった渡紫音。


 彼女は、そのオフ会に、左眼に眼帯を付けて現れた。肩にちょいとかかるくらいの茶色に見える黒髪ボブカットで、おムネさまはまな板よりちょいとマシ。中2のおれより背は低くて、そのことにムムムとうなっていた。


 なんで眼帯を付けてるのか、FF上等の賢者(このFFはあのRPGではなく、フレンドリーファイアです)でスペルプレイヤーでもある奥多摩梨音さんに質問されて、このオフ会のために片目だけカラコンを入れてヘテロクロミアっぽくしようとしたらものもらいができて眼科に行くハメになったと答えた瞬間、ある意味でドン引きしたのを覚えている。


 あ、スペルプレイヤーというのは、MP2倍消費すれば起句だけで魔法スキルが使える『レオン・ド・バラッドの伝説』で、わざわざ呪文を唱えて使うプレーヤー、もしくは、全然関係のないオリジナル呪文を唱えて最後に起句だけで魔法スキルを発動するプレーヤーのことをいう。奥多摩さんは後者で、野良パで「魔法は任せろ、時間を稼いでくれ」が口癖だった。要するにチュウニな人だ。ジリーさんをはじめとして、ノリノリなメンツだったから許されてたけど、あれはフツーは通らねぇよな。


 そのオフ会では年上ばっかで、唯一の年下であるおれに、渡紫音は色々と上から物を言う感じだった。しかもコアな内容で。まあ、プレーヤーとしては最高峰の人なので、悪い気はしなかったけどな。しなかったけども。一番歳も近かったし? でも身長はおれのんが高かったけどな?


 帰ったらリアルサワタリ氏に会ったと友達に自慢しようと思ってたんだけど、内藤さんが「サワタリ氏の中の人がJKって知ってんの、おれたちだけなんて、それ、かっこよくね?」と言った瞬間、確かにそれはいいかもと思って、誰にも自慢しなかったことを覚えてる。


 今から考えると、うっかりリアルバレしそうな中学生のおれを内藤さんがうまく操ったんだろうなとは思うけどな。実際その通りだったし。


 いや、それにしても、あの変人で廃人で、それでいて天才プレーヤーだった人が2000年前の勇者シオンって…………。







シオン:・・・・・・まだ、せーふ? ( 一一)

バッケン:お、帰ってきたか?

ラム:どうかしましたか、シオン?

プラン:・・・・・・本当に、すまない、シオン。

シオン:プランなんてもう知らないからぁ・・・・・・うう、次回に間違いなく地獄が待ってるとわかっていてポイントくれくれは無理だべさ~(ToT)/~~~

バッケン:そんじゃよ、↓↓↓↓の評価ポイントを「☆☆☆☆☆」から「★★★★★」にしてくれよな。頼むぜ!

ラム:ブックマークもして頂けると嬉しいです。感想返信は本当に大変申し訳ありません。執筆ペースも落ちていますが、どうかお許しを。




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― 新着の感想 ―
[一言] まさかのサワタリ氏!腐女子だったんだね。
[一言] そっちかー そら強えーわ勇者シオン
[良い点] 更新お疲れ様です。ここに来て卵が先か鶏が先かな状態ですね。
感想一覧
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