会頭の役目(8)
バーデンローゼ伯爵領にある領都バーデンの港には、オーナーからの護衛が派遣されていた。
「国境なき騎士団、副団長のオルドガと申します。この先の護衛はお任せください」
少年から青年へと姿を変えようとしている、ちょうどその狭間にあるような、はち切れんばかりの若さが老いたわしには眩しい。
国境なき騎士団、副団長オルドガ。確か、『冒険者』の天職を得た弓使いだったはずだ。剣もかなり使えるという話だったというが。
「ハラグロ商会にはフェルエラ村が本当にお世話になっております。会頭のデプレさまとお会いできたこと、とても嬉しく思います」
「オルドガ殿、こちらがレオン殿、そしてレオン殿の母、アンネ殿です」
わしは二人をオルドガ殿に紹介する。
「レオン殿は訓練好きでしてな。フェルエラ村まで、機会があればぜひ手合わせをしてやってください」
「『勇者』さまとの手合わせとは光栄です。ぜひ、時間を取りましょう」
手合わせができると知ったレオン少年が目を輝かせる。その横で母であるアンネ殿は小さくため息をついていた。この子はもうしょうがない子ね、という感じだろうかな。
ファーノース騎士団にも負けないと豪語したタッカルが唯一無理だという国境なき騎士団だ。レオン少年のよい訓練となることだろうな。
これまでの道中と比べて、最後の馬車旅は本当に平和なものだった。
フェルエラ村に、その関係者に手出しする者など、この近くには存在していないのだろうな。
どこかの町に宿をとったり、野営したりする時に、オルドガ殿をはじめとする国境なき騎士団の面々がレオン少年を相手に手合わせをしてくれる。
中にはレオン少年よりも年下の少女もいるようだが、レオン少年は完全に打ち負かされ、国境なき騎士団の誰一人として、レオン少年が勝てる相手はいない。
最近ではタッカルたちと互角に戦えていたというのに、国境なき騎士団が相手ではまるで子ども扱いだ。
さすがはオーナーのところの騎士団だと思いながら、その強さに怖れも感じる。
また、レオン少年が悔しがる姿も興味深い。
悔しがっているが、それと同時に、喜んでもいるからな。
自分よりも強い相手との戦い。それを喜ぶ姿。これが、いつかは全てを倒す力を得るという『勇者』の本質なのだろうか。
そんな十日ほどの旅の終わりに、ついにフェルエラ村が見えてきた。
あれがフェルエラ村ですと言われて、少し頭が混乱した。
見たことがない。
一度、ファーノース辺境伯領を回ったことがあるが、そこで見た北の砦などおもちゃのように思える巨大な城壁と尖塔。
これが、村?
……完全に城塞都市ではないか?
いや、ガイウスの指示でタッカルが動いてフェルエラ村の外壁を造ったと報告があったな?
外壁? これは外壁などという規模ではないだろう?
…………こやつら、オーナーを独立させて国王にでもする気じゃなかろうな?
そんなことはあるまいと思いつつ、同時にそうかもしれないとも思ってしまう。
商会の職員たちの狂気を見た気がしたのだった。
これは、わしがこやつらを抑えねば、オーナーが反逆者にされかねんな!?
この老いた身でまだまだ引退などできんのか。
わしはそう考えて、ふと笑ったのだった。




