会頭の役目(5)
※残虐な描写がございます。苦手な方はとばしてください。
タッカルたち4人の奴隷職員が公都にそろい、わしは妻とともに、オーナーから頼まれた母子を連れて出発する。
箱馬車を用意したのだが、母であるアンネ殿が畏れ多いと言うので、幌馬車に変えた。そのこともアンネ殿は負担に感じているようだが、これ以上は気にしてはいられない。
王弟殿下は、公爵領の先にある他領の町の入口まで、護衛の騎士をつけてくださった。
ハラグロ商会と争うつもりはないというのは本気なのだろう。
タッカルなどは護衛がいつ豹変するか分かりませんなどと警戒していたが……。
そこから先は、3度、襲撃を受けた。
盗賊が十数名など、タッカルたちの敵ではなかったので問題はない。
だが。
「3度目の襲撃では、ずいぶんと手練れが増えております」
「本当か?」
「盗賊に偽装した兵士、あるいは騎士の可能性もございますが……」
「次に襲撃を受けた時、生け捕ることは可能か、タッカル?」
「不可能ではないかと思いますが、かなり難しいかと」
「できれば生け捕るようにせい。尋問が必要となろうからな」
「はっ」
「それと、死体はできるだけ潰せ。死体に騎士鎧など着せられて、騎士殺しの濡れ衣を着せられてはたまったものではないからな」
「わかりました」
タッカルたちが指示通りに死体を切り分け、顔面を潰し、元々それが誰だったのかも、そもそも人間だったのかも、わからないようにしていく。
「王都の騎士団を相手に勝つ自信はあるか、タッカル」
「どこの騎士団が相手でも…………ああ、いえ、国境なき騎士団以外であれば」
国境なき騎士団とは、オーナーが結成したフェルエラ村の騎士団だ。世界にその存在を知られてはおらんからな。知られたら一瞬で世界最強の座を奪うであろうよ。
いや、オーナーとわしらが敵対するようなことはない。負ける心配どころか、戦う心配すら不要。
「ファーノース騎士団が相手でもか?」
現状、知られている中で世界最強の騎士たちは辺境伯領のファーノース騎士団だと考えられる。神聖国の聖騎士団も強いが、それは数の強さだろう。まあこの二つが戦えば、最終的には騎士の数で聖騎士団が勝つのだろうが。
「…………実は、大盾と槍の販売でポゥラリースを訪れた時に、その効果を辺境伯さまに実感して頂こうと、手合わせをしたことがございます」
「報告を受けておらんぞ!? オーナーが書かれたアレが効いたとしか?」
「商いの上での駆け引きにおける些事かと……」
「いや、だが…………まあ、よい。それで?」
「我らが大盾と槍を使えば、同数のファーノース騎士が相手でも余裕がございました」
「なんと」
「倍数では敵いませんでしたが」
それは、そうだろう。
相手は戦の女神に連なる御業をもつ者たちなのだ。
そもそも倍数のファーノース騎士を相手に商人がなぜ手合わせをするのだ?
いや、今はそのおかげで助かっておるな…………。
「となると、襲撃してくる騎士どもの数次第、か」
「盗賊ども、です。会頭」
「ああ、そうだな。盗賊だ。だからどのような目に遭わせてもこちらに罪はない」
そう。
騎士を盗賊に偽装するのなら、こちらは何の遠慮もいらん。
叩き潰してやろう。
4度目の襲撃で3人の盗賊を捕らえて、尋問を行った。
尋問している者が問いに答えなかったら、別の者を傷つける、というハラグロ商会では共通理解となっている尋問方法だ。
今回は手足の指を、関節ごとに切り落としていく。
指ごとだと一人あたり20本しかないが、関節ごとだとその倍以上、尋問が可能になる。
「もうやめろぅっ! わだじば騎士だぁっ! ごんなごどをじでぇ、許ざれるとおぼっでいるのがぁ!」
盗賊の一人が尋問を逃れるために騎士だと名乗った。どうやらタッカルの予想通り、本当に騎士が送り込まれているらしい。
「尋問を逃れようとして騎士を名乗るとは不届きな盗賊め。おい、こいつは盗賊だな? 騎士などではないな?」
「し、知らねぇっ! 知らねぇよっ!」
「ぐああああっっっっっ!」
知らないと答えた者の隣にいた男の右手中指の第二関節が切り落とされる。
「次はおまえに聞いてみようか? こいつは盗賊か、それとも騎士か、どっちだ?」
そうやって尋問を続けていく。
最終的には、騎士だと名乗った者も、自分が盗賊であることを認めた。盗賊ならば、尋問でどのような目に遭わせても問題がない。これでよい。
三人とも、足の指を2本残したところだった。第一関節から先は失われているがな。
次に入った町の政庁へ、3人の盗賊を突き出した。その場で盗賊であることを確認し、この件に問題がないことを念押しした上で次の町へと向かった。
あれは本当に騎士だったのだろう。だが、政庁において公式に盗賊と認定された。これで二度と騎士には戻れまい。まあ、戻れたとしても、そもそも手の指もなく騎士として剣を握ることはできないだろうがな。
あの騎士はわしらを恨むか? どうせ恨むならくだらぬ命を下した己の主を恨んでもらいたいがな。
そして、その町以降、わしらの馬車が襲撃を受けることはなかった。




