会頭の役目(1)
「ゆ、ゆう、しゃ、はじまりの村、レオンの天職は、『勇者』である! 『勇者』だ! この神殿で『勇者』は誕生したのだ!」
呼び出しの神官ではなく、ここ公都の神殿の長である司祭長が自らそう叫んだ瞬間。
わしはオーナーが神々の啓示を受けているのだと確信した。
そして、これが。
この『勇者』を守ることがわしの役目なのだと。
オーナーに与えられたわしの役目なのだと悟ったのだ。
神々の啓示。
それは伝説の『ギルドマスター』バッケングラーディアスの口伝……口伝とはいうものの、今ではもう書物として書き残され、各地の商人たちに大切に受け継がれているのだが……において、何度も出てくる言葉。
曰く、勇者シオンの受けた神々の啓示に従い、我々は北の大地を目指した、など。
曰く、勇者シオンは神々の啓示を受けて、光の剣を手にした、など。
曰く、神々の啓示を受けるシオンはまさに勇者だと言える、など。
とにかく、バッケングラーディアスの口伝には、勇者シオンが受けていた神々の啓示というものがたくさん出てきて、それによって勇者シオンは世界を平和へと導いていくのだ。
オーナーもこの神々の啓示を受けているとしか思えない。
そうでなければ、『勇者』となる少年が『勇者』として洗礼を受ける前から必ず守れという指示は出せないはずだ。
「『勇者』さま、こちらへ」
洗礼を終えて、『勇者』となったレオン少年が、のぼっていった壇上への階段とはちがう別の階段へと導かれている。
いかん!
わしはすぐに立ち上がり、母であるアンネ殿、そして商会の者たちを引き連れ、聖堂内を回りこんだ。
「神官、レオン少年をどちらへ連れていくおつもりか?」
「『勇者』さまには、『勇者』たるにふさわしい力をつけて頂かねばならぬ。この神殿ならばそのための訓練ができる。すぐにでも訓練をしなければ、『勇者』さまが『勇者』としての力を振るう前に、その命が危険にさらされるかもしれぬのだ。下がるがいい」
「ほう。このデプレに下がれと?」
「何? デプレ……ハラグロ商会の会頭、デプレ殿か?」
「そうだ。レオン少年はハラグロ商会が預かっている。全ての後ろ盾に我々がなる。それとも公都の神殿はハラグロ商会の寄付金は1マッセも必要がないとでも言うのか?」
「……下賤な。すぐに金の話を」
「すぐに賄賂でなびく神官に言われたくもない。これ以上の必要のない拘束はレオン少年を誘拐しようとしているとみなす」
「これだから商いの道の者は……」
悪態をつきながらも、神官はレオン少年に触れていた手を放す。
「レオン殿、こちらへ」
「デプレさん……」
「どうかなさいましたかな?」
「ボクは、強くなれるのなら、行ってみたい」
「え?」
神官がしめた、という顔をする。
「なれますとも。神殿の聖騎士たちはどこの騎士たちよりも強いと評判です。彼らとの訓練は『勇者』さまにとって必ず役に立ちます」
確かに、神殿の聖騎士たちの強さは評判通りだ。ただし、ファーノース辺境伯領の騎士たちを除くが。
「レオン殿、我々も同行します。よろしいか? アンネ殿も?」
「ええ、もちろんです。同行いたします。レオン?」
「はい、義母さん。でも、そんなに心配しないで」
「もう……」
この二人、実際は伯母と甥だとオーナーからは聞いている。
二人の関係は良好だと世話役からは聞いていたが、レオン少年は冒険精神が強いのかもしれない。
神殿の聖騎士との訓練の後、どうやってレオン少年をハラグロ商会へ呼び戻して保護するべきか、考えておかなければ……。




