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村の青年のはるかなる夢(4)




 真夏。


 黄の半月の12日。


 講義を終えて屋敷へ戻ると、そこにはイゼンさまが待っていた。


 オレたちを迎えにきたという。


 そして、オレとオルドガはイゼンさまの魔法でフェルエラ村へと戻った。


 どうやら、イゼンさまはアインさまと同じ魔法を使えるようになったらしい。いったい、どれだけ魔物を倒したのだろうか……。


「祭りで大切な話がある」


 イゼンさまはそう言うと、衝撃の真実をオレたちに告げたのだった。










 村の夏祭りはアインさまが行うように指示したものらしい。


 本来、お貴族さまたちは、この時期は領都に集まるものだという。しかし、アインさまは領地であるこのフェルエラ村に残り、領都ケーニヒストルータには行かなかった。実の姉で、ケーニヒストル侯爵家の令嬢でもあるイエナさまも、村に残っている。義妹のヴィクトリアさまは領都へ一時帰宅したらしい。


 村をにぎわせていた各地の商人たちも、この時期はそれぞれの領都へと戻っていく。それだけ領都に人が集まり、そこでの商売が重要になるのだ。


 ハラグロ商会はそんなことを気にした様子もなく、フェルエラ村に居座っている。そもそもこの村に本店があるらしい。


 つまりこの村には今、村人とハラグロ商会しかいない状態だった。


 夏祭りの会場は領主館の庭だった。


 いつもなら剣や槍の訓練で使う場所だが、祭りとなると、いくつものテーブルの上に、たくさんの食べ物や飲み物が用意されて……本当にこの村は豊かに生まれ変わったのだと実感する。


 食べて、飲んで、そして、笑って。


 こんな幸せそうな瞬間がこの村に生まれるなんて。


 おれたちは本当に、領主に恵まれたのだ。


 その領主であるアインさまが、壇上に立った。


「今年の夏も、魔物の襲撃はありませんでした……」


 そう語り始めたアインさまに、村人たちが注目する。


「……この村から魔物の襲撃はなくなりました。ですが、これは本当に勝利を意味するのでしょうか? いいえ、そうではありません。これは始まりなのです」


 いつもと違うアインさまのご様子に、どうやら長い話になるようだと、村人たちも理解したらしい。


「ここフェルエラ村はケーニヒストル侯爵領の一部です。侯爵領と比べ、その広さは30分の1……いえ、100分の1以下でしょう。にもかかわらず、これまで魔物の襲撃を耐え抜くことができたのはなぜでしょう?

 みなさん!

 私たちフェルエラ村に生きる者は、生き抜くことを目的としてきました!

 それはみなさんが一番知っているはずです。これまで何度、魔物の襲撃によってこの村は踏みにじられてきたか。

 それでもみなさんはこの村を守ろうと! 守ろうと努力してきた! そして、守り抜いた! 魔物と戦い、守り抜く力を手に入れました!」


 そうだ。そうなのだ。


 守る力をつけたから、この村は今がある。


「ですが……力とは、何でしょうか?

 法律や命令などの権力、お金などの財力、そして戦う力である武力。これらはみな、力です。

 そういった力が、どのように使われているか。美しくない使い方を目にしたことはないでしょうか?」


 学園で出会った伯爵の二男の顔が思い浮かぶ。


 あいつがオレやオルドガに嫌味を言う時の顔は……それはもう、醜く歪んでいた。


 あれが、力を美しくない使い方をした姿だろうか。


「貴族や聖職者、大商人など、人の上に立つ者がもつ力を本当に正しく使っているのでしょうか?

 力の使い方を知らぬ者とはいったい何でしょうか?」


 アインさまがぐるりと村人たちを見回す。


「あえて言います。奴らはこの世の「害毒」であると」


 ご自身が貴族であるにもかかわらず。


 アインさまははっきりとそう言った。


 そう言ってくださった。


「力というものは、正しく使われてこそ美しいもの。正しく使われない力は、「害毒」なのです。

 この村のみなさんは今、力を手にしました。

 みなさんはその力をどう使いますか?

 今、私たちは襟を正し、力を使う意味を考えなければなりません。私たちはこの過酷なフェルエラ村を生活の場としながら共に苦悩し、錬磨して今日の力を築き上げてきました。

 全ては守るために。

 この村を魔物の襲撃から守るために」


 本当にそうだと思う。


 守る。


 この一言に尽きる。


 オレたちの力は、守る力なのだ。


「そしてこの村を守れるようになった今、私たちのこの力は、どう使うべきなのでしょうか?

 今、北方では魔物の動きが活発になっています。私と姉が生まれた村も、魔物によってほろぼされました……」


 この話は里山ダンジョンでの特訓の時に、アインさまやイエナさまから、また、リンネさまからも聞かされたことがある。


 魔物の活発化が起きているというのだ。


「いずれ、このフェルエラ村のように、強い魔物に多くの村々が襲われる日がやってくるでしょう。

 その時。

 その時こそ。

 私たちの力が世界を救うのです!

 私はここに!

『国境なき騎士団』の設立を宣言します!」


 村人たちがざわめいた。


 オレとオルドガはこのことは昼間のうちに聞かされていたので知っていた。もちろん、それ以上のことも……。


「フェルエラ村のみなさん! 立ち上がりましょう!

 私たちフェルエラ村の民こそ、選ばれた者であるということを忘れないでください!

 あなたも! あなたも! そして、あなたも!」


 アインさまが村人一人ひとりに、視線を合わせていく。


 もちろん、オレにも。


 その視線を受けた瞬間、心が熱くなるのを感じた。


 きっと、他の村人たちも同じだと思う。


 祭りの会場全体がアインさまの言葉で熱気を帯びていく。


「このフェルエラ村に生きるみなさんは!

 一人ひとりが、今日から騎士なのです!

 みなさんは騎士です!

 誇り高く! 魔物に虐げられた人々を守るために! 守るために戦う騎士となるのです! 私欲ではなく! 人々を守るために戦うのです!

 みなさんは『国境なき騎士団』の一員なのです!」


 腕を高らかに上げたアインさまに応じて、村人たちも腕を上げた。


 祭りの会場には一体感が満ちていた。


「私たち『国境なき騎士団』の団長はスラー! 彼は神殿での洗礼によって『重装騎士』という天職を授かりました! 守るという言葉にふさわしい男です!

 そして、副団長はオルドガ! 彼は『冒険者』という天職を得ました。私たち、フェルエラ村のこの先の挑戦はまさに冒険! それを支えるのにふさわしい男です!」


 イゼンさまから指示されていた通り、オレとオルドガが壇上に上がり、アインさまの横に並ぶ。


 アインさまに向けられていた熱い視線がオレとオルドガにも向けられる。


「フェルエラ村の騎士たちよ! われわれは決して! 決して「害毒」などにはならない!」


 アインさまが叫ぶ。


 村人たちがそれに応じる。


 振り上げられた腕が高々と突き上げられる。


「われわれが世界を守るのだ!」


 そう言われた瞬間。


 オレの夢は決まった。




 オレは一人の騎士として、この世界を守る男になる。




 こうして、フェルエラ村に『国境なき騎士団』は誕生した。







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[一言] 国境なき医師団
[一言] じいくじ○ん
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