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カレー作りの労力が半分になり、罪悪感から解放された話

作者: Y

 私は持病の関係で体力がかなり低い。なので日々の夕食作りが大変だ。

 大変だから、我が家ではカレーを作り置きすることが多くなった。1度に2人前を3日分から4日分作る。


 初めは良かったが、次第にカレーを作ることそのものが面倒だし大変に思うようになった。

 特にじゃがいもの皮を剥くのがストレスだった。ピーラーを使ってもツルツル滑る。


 それでじゃがいもは、買うのをやめた。市販の「揚げる前のフライドポテト」で代用した。


 じゃがいも問題は解決したが、今度は人参と玉ねぎ、肉を切るのが面倒で大変に感じるようになった。


 煮込む工程もしんどい。水が沸騰してから煮込み終えるまでの間、コンロにつきっきりにならねばいけないのが気が抜けなくて、骨が折れる。


 料理上手、家事上手の人にしてみれば「カレー作りぐらい、大したことはない」のかも知れない。しかし体力がない私には、カレー作りは大変な労力の要る作業だった。


 大変だ、大変だとカレー作りのたびに感じていた私は、次第にカレーを作らなくなっていく。代わりに、カレー作りは夫の担当する家事になった。夫の負担を増やしてしまい申し訳なく思うが、どうしてもしんどい。




 ある日、夫が「シャトルシェフ」という調理器具が欲しいと言い出した。

 シャトルシェフは、サーモスが開発した保温調理器具。内鍋で短時間加熱した料理を、外側の真空断熱構造の保温容器に入れて余熱でじっくり火を通す仕組みの鍋である。


 要するに、これを使えばカレー鍋を沸騰させる時間は5分で済むとのこと。5分沸騰させたあとは、鍋を保温容器に入れておくだけで良いらしい。そのまま30分放置すれば、カレーの具材が煮込み上がるという話だ。


 良さそうだねと夫と話し合い、私たち夫婦はシャトルシェフを購入した。カレー作りが楽になったと喜ぶ夫。


 楽なら私もまたカレーを作ろうかな? そう思ったある日、私はシャトルシェフでカレーを作った。カレーを作るのは2年ぶりである。


 具材は市販のカット野菜とカット肉を使ったので、切る工程は一切なく楽だった。ただ、3日分の肉と野菜、全部で900グラムを炒めるのが手間だった。炒めている時、木べらを持つ手がだるくなってきつかった。私は体力だけでなく筋力も低いのである。


「具材を炒めるのが大変だった。やっぱりカレー作りは疲れる……」


 痛感した私は再びカレーを作らなくなり、夫にカレー作りを任せる日々に戻った。





 今年の12月。「家にカレーの材料があり、夫は仕事で忙しい」という事態が訪れた。

 私の方は時間に余裕がある。持病の方も、今日は調子が良い。こんな状態で、仕事で疲れた夫に食事作りを任せるのは忍びない。


 大変だけど、今日は私がカレーを作るか……。


 私は前回カレーを作った際、合計900グラムの肉と野菜を炒めるのに苦労したことを思い出した。


 あれはしんどかったな。カレーって絶対炒めないとダメなのだろうか? もしかしたら、炒めなくても大丈夫なのでは?


 そんな疑念が浮かび、Googleで「カレー 炒めない」で検索。某大手掲示板サイトがヒットした。掲示板には「カレーは炒めなくても充分美味しく作れる」という書き込みが多数あった。


 炒めなくていいのか。ほんとかな?

 不安に思った私は仕事中の夫に「カレー作る時、炒めてる?」とLINEでメッセージを送った。


 夫の返信を待ちながら、引き続きネットで「カレーは具材を炒めなくても美味しくできるのか?」を調べる。やはり「大丈夫」という声が多数だった。


 よし。炒めずに作ってみよう。夫からの返信を待たずして、私はカレー作りに取り掛かることにした。時刻は朝の10時ぐらい。


 まず、ふるさと納税の返礼品である「豚の切り落とし肉300g」をレンジで解凍。解凍しながら「どうせ炒めないで煮るだけなら、解凍する必要はなかったのでは」と気付いたが、とりあえずレンジが「チン」と鳴るのを待つ。


 次に半解凍状態になった肉を、シャトルシェフの鍋にそのまま放り込む。激安スーパーで買った冷凍カット野菜……中身は人参と玉ねぎとじゃがいも……を2袋、計600gをこれも鍋に、凍ったままぶち込む。


 それから水1リットルを鍋に注いで火にかけ、アクを取りながら沸騰させて5分、煮込む。

 5分経ったら鍋をシャトルシェフの保温器にセットし、蓋をして最低30分放置。放置時間は30分以上なら何分でも良い。


 保温器は火も電気も使わないので、放置しすぎても焦げることはない。保温器にセットして放置している時間がそのまま、火で煮込んでいるような状態になる。


 火で煮込むのと違い、コンロにつきっきりでいる必要はない。なので保温器に鍋をセットした瞬間に、意識を料理に向けずに済むようになる。料理がいったん終了するのである。


「……簡単だし、楽だな」


 私は保温器の蓋を閉めながら思った。ここまでにかかった時間は25分ほど。


「炒める工程を飛ばすだけで凄く楽。肉も野菜もカット済みのを使ったから、全然大変じゃなかった。煮込むのもシャトルシェフでほったらかしだし。これだけ楽なら、夫に任せっぱなしでなく、私ももっとカレーを作るようにしようかな」


 鍋を保温器にセットしてからまもなくして、夫からLINEの返信が来た。「炒めていないよ。蒸してるだけ」とのことだった。

 夫の作るカレーは美味しい。その夫が炒めないでカレーを作っているのなら、今回も味は大丈夫だろう。


 10時半頃に保温器の蓋を閉めてから、7時間後。私は保温器から鍋を取り出し、ルウを溶かした。後は5分煮込んでとろみをつけるだけ。カレーができあがった。


 放置するだけなので労力が一切発生しない「保温器に鍋を保温していた時間」を除き、全行程にかかった時間は30分ぐらい。シャトルシェフを使わず、具材も自分で切って炒めていた頃は1時間かかっていたから、単純に時間だけを見ても大幅に労力が減ったことが分かる。


 切るのと炒める工程をすっ飛ばし、煮込むのもシャトルシェフにおまかせで作ったので、労力の少なさは時間以上のものだろう。楽だな、と私は改めて思った。


 肝心の味はどうだろう? 食卓に並べたカレーをひとくち食べる。

 美味しい。全く問題ない。夫も「美味しい」と満足してくれた。


 今回ぐらいの労力で済むのなら、私もカレーを作れる。そう実感した私は、夫に任せっぱなしにせずにもっとカレーを作ろうとしみじみ思った。


 こうして私はカレー作りへの苦手意識を克服したのだった。





 今回のカレー作りで私が学んだことは「大変と感じる料理も食材や道具、工程を工夫すれば大幅に楽になる」ということだ。


 ただ、私が作ったカレーは、肉が煮崩れしてしまっていた。炒めなかったせいか7時間も保温したせいかは不明である(※シャトルシェフでは「保温した時間≒煮込んだ時間」となる)。


 味の方も、味に敏感な方なら「炒めないカレーなんて美味しくない」と感じるかもしれない。グルメでない私には、炒めた場合との違いがよく分からなかったけれども。


 幸い、私も夫も「煮崩れしていようが味に多少の違いがあろうが、炒めなくても充分美味しい」と感じる舌と感性の持ち主だった。だから、今回のやり方で問題ないと思っている。


 これからは体力の低い私でも、夫に頼り切ることなくカレーを積極的に作っていけるだろう。


 これで夫の負担を減らすことができる。

 夫への罪悪感から解放され、安心した初冬であった。

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