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偽りの敗北

「よし、来たか……。お前ら、行け!」

ベルベブブ田中は怪物と化した男子生徒にテレパシーで命令する。

彼らは泣きながら校庭の弓に向かっていった。

「タスケテ……」

「こんな姿はいやです……治してください」

よたよたと弓に向かって歩く生徒達。

「ウガァァァァ……コロス……」

中には理性を失い、互いに戦いを始めている生徒達もいた。

「かわいそうに……。あの悪魔のせいでこんな目に……。祓いたまえ!清めたまえ!」

弓のステッキから光が発せられる。

その光が怪物たちに当たると、すべての者が地面に倒れる。

彼らの姿は徐々に元の人間に戻っていった。

「よし。全部上手く行っているな」

それを見て、教室の中にいるベルゼブブ田中はニヤリと笑う。

そこには、20名ほどの姿が変わらなかった男子生徒たちがいた。

「あ、あの、俺たちどうすれば……」

一人が聞いてくる。

「なに、どこかで倒れたフリをしていろ。今から俺はあいつに派手にやられてくる。そうしたら救助がくるから、とりあえず保護されろ」

「その後は?」

「全員いっぺんに姿を消したら不味いから、頃合をみて一人ずつ姿を消せ。それぞれ苛めとか悩みを苦にして家出したみたいに、ちゃんと書置きを残して置けよ」

「わかりました」

頷く生徒達。それぞれバラバラに散っていく。

「よし。これで俺のノルマは同じだな。では、お待ちかねの『エデン』に行くとするか」

ベルゼブブ田中は、スキップしながら弓の元へと向かった。


「おのれ!椎野弓め!我が王である正志様を殺したにも飽き足らず、我々の邪魔をしおって!」

大げさに声を張り上げながら、弓の前に出てくるベルゼブブ田中。

「ふん! 正義は絶対に勝つのよ。どうするの?」

勝ち誇った笑みを浮かべる弓。

「グググ……こうなったら、お前を殺してやるわ!」

黒い鎧から羽のような物がでて、空中から弓に襲い掛かる。

「馬鹿ね! 『禊の煌き』」

弓のステッキから出る広範囲の光が黒い鎧を砕く。

その光を浴びて、ミジメに地面に墜落するベルゼブブだった。

「ば、馬鹿な……『魔衣(マグス)が破壊されるなんて!」

地面をはって逃げ出そうとする全身黒タイツの少年。

鎧の中身は悪の組織のザコキャラみたいな格好をしていた。

「ふうん。中身はそんなのだったんだ」

残酷な笑みを浮かべて近づく弓。

「く……。殺すなら殺すがいい。だが、俺たちは諦めない。どんな事があろうが、救済を続けてみせる。イィィー」

ベルゼブブ田中はやにわに立ち上がり、腕を斜め上に上げて奇声を発する。

「戯言ね。それじゃ、死になさい」

祓串からの光が少年を包む。

「ハ、ハイル正志!ぐぁぁぁぁぁ」

彼の肉体は粉々に破壊され、光の中に消えていった。


京子の部屋

ベルゼブブ田中の死に様を見て、大笑いを続けている明。

「ぶはははは。いや、ちょっとやり過ぎだって。ハイル正志って語呂悪いだろう!今度はもっと面白い死に台詞をするように言っておこう」

腹を抱えて笑っている。それを見て、京子は不気味に思った。

「あの……仲間なんですよね。やられたのに面白いんですか?」

おそるおそる聞いてくる。

「やられた?誰が?」

「テレビでやってたでしょう。ベルゼブブさんは死んだように見えましたが……」

京子が首をかしげるのも無理はない。ベルゼブブ田中が光に飲み込まれる一瞬前、確かに体はボロボロに破壊されたように見えていた。

しかし、明は余裕顔である。

「はっはっは。残念だけど俺たち『魔人類』は不死なんだよ。ほら、見てみろ」

空中に映像が浮かび上がる。どことも知れない山の中、空から黒い光の玉が降りてきて地面に入っていくと、地中から繭が浮かびあがってくる。

その中からは、たった今死んだはずのベルゼブブ田中が現れた。

「くくく。俺たちがやられたふりをするのも、最初から予定調和なんだよ

「え?」

わけがわからないといった顔をする京子。

「ああやって、正義が勝ったと思わせておけば。後から足元をすくえるだろ?襲撃班たちの仕事は、せいぜい暴れて最後に弓たちによって肉体を破壊されるところまでが仕事なんだよ」

さらりとした口調で、敗北を前提とした特攻であると認める。それを聞いて、京子はますます不気味に思った。

「いったい、なぜそんなことを……」

「じつはな……」

明は事の顛末の裏事情を説明する。

弓たちはこの日本を担当する『神』に操られる愚かなピエロであり、彼ら『魔人類』を集めるといった目的の何の障害にもならないこと。むしろ、彼女たちを利用する事で本来の目的から民衆の目をそらし、ますます影で動きやすくなる事を話した。

「それじゃ……」

「ああ、あいつらこそ大変だよ。ほら、見てろ」

再びテレビに視線を向ける。

テレビでは弓が報道陣にもみくちゃにされていた。


「弓様!」

「ありがとうございます」

「あいつらはどうなりましたか?」

マイクを突きつけられて、笑顔を浮かべる弓。

「アイツは死にました。怪物にされた少年達も眠っているだけで、命に別状はないでしょう」

救急車で運ばれる生徒たちを見て言う。

「すばらしいです。他の学校に向かった美香様と里子様も、悪魔を倒して人質を解放したと連絡が来ました」

それを聞いて、野次馬たちはますます盛り上がる。

「『高人類』万歳!」

「真の救世主様、万歳!」

弓は手を振って、声援に応えていた。

「それでは、残りの学校もお願いします!」

報道陣が期待にこめた目をむける。

「え?」

それを聞いて、弓の笑顔が固まる。

「弓様!車の準備ができました。では次の学校に!」

警察により車に乗せられる弓。

報道陣たちを引き連れて、次の学校に向かった。


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