支配
「ふっ。アンタが京子の父さんか。なるほど。納得の悪人面だな」
その時、何者かの声が聞こえてくる。
「誰だ!」
広い執務室を見回しても誰もいない。
「くそ……幻聴まで聞こえてきたか……」
「幻聴じゃないさ。始めましてだな。俺は上田明。京子の元クラスメイトだ」
いきなり、部屋の中央に禍々しい鎧を纏った一人の少年の姿が現れた、
「き、きさま……何者だ!」
「俺は『魔人類』の一人。大魔王正志様の意思を継いで、世界を救う悪魔の一人。京子を植物人間にしたのは、俺だ」
「貴様!」
それを聞いて掴みかかろうとするが、その姿を掴めずに床に転倒した。
「くそ!誰かこい!コイツを捕まえろ!」
廉造の絶叫に応えた部下達が部屋に入ってくるも、廉造以外にだれもいない。
「……誰もいませんが」
「ふざけているのか!そこにいる奴だ!」
正志を指差すが、部下の誰も反応しない。
「無駄だぜっさん。俺は昨夜の内にこの館に侵入し、中にいた全員をソウルウイルスを感染させている。それを通じてアンタの脳に俺の映像を送っているだけだから、俺は実際にはここにはいない。当然他の奴には見えねえよ」
影のように揺らめきながら、明は嘲笑った。
「くそ!殺せ!あいつをなんとかしろ!」
無茶苦茶に暴れる廉造。
「か、会長が乱心された!はやく医者を!」
部下達に連れて行かれ、鎮静剤を打たれる廉造。意識が深い闇へと落ちていった。
「ここは……」
意識が戻った廉造があたりを見渡すと、いつもの寝室である。
「く……悪夢だったか」
「悪夢じゃないぜ。残念ながら現実だ」
いきなり目の前に明が現れた。
思い切り手を振ってその幻影をかき消そうとしても。いなくならない。
「貴様……。かわいい京子をあんな姿にしおって!」
「興奮すると寿命が縮まるぜ!まあ、どうせあと数年の命だがな」
嘲笑う明に廉造は怒りで気が狂いそうになったが、なんとか自制した。
「それで、一体何の用だ」
恐怖を押し殺して、出来るだけ平静な声を出す。
「ふふふ。交渉に来たんだ。話がまとまれば、アンタの可愛くない娘を治してやってもいい」
明が提案してくる。
「この下衆め!!!金か!!!!!!!!いくらでも払ってやるから、京子を治せ」
「金だけじゃあだめだなぁ……」
明はからかうようにあざ笑う。
「では、何がほしい」
「いろいろほしいものがあるが……まず第一に」
明は康造に指を突きつける。
「井上学園が欲しい。そこを俺たち「魔人類」が支配する「エデン」の根拠地にしてもらおう。ふふふ……」
明は正志そっくりの顔で笑った。
「断る。貴様のような下賎の輩を相手にする気はない」
「ああ、そうか。なら強制的に支配下に置く事にする。残念だったな」
明が手を振った途端、康造を含めた館の中にいたすべての人間に激痛が襲った。
「はぁ、はぁ……痛い!誰か、助けて!」
メイド、護衛、執事、その他すべての人間が痛みのあまり床を転がる。
彼らは一瞬で、井上学園を襲った悲劇を思い出していた。
『お前たちは、我ら「魔人類」の奴隷となった。これ以上苦しみたくなければ、すべて俺達の指示に従え」
散々痛みを感じさせられ、苦しみ吹いた後に明の思念が響き渡る。
「な、なんでこんな事に……助けを呼ばないと」
弓の元に使者にたった部下が携帯で電話しようとする。
その瞬間、しゃべる事が出来なくなった。
『正義の味方に助けを求めようとしても、自動で体の機能が停止するように設定してある。せいぜい俺たちに尽くすがいい』
ビルの中にいた者すべての脳内に真っ黒い魔衣を纏った明が哄笑する映像が浮かび、全員が絶望に捕らわれた。
正志の前で激痛にうずくまっている廉造。
「き……貴様……わかった。従おう」
観念する彼に、明はいたずらっぽく笑う。
「いい子だ。心配するな。京子は治してやるさ。まだまだ俺の役に立ってもらわないといけないからな。まあ、これから長い付き合いになるだろう。仲良くしようぜ」
そういうと、明はゆっくりと京子の寝室に向かった。
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