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傲慢な救世主

正志によるテロから数日。

椎野弓、愛李美香、そして日岡里子の三人は、まさに英雄扱いされていた。

史上最強のテロリストを止めたのは警察ではなく、神の祝福を受けた可憐な少女であり、本当に超常的な力を持っている。

そのことは救い出された芸能人たちが神様のように崇めるので、弓への崇拝は次第に一般人にも広がっていった。

「弓様。ありがとうございます」

「本当にすいませんでした……。俺たちみたいな奴も救っていただいてありがとうございます」

テレビ局の前で怪物に変えられた者たちを治療する弓。彼らの姿を元に戻すところもテレビ放送され、全国に奇跡が放送される。

既に弓は全国民のアイドルとして祭り上げられていた。


「それでは、事件を最初からおさらいします。あの最悪のテロリスト、吾平正志による被害者は、井上学園において、窓から外に突き落とされて転落死した生徒が一名。操られて互いに殺しあった生徒が5名。そして、突入部隊の警官が5名死亡しております」

悲痛な表情で、犠牲者を読み上げるキャスター。

「本当に痛ましい事件でしたね」

「まったくです。続いて、テレビ局の前で彼に殺された人たちが105名、怪物に変えられ、理性を失って人に襲い掛かったのでやむを得ず射殺された方々が52名になります。この方達もテロの犠牲になったといえるでしょう」

「本当ですね。まったく、奴にどんな理由があるにしろ、許される事ではありません」

憤ったように言うコメンティター。

「テロリストである吾平容疑者は、地球が氷河期に突入すると言ってましたが、科学的見地からみてどう思われますか?」

「まったく可能性はありませんな。むしろ地球の温暖化を心配しなければなりません状況で、世界上がCO2削減に必死になっている状況です。地球が眠りにつくなど、馬鹿なことを。典型的な終末思想にかぶれた誇大妄想狂ですな」

自然科学の分野で権威を持つ教授がコメントする。

「もっとも、今の私は神の存在を信じております。神の祝福を受けたといわれる三人の少女、『高人類(タカビー)』の神々しいお姿をこの目でみましたからな。今後は超常的な存在が実在するという前提ですべての研究がなされるでしょう。そういう意味では、あの日から全く違った価値観を我々全員が共有するようになったといえるでしょう」

教授はキラキラと光る目で、何かを崇拝するように天を見上げる。

「まったくです。神はいらっしゃった。悪魔が暴れ、人が抵抗できなくなった時、救いの手を差し延べていただける存在がいた。我々はこれからは科学万能主義から脱却して、より謙虚に生きていけるでしょう。女神様、そしてその使徒のお三方様の元、日本人、いや世界のすべての人々は一つにまとまるべきなのです」

有名な芸能人の大御所が言う。

あの日以来、多くの国民が同じ思いをしていた。

伊勢神宮を始めとする神社に参拝する人は、正月でもないのに連日満員。

殆どの宗教は女神リリスを神とする宗教に統合させる動きをみせている。

現世に現れた神の巫女である三人は、日本中の人々から愛され崇拝されていった。


しかし、彼女たちに当てられる光がもたらす影と言うべき存在たちもいた。

元井上学園の1-Aの生徒たちである。

弓たちが正志の呪いを無効化できると知った彼らは、すぐに前に馳せ参じた。

「弓様。お願いします。この顔を治してください」

「「「「お願いします」」」」

土下座して頼み込む啓馬を始めとする男子生徒たち。

しかし、弓たちは彼らを見つめるだけで、決して治そうとはしなかった。

「あなたたちは私を正志への生贄にしようとした。私を集団で苛めたくせに、どの口で頼み込むの?」

口元に薄笑いを浮かべて冷たく言い放つ。

「だ、だって、あの時はああするしか……そうよ。今まで友達だったじゃないか。お願い。助けてくれよ……」

足元にすがりつくが、蹴り払われる。

「あんた、この私を襲おうとしたよね」

美香はゴミのような目で島田光利の太った体を踏む。そんなことをされても彼はじっと耐えていた。

「ふん!集団でかよわい女を苛めるような、くさった奴等にはその姿がお似合いよ! 私はあんたたちを絶対に許さない!こいつらを追い出して!」

里子が回りの取り巻きに命令して、力ずくで排除させる。

彼らは虚しく追い出され、醜い顔のままで外に追い出される。もちろんその姿はテレビで放送されており、彼らは弓に見捨てられた者として全国に知れ渡る事になった。

「あいつらが原因を作った奴等だぜ!」

「人間の恥よね!吾平に化け物に変えられ、救世主様たちにも見捨てられてる。滑稽よね」

すれ違うすべての者たちからさげずまれる生徒達は、やがて外にもでれなくなって家に引きこもり、苦しみ続けるようになるのだった。


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