勝ち組からの転落
「ほら、その女をかばった。やっぱりね」
光を放って攻撃した弓が勝ち誇った顔をする。光が当たった壁は、抉り取られたように消滅していた。
「おいおい……マジかよ」
「……」
それを見て恐怖する正志と星美。
「えっと……弓ちゃん?」
「どうしてあの子まで攻撃したの?」
若干引いている美香と里美だったが、弓は小揺るぎもしなかった。
「みんな。だまされちゃだめよ。その女は既に正志に魂を売ったお仲間ってことよ。世界征服を狙う悪の結社の女幹部ってやつ?そうじゃないと、アンタみたいなナメクジを相手にする女なんていないもんね。あはは!」
憎悪を顔に浮かべて、高笑いする弓。
それを聞いて、星美はあわてて弁解した。
「ご、誤解よ。私はこんな奴の仲間なんかじゃ……」
「馬鹿!いいから逃げるぞ」
正志はいきなり星美を抱えあげて走りだす。
「皆、アイツを追いかけて!みんなも手伝って」
弓の命令を聞いて、彼女に助けられたキャスターたちも動き出す。
局内のすべての人間が二人を追いかけまわすのだった。
星美を背負って逃げ回る正志。
「ちょっと!おろしてよ。これじゃ、本当に私があなたの仲間みたいじゃない!」
背中で暴れる星美。
「そんな事言ってる場合か!みつかったら……」
「いたわ!」
「裏切り者の星美も一緒よ!」
弓の煽動に乗った東京69のメンバーに見つかってしまう。
「弓様に知らせるわよ!」
メンバーたちは走っていってしまった。
「う、裏切り者?なんで?どういうことなの?」
いつの間にかそう決め付けられて、星美の目に涙が浮かぶ。
「弓が化け物になった奴らを治療するのをみたんだ。そりゃあっちが真の正義の味方に見えるさ。そいつに俺のお仲間だって決め付けられたら、皆コロッと信じるさ」
「そ、そんな……こんなことで……」
息を呑む星美。
「ふふ。さっきまでは勝ち組だったのに、こんなことで転落するとはな。人生どうなるかわからないもんだ」
まるで人事のようにいう正志に、星美は切れる。
「何とかしてよ!責任とりなさいよ」
「知らんよ。世の中にはよくあることさ。お前も嫌われて、いじめられる立場に堕ちたということさ。少しは俺たちの気持ちがわかるようになるだろうぜ」
「……くっ」
そういわれて、星美は沈黙する。
「まあ、そんなことを今言っても仕方ない。こうなりゃ一蓮托生だ。逃げるぞ!」
正志と星美は階段に向かうのだった。。
「こりゃ、下はダメだな」
下のほうにはたくさんの人間の気配がする。
「あなた、新人類なんでしょ?なにか相手を蹴散らす魔法とか……」
「使いたいんだが、ソウルウイルスを無効化されている」
正志は残念そうに言う。弓たちの放つ聖なる光に当たったソウルウイルスは、あえなく分解していた。
「本当に使えないわね……それでも世界征服を目指す悪の首領?」
「別に世界征服なんて考えてねーぞ。弓たちが勝手に言ってるだけだ!」
「どうだか」
こんな場合なのに口論する二人だった。
「だ、だからだな、俺はただ人を救いたいだけで……」
思わず大声をだす正志。
「シッ!黙って!」
星美があわてて正志を黙らす。
「いたぞ!」
「この上だ!」
「捕まえて殺してやれ!」
階段の下から声が聞こえて、昇ってくる足音がする。
「くっ。こうなりゃ上にあがるしかない」
顔を見合わせると、駆け足で階段を上っていった。




