中立
「やった」
「神様……」
抱き合って喜ぶ出演者たち。
テレビの前の視聴者はあまりに意外な展開に驚いた。
その光景を、正志は無言で見守る。
(面白い。こんなことが起きるなんてある意味予想外だったが、これを利用してやるか)
内心でしてやったりと思いながら、表面上は動揺した顔をつくる。
「ば、馬鹿な……俺の力は無敵なはず。破られるなんて……」
慎重に、正義の力の前に敗北する悪の姿を演出するように醜態をさらした。
正志のおびえをみて、弓たちは嗜虐的な笑みを浮かべる。
「さ、悪魔め。観念しなさい。アンタを滅ぼして、大破滅を止めてみせるわ」
正志に向かって自信満々にステッキを突きつける。
「ま、待て。俺を滅ぼして大破滅を止める?一体何の事だ」
怯える演技を止めて、正志が聞き返す。
「とぼけないで。女神イザナミさまから聞いたのよ。あんたの野望を」
「野望……?なんのことやら?」
正志が首をかしげる。
「そうよ。大破滅をアンタたちが自分の手で引き起こして、自分に都合のいい人だけを救って奴隷にして世界を征服しようとしてるんでしょ!ふん。アンタらしいわよ」
それを聞いて、正志は渋い顔になった。
「ちょっと待て!都合がいい人だけを救うってのはあってるが、俺が大破滅を起こすってなんだよ!そんな事、いくら俺だってできるわけがないだろうが!」
「問答無用!」
三人がステッキに意識を集中する。
その先から光が発せられる寸前、正志と弓たちの間に人影が割って入った。
二つのグループに割って入ったのは、東京69のセンター、笹宮星美である。
「お前……何しているんだ?」
正志は自らをかばうように立ちはだかった彼女を見て、意味がわからないといった顔した。
「なによアンタ!どきなさい」
「えっと……星美ちゃんだったっけ?危ないよ」
「そいつは邪悪な悪魔なの。離れなさい」
弓がわめき、美香と里美が説得する。
しかし、星見は顰め面したまま、間に割り込んで仁王立ちしていた。
「……あなた方、今は番組中よ。こいつと戦いたいなら終わった後で、外に出てからして。吾平正志、さっき話しかけていたわね。地球がどうなるの?」
恐れずに正志に向かって言う。
「なによ!どきなさいよ。ただの人間の癖に生意気よ!」
「どかないと、巻き込まれるよー」
「そいつを倒して世界を救うためになら、少々の犠牲は仕方ないのよ。どかないと、あなたごと倒すわ」
三人が脅すしてくるが、星美はまったくひるまなかった。
「私は中立よ。この番組は吾平正志に質問するためのものなの。貴方たちはいきなり乱入してきた闖入者たちよ。言いたいことがあるなら、彼への質問が終わった後に聞くわ。順番は守りなさい!」
きっぱりと言い放つ。弓たちはその気迫に押されて、怯んでしまった。
星美の気迫に押されたのは弓たちだけではない。正志も同様だった。
「……さすがに『勝ち組』の頂点に立つトップアイドルだな。本当に気が強いな。気に入ったよ。『エデン』の住人の資格ありだな。俺の妻になってくれ」
正志が感心したようにいう。
「そういう下品な冗談は嫌いなの。また殴ってあげましょうか? 」
星美はキッと睨みつけると、正志は両手を挙げて降参し、これから来るという大破滅の内容を話し始めた。
「わかったよ。えっと、さっきも言ったとおり、地球意識体ガイアが一万年の活動を終えて、眠りに落ちるんだ。当然気候をコントロール力も失われて、体温も落ちる。そうすることで氷河期に突入する。氷河期が万年前周期で起こっていることは、既に自然科学の研究で判明しているだろ?」
「嘘よ!女神イザナミ様はアンタが世界征服のために引き起こすって言ったわ!」
弓が叫ぶ。
「アホか。俺の力はせいぜい人を操る程度だ。氷河期を引き起こすエネルギーって一体どれだけ必要だとおもうんだよ。そんな力があったら、ちまちま仲間集めなんかしなくても日本ぐらい吹っ飛ばせるぜ。大方お前たちの上にいる奴は、大破滅が避けられないと知って、俺たち『魔人族』に責任を擦り付けるつもりだろうさ」
正志が反論する。弓たち三人と正志は、真っ向からにらみ合った。
「でも、氷河期がきても、人類が絶滅なんて事にはならないはずよ」
どちらにも同意せず、星美が冷静に指摘する。
「ああ、確かに氷河期は悲劇だが、本質的な問題はそこじゃない。地球が眠りにつくと言う事は、今まで保ってきたバランスが崩れるってことさ」
「バランス?」
「それは……危ない!」
とっさに正志は星美を押し倒す。二人の上を光が走り抜けていった。




