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救世主

「勝ち組、負け組って?」

「精神の問題だな。例えばお前なんかは勝ち組の代表例みたいなもんだ。容姿が美しく、富裕で、他人から愛情を受けられる状況。そういう精神をもっている奴は、その立場に胡坐をかいてすべてを捨てて新しい可能性に賭ける衝動がない。だから、新人類に進化するプログラムを注入されても、それについていけない。お前に進化プログラムを注入したら、さぞかしとんでもない姿になるだろうぜ」

「……」

星美は正志の脅しに恐怖するが、屈せずに睨み返した。

「逆に、勉強もできない。容姿も醜い。スポーツもできない。誰からも愛情を受けられない『下の者』ほど新人類に進化できるチャンスがある。彼らは今の世界においては立場が弱く、いつも虐げられている。だから心の底から今の世界に適応てきないことに憎悪している。そういった奴ほど進化プログラムに適応できるんだ」

「つまり、苛められている人ほど進化しやすいってこと?」

「そういうことだ。勝ち組が負け組にどうしてもかなわない事。それは、新しい状況を望む力だ。お前たち勝ち組や、それに追従する普通の者たちは、優れていることを正義とし、劣っている事を悪だと見下して踏みつけにしてきた。今後はそのツケを払わされることになる。新人類にとって、たかが人間ごときの能力の優劣なんて塵芥のようなものだ。人間の目からみたらチンパンジーの木登り能力の個体差なんて意味がないのと同じでな」

正志は今の社会の価値観を全否定してみせた。


「だったら、あんた達だけですればいいことじゃない。なんで関係のない人を巻き込むのよ」

「そうはいかない。新人類に進化するということは、人間から独立して生存競争のスタートラインに立つという事さ。つまり、我々は何一つもたない状況から始まる。当然、必要な物はすべてお前たちから奪わせてもらう。金・女・土地。なんでも奪いたい放題さ。お前たちがほかの生物からそうしてきたようにな」

正志は盗賊の論理を振りかざす。

「バカじゃない?結局それが本音なの?犯罪者そのものだわ」

「ならば聞くが、金持ちの家に生まれた者や、お前みたいに容姿が優れた者は、それを手に入れた正当性というものがあるのか?」

正志はにやにやしながら聞いてくる。

「そ、それは仕方ないじゃない。一人一人生まれた環境が違うんだから。お金持ちの人もいるし貧乏な人もいる。容姿だってみんな違うし。ひがんでるんじゃないわよ」

「強者の論理だな。自らが持っている物を持ち続けるのは正義で、奪われるのが悪か。そんなのはお前たちに都合のいいことでしかない。俺達が物や女を奪う理屈が俺たちにとって都合のいいことであるようにな」

「……全く話が通じないわね」

星美は軽蔑したように正志を見る、

「そのとおりだ。結局、全く違う二つの『種』が論理や正当性などでは分かり合うことはない。奪うか奪われるか、敵か味方か。俺が言っているのはそういう事だ」

「前面対決ってこと?」

星美の言葉に正志は頷く。

「歴史は繰り返す。今の人間でも原始人の頃は、旧人の女を殴りつけて自分の物にし、旧人を追い出して自分の住む場所を確保した。同じ事をされたからって、不平不満を持つのは筋違いだろう。我々は大破滅を乗り越えた後、地球を支配する。そのころには、旧人類はすべて絶滅するだろう」

正志は全く譲る気も交渉する気もなく、人類と敵対することを宣言するのだった。

「つまり、あんたは力ずくですべて奪い取ろうとしているわけね。そんな人達なんか誰も認めないわよ」

「結構。せいぜい反抗しろよ。だからこそ俺たちは『悪』なんだよ」

開き直る正志はあざ笑う。

「ただし、楽で何も考えずに済むから今の正義を選んだ者が、平穏無事に生きていけるとは思わないことだな。これから来る大破滅がきて後悔しても遅い。今の立場に安住して、俺らを悪だと罵って満足しているような者達は、恐竜があっけなく滅びたように自滅していくしかないだろうな」

正志の言葉にテレビの前の視聴者は自問する。

(果たして私は今の生活に不満を持っているだろうか?)

殆どの者は何らかの不満を持ってはいるが、今の自分を捨てるほどではない。

その中の、数少ない現に虐げられている者たちは正志の言葉に希望を見出して、目を輝かせた。


「……あなたが負け組みの代表っていう事はわかったわ。それじゃ、今の人達が絶滅する大破滅っていうのはなんなのよ?」

気を取り直した星美は、一番聞きたいことに切り込んだ。

「地球意識体ガイアが眠りに落ちることで、地球そのものの体温調節機能が低下するんだ。そうなると、人間が住める場所も限られてくる。それだけではなく、その後地球が今の人間を見捨てることによって……」

正志が言いかけたとき、ガシャンと音がして窓ガラスが割れる音が聞こえてきた。

「これはなんだ?すごいパワーを感じるぞ……まさか?」

思わず正志が立ち上がった時、スタジオの扉が開いて、三人の美しい少女が入ってきた。

「みつけたわ!悪の元凶の吾平正志!」

「苦しんだすべての人に代わって!」

「今こそ、私たちが滅ぼしてやる」

そこには光り輝く巫女服を纏った弓、美香、里子が立っていた。


テレビ局

光り輝く巫女姿の美少女が、ステッキを正志に向けて睨みつけている。

「女神さまより授かったこの力で、あんたを滅ぼしてやるわ」

美しく残酷な笑みを浮かべて弓がいった。

「な、なんなの?彼女たちは!」

星美はいきなりの事態に動揺する。それは正志も同じだった。

「ま、まて。女神ってなんなんだ。どうしてお前たちがそんな格好を? 」

正志がそう聞いたとき、彼女たちの後ろがら一人の男が入ってくる。

「ははは、悪魔め。お前の言う事なんか誰も聞きはしないぞ。何が救世主だ。本物の救世主はここにいる彼女たちだ」

入ってきた男は、満面の笑みを浮かべて言い放った。

「まのひとしさん?」

星美がその男をみて驚く。

正志が最初にテレビ局に入った時、ソウルウイルスに命令して首を長くされた有名キャスターだったが、その首が元の姿に戻っている。

「皆さまの奇跡の力で元に戻していただいたんだ! 偽救世主の力なんて、本物の聖なる乙女の力の前じゃ無力なんだ」

男が勝ち誇って言う。

「バカな……。ソウルウイルスを無力化させる力があるなんて……」

呆然とする正志を見て、小気味よさそうに弓が笑う。

「ふっ。信じられないなら見せてあげるわ。これを見せれば、アンタの言う事を聞く人なんて誰も信じなくなるでしょうね。みんな入ってきて」

弓が呼びかけると、怪物と化した出演者がスタジオに入ってきた。

皆苦痛に涙を流している。

「オネガイ……」

「タスケテ……」

醜悪な容姿ながら、身をよじって助けを求める姿は哀れみを誘う。

「わかったわ。女神イザナミよ。我に力を。この者たちの身に染まった邪気を払いたまえ。清めたまえ。私は神の力を持った『高人類(タカビー)弓』」

「おなじく。神に選ばれし者『高人類(タカビー)美香』

「『高人類(タカビー)里子』

三人が持っているステッキかぜ合わさり、無数の星の光が発せられる。

その光に照らされた怪物たちが、みるみるうちに元の姿に戻った。


https://kakuyomu.jp/works/4852201425154878348


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