悪
「新人類……ですか?」
「はい。貴方方旧人間が絶滅した後を担う生物ですね」
「絶滅ですか……」
キャスターはあまりのことに質問が続かない。
「馬鹿な!」
「いい加減にしろ!」
それを聞いて騒ぎ出す出演者。星美を除いて、皆我慢の限界だった。
「子供のくせにこんな大それた事をして!」
「いい加減へんな妄想から卒業したらどうだ!」
「どんなトリックを使ったんだ!私達を解放しろ!」
一人がわめき始めると皆騒ぎ出す。放送は収拾がつかなくなり始めた。
彼らを見て、正志の顔が厳しさを増す。
「やれやれ……。所詮こいつらはサルか。せっかく舞台をつくったのにな。騒ぐだけのお前らはいらない。退場してもらおう」
正志が指を刺すと光が発せられ、出演者たちを照らしていく。
「グ……グァァァァ。ナンダコレ」
「お、俺の口が……裂けて行く」
ある者は目が5つに増える。
ある者は手が垂れ下がり、異様な姿に。
口が耳まで裂ける者もいた。
頭が異様に膨れ上がった者は理性を失ったのか、滅茶苦茶に暴れだす。
テレビ局が化け物屋敷になりかけたとき、ひとりの少女が立ち上がった。
「やめなさいよ!」
星美は正志の前に立ち、思い切り殴りつける。
「あんた!一体何のつもりなのよ!人をなんだとおもってるのよ!」
泣きながら何度も殴り続ける星美。
正志はだまって殴られたままになっていた。
暫く星美のビンタを受けた後、正志は変貌した出演者に思念で命令を下す。
(さっさと出て行け!)
怪物たちスタジオから去っていき、後には腰を抜かしたカメラマンと星美が残された。
「どうした?お前はでていかないのか?」
星美に問いかけると、怒鳴りつけられた。
「これは放送なんでしょ!何があっても最後まで続けるわよ!席に着きなさいよ」
正志を睨みながら自分の席に戻る。
「ふふ。さすがはトップアイドルだな。肝が据わっている。どうやらまともに話ができるのはお前だけみたいだ。なんでも聞けよ」
カメラマンに命令して放送を続けさせ、正志は星美に話しかけた。
テレビ局
「それで、その新人類さんは、いったい何がしたいの?人を傷つけたり治したりして」
星見は息を整えて質問する。
「基本的には、布教活動だな。信じる者は救われる。信じない者は救われない。別に俺は人類全体の救世主じゃないんで、ほんのわずかな信者しかすくわない。残りの大多数の人間は見殺しにする」
正志はぬけぬけと言い放った。
「なにそれ。自分が正しくて、信じない者が悪いといいたいの?」
星美が正当性を問いただしてくる。
「ちがうね。俺は基本的に悪だから。だから、親も兄弟も、友人も知り合いもすべて見捨てて、自分だけ助かるといった悪の心を持つ者を助ける。ふふ、悪魔にふさわしい自分勝手な奴だろ。正義の皆さんは、それぞれ勝手にしていて、大破滅で滅亡してください」
「……」
開き直る正志に、星美は言葉をつまらせる。
世の中の殆どの宗教のように自分達が正義だと言い張るなら、いくらでも言い返すことが出来る。
しかし、正志のように自分から悪だと言われると、返す言葉がなかった。
「悪の布教って……。安っぽいわね。物語に出てくる悪の組織でもつくるの?」
少し馬鹿にする口調で挑発する星美。
「世界を変えようとする者は大体悪呼ばわりされるもんだ。正義ってのは今の体制のことだからな。今の価値観、今の状況、今の世界が居心地がいい奴は、それを崩そうとする奴を悪と呼んで見下す。歴史を振り返るとわかるだろ?」
「それとこれとは違うでしょ!どうして他人を怪物に変えたりするのよ」
星美は勢いを取り戻して責め立てる。どういう理由があっても、人を化け物にしてしまう正志を許せないと思った。
「それは誤解だな。別に怪物に変えているわけじゃない。あいつ等は進化プログラムに耐えられなかったので、『人間』という枷をはずした時に遺伝子が暴走したのさ。人間の体の中には今まで進化してきた遺伝子が詰まっているから、暴走したら魚や蟲や獣の遺伝子が表面に出てくる。だから容姿がかわるだけだ」
「……そうなった人は現に苦しんでいるじゃない」
「まあそれは仕方ないことだよ。今まで人を押しのけ踏みつけにして勝ち組になってた奴らが、今度は負け組みになった。それだけのことだ」
正志は冷たく言い放つ。本当に怪物になった者たちへの罪悪感などないようにみえていた。
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