東京69
テレビ局
正志は放送を一時停止したことを確認する。
「はい。カット。もういいよ」
背中から足をどけて、目の前で四つんばいになっている星美にいう。
「え?」
わけがわからないという顔をする。
「もう四つんばいになってなくていいよ。おつかれさん」
正志の言葉に東京69のメンバーは戸惑いながらも立ち上がった。
「えっと、そうだな。しばらくここに居座るから、キミたちは好きにするように。食堂もあるし、3日分くらいは大丈夫だろ。また明日にでも放送するから、その時は怖がった顔で泣いている演技をしてくれ。それじゃ、以上!解散」
そのままスタジオを出ようとする。
「ち、ちょっと待って!ねえ、これって番組なの?」
星美があわてて正志に聞く。
「うんにゃ。ガチで犯罪者とその人質」
「……」
東京69のメンバーもそれを聞いて絶句する。
「ふ、ふざけないでよ!」
「ここから出して!」
口々に正志を責め立てる。
「まあ、諦めて付き合ってくれ。心配しなくてもそのうち出て行くから。ま、これも経験さ。俺は上の重役室にいるから、なんか用があったら来る様に」
笑ってスタジオを出て行く。
星美たちはポカンとした顔で見送った。
一時間後
東京69のメンバーは手持ち無沙汰にしていた。
てっきり無体な要求をされるとおもっていたが、完全に放置されている。
そうするとかえって不気味で、正志の事やこれからの事が気になってしょうがない。
「ね、ねえ。誰かアイツの所に行って、話を聞いてきてくれない?」
メンバーの一人が言う。
「で、でも何されるかわかんないし……」
「さっきは本当に痛かったしね」
正志に与えられた苦痛を思い出して震える。
「……わたしがいく」
意を決して名乗り出る星美。
「ホシちゃんいいの?」
「一応センターだからね。私達に手を出さないように、話をしてくるよ。思ったほど乱暴でもないみたいだし」
そういいながらも小刻みに震えている。
「私達もいく」
メンバーから二人が立ち上がっていう。
「気をつけてね」
見送られながら、正志が居座る重役室に行った。
「なかなかいいブランデーだな。この部屋は気に入ったな」
重役室のソファにすわり、酒を飲んでいる正志。一人で宴会状態である。
「コンコン」
「はい。どうぞ~」
意を決して中に入った三人の目には、顔を真っ赤にしてブランデーを飲んでいる正志が映った。
「いらっしゃい。飲むか?」
酒を勧めてくる。
「いらない。私達は話しにきたの!もう私達に手を出さないで!」
「いいよ。その代わり、放送の時には協力してくれ。私達を助けてってな。そうしたら人がたくさん集まるから」
あっさりという。
「……人を集めてどうするのよ」
「ま、殆どは新人類に進化できずに死ぬだけになるだろうが、中には生き残る奴もいるだろ」
「死ぬって……?」
穏やかでない単語を聞いて驚く。
「テレビ局の周囲にフィールドを敷いている。その中に入ったら進化プログラムがインストールされる。この世界に適応している奴は、残念だけど新人類にはなれない。ごく一部の鬱屈して世界を変えたいという執念を持つ奴は、新人類に進化する」
なんでもないことのように言う。
「わ、私達に人殺しの手伝いをしろっていうの!」
星美が怒る。
「……俺にとって人間の命は軽いんだ。どうせ数年後には殆どの人間が悲劇に襲われて死ぬ事になる。いちいち気にして入られない。むしろ苦痛全くなしに設定しているぶんだけ、いい死に方かもしれないぜ」
「この悪魔!」
思わず星美は正志をビンタする。
「や。やめなよ……」「怒らせたら……」
残りの二人が星美を押しとどめる。
しばらく正志は頬をなでて沈黙していたが、星美に向き直った。
「そうさ。俺は悪魔さ。だからこそガイアに選ばれたんだよ。話は終わりだ。……わかった。好きにしていろ。もう何もしなくていいから」
「あんた……」
その表情を見て星美は言葉を失う。この上もなく悲しみをたたえた顔だった。
重役室から出る三人。
「しかし、ホシちゃんって勇気あるよね」
「あんな怖い男にビンタするなんて。でも、胸がスーッとした!」
はしゃぐ二人。
(でも……あいつ悲しそうな顔をしていた。あんな酷い事をする奴なのに……なんで?)
星美の心から正志の顔が離れなかった。
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