分裂
「お、おい。こいつから『憎悪』を受けないといけないんだぞ。殺したら意味がないだろ」
まだいくらか理性を保っていた仲間から言われて、生徒たちは少年を殴る手を止める。しかし、すでに遅く、少年は事切れていた。
「チッ、しまった」
後悔する彼らを尻目に、隣の教室から生徒たちが出てくる。
「いこうぜ!」
「早く行かないと、食べるものがなくなるぞ!」
適当に少年を殴って『憎悪』を受け取ったクラスメイトたちは、食堂へと走っていった。
「なるほど。殺してはだめなんだな……」
「力づくで破るぞ!だけどみんなやりすぎるなよ。殺したら意味がなくなるぞ」
生徒たちは冷静さを取り戻し、ドアや窓を破壊して1-Aの教室に乗り込もうとしていた。
1-Aのクラスメイトたちは団結して中で必死にドアを押さえていたが、数の力の前に屈しかけていた。
「お前らも泣いてないで手伝え! 」
啓馬が必死の形相で泣いている女子に命令するが、誰一人として手伝わない。
「くそ……。このままじゃ俺らはリンチされるぞ」
「なんとかして……そうだ! 女子を窓から外に出して、生贄にしよう」
光利の言葉に何人かの男子生徒がうごく。
「オラ! たてよ!」
「窓を開けるから、こいつらで勘弁してくれ!」
女子の中でも比較的おとなしい部類にはいる生徒を突き出そうとする。
「いやーーーーー!」
「助けてーーーー!」
泣き喚く女子生徒たち。1-Aは生き地獄のようになっていた。
「やめなさいよ! 」
泣くのをやめて弓を始めとする5人の女子の代表が止めようとする。
「はっ!お前らから犠牲になりたいってか?」
男子生徒たちがジリジリと迫る。
「みんな、もうやめましょう。協力しあわないと。私達で争ってなんにもなりません。あの悪魔の思う壺ですよ」
井上京子が気丈に諭すが。男子は聞く耳を持たない。
「はっ。この期に及んでお嬢様の上から目線かぁ?残念だけど、誰も聞かねえよ」
「今更、大金持ちで理事長の娘だからって何の意味もねえもんな」
「今までちやほやしてたのが馬鹿らしくなるぜ。こんな奴のいう事にホイホイと従ってたんだからな」
もはや男子生徒は京子の権威にも従わなくなっていた。
「俺が現実を教えてやるよ。もうこんな女になんの価値もないもんな」
いきなり京子に飛び掛って殴りつける光利。
「あ、あんたたち、こんなことして後からどうなるかわかっているんでしょうね!お爺様にいいつけて、退学にしてやるわ!」
お嬢様の仮面が剥がれ、汚い言葉で罵るが、男子たちはそれによってますますいきり立った。
「馬鹿かお前。もうこんな学校潰れて終わりだよ。みな、やってしまえ!」
啓馬の言葉に従って、、ほかの男子たちも女子に殴りかかる。
男が本能的に持っている攻撃性をむき出しにして、無力な女子を痛めつけていった。
「や、やめて。殴らないで!」
ついに女子たちは暴力に屈服し、泣きながら床にへたり込む。
「一人ずつ外に出すぞ。まず京子からだ」
啓馬の命令にしたがって、京子を担ぎ上げる。
まさに窓を開けようとした瞬間、全員の頭の中でチャイムが鳴った。
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