災厄の種
一時間後、生贄にされた生徒たちがいる世界に、正志が現れた。
「どうだ?結論が出たか?」
気さくに聞いてくる正志。
「はい。僕たちは貴方に協力します」
「なんでもするわ。私達にもチャンスをちょうだい」
頭を下げて頼み込む生徒たち。
「わかった。では、『進化プログラムインストール』」
正志が念じると、生徒たちの体に何かが入っていった。
「あ、ああ……これは……」
「わかる!キミの苦しみ、悲しみ……それに、新しい感覚を感じる!」
人間がもつ五感に加え、新たに『精神感応』という感覚を手に入れる生徒たち。彼らは正志の怒りや苦しみを共有し、真の意味でひとつになれた。
「……さて。俺はここでゲームを続ける。お前たちは俺の後継者になってくれ。救世主である俺が死んだ跡を継ぐ、12人の使徒ってやつだな」
正志の言葉に、苛められっ子たちは頷く。正志とそっくりの目と、これからの使命に燃えた顔つきをしていた。
しかし、その中の一人が手を挙げる。
「正志君。ごめん。我がままを言うようだけど、私は先に『エデン』に行かせてもらえないかしら」
手を挙げたのは、桃井教師だった。
「桃井先生!なんでだよ!正志君の意思を継いで、俺たちは世界を救わないといけないのに!先生にもわかっているだろ!」
他の生徒たちから非難があがるが、正志は手を挙げて制する。
「桃井先生。なぜだい?」
「これからの悲劇を見たくないの。皆死んでいくのがかわいそうなの。無力な私には、助けることもできない。だから、ここで一足先に『エデン』に行って、来た人を導いてあげたいの。正志君、お願い」
腕を前に組んで懇願する。その気持ちは正志の心を動かした。
「わかったよ。ほら」
正志は桃井教師の額に手を当てて、念じる。
「正志君、ありがとう……」
麗菜の心臓の鼓動が止まる。彼女は幸せそうな笑みを浮かべたまま、その短い生涯を終わらせた。
学園の外
「お、おい!誰か出てきたぞ!生徒たちだ」
校舎から出てくる人影。彼らは一人の女性を担いでいた。
「だ、大丈夫か?」
校門から出たところで、彼らは保護される。
「ええ。僕たちはあの悪魔から解放されました。でも、桃井先生が殺されてしまって」
生徒たちは泣きながら桃井の遺体を渡す。警察が確認して、真っ青になった。
「し、死んでいる!救急車を呼べ!」
あわただしく救急車が呼ばれ、遺体が収納される。
「さあ、君たちも病院に!」
正志の僕となった生徒たちは頷くと、救急車にのって学園から離れていった。
「くくく……どんなに離れていても俺たちは一つだ。頼むぞ。わが使徒たちよ。おれたち新人類-『魔人類』の数を増やしてくれ」
救急車が学園を離れていくのを、校長室で笑いながらみている正志。
最初にこの世界に戦乱の種が巻かれた瞬間だった。




