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話し合い

学園の外

「犯人に告ぐ。直ちに人質を解放して出てきなさい」

井上学園を取り囲んだ警察は、テンプレどおりの呼びかけ続けていた。

「だめです。なんの反応もありません」

「くそっ!」

無視されて、担当の刑事が頭をかきむしる。ふしぎな力により突入を阻まれた警察にできることは、学園の外から必死になって呼びかけることだけだった。

上田の通報に始まり、学園に向かったパトカーの大破。そしてひっきりなしに助けを呼んでくる生徒たちからの電話。

ただ事ではない事件の発生に警察は近隣のパトカーをすべて向かわせた。

大事件の発生にマスコミのテレビ放送も始まっている。

異例の生徒立てこもり事件に日本中が注目していた。

「刑事!犯人の携帯番号がわかりました」

「よし、彼の携帯に電話してみよう。ご両親や妹さんも連れてきて、説得するんだ」

電話会社に公開させた正志の携帯番号に電話をかけてみた。

「吾平正志だ」

「きみが正志くんか。私は外の警察の担当である、木本警部だ」

「こりゃどうも。ご丁寧に」

馬鹿にしたような口調で話す少年にカチンときたが、大人の冷静さで返す。

「キミは一体何が目的で生徒たちを拘束しているのだい?話し合いをさせてもらえないだろうか」

誠実に話そうとするが、正志からはまさに相手にされなかった。

「その前に、なぜ俺が拘束しているって決め付ける?」

「キミのクラスメイトの上田君から話を聞いたよ。他の生徒や先生達からも電話が入っている」

「ほう。それで? 」

「なんでも、キミが奇妙な催眠術か何かを使って、体の自由を奪って校舎に閉じ込めているとか……」

言っている木本警部も歯切れがわるくなる。

電話からはくっくっくという笑い声が聞こえてきた。


「まさか警察がそんな戯言を信じたのかな?」

「信じたわけではないが、何百人も同じ事を言っているんだ。警察は動かざるを得ないだろう」

「ほう。何百人も証言があれば、生徒に催眠術とやらをかけた犯罪者に仕立て上げられるわけだ」

笑う正志に、木本は言いよどんだ。

「そ、それは……。我々はキミを犯罪者として扱っているわけではない。少し話がしたいだけだ」

「ならば入ってくればいいんじゃないか?」

正志の言葉に唇をかむ。当然、警官隊を突入させようとしたが、校庭に入った時点で体に激しい痛みが伝わって気絶してしまうのである。

「……いずれにしろ、何かが起こっているのは間違いない。キミがこちらに来てくれないか?」

正志を呼び寄せようとする。

「お断りだよ。今出て行ったらわけのわからない理屈を付けられて拘束される。最悪、外にいる警察に逮捕されるかもしれない。それに、俺だって校舎の外に出たら激痛がはしるんだぜ」

平然と嘘を言う。確かに、教師を含めた人質たちの保護者や関係者が学校に集まり、遠巻きにしている。彼らにも子供から何が起こっているか電話が入っており、正志に憎悪をぶつけていた。


「で、ではどうすれば……」

「知らないよ。そもそも、俺がこの事件を起こしたというなら、何が起こっているか説明してくれ。俺だって閉じこめられた被害者だ。勝手にスケープゴートにされて迷惑しているんだぜ。早く助けにきてくれよ」

ぬけぬけと言い放つ正志に、とうとう木本警部は折れた。

「わ、わかった。ではなんとかして救助しよう。くれぐれも自重してくれ」

正志を怪しいと思いつつ、現状ではこの騒動の首謀者とも言い切れないので一応救助対象にする。

「まだまだ注目されるには弱いな。もっと有名になってから、あのゲームを始めないと。仕方ない。しばらくあいつ等を見て楽しむか」

電話を切った正志は校長室で笑っていた。


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