警察
「それが嘘じゃないという保証は……」
「俺が得た能力は『精神同期』だ。今お前たちとしているようにな。魂で情報を共有している以上、嘘はつけないはずだ」
正志から直接情報が伝わってくるので、嘘ではないことを全員が理解する。
「……人間はどうなるの?私たちのお父さんお母さんは?妹は?」
女子生徒が聞いてくる。
「ぶっちゃけ、見捨てられるだろうな。ガイアとケンカしたって勝てっこない。俺ら新人類がアレを作り上げて、他の人間に滅ぼされる心配がなくなったら、ガイアは旧人間に対してある指令を下す。そうなると、今の社会は大破滅を待たずして滅茶苦茶になるだろうな。それに時間オーバーを迎えても、どうせ一緒だ。生き残ろうと無駄な足掻きをするせいで、逆にあっという間に滅びるだろう」
地球上の数箇所に核爆弾の光がうきあがる。どうやら危機に対して抵抗しようとしているようだった。
「ふっ。こんなことしても最後っ屁みたいなもんだ。地球はこの一万倍の衝撃をもたらすような隕石の落下にも耐えるし、太陽からもたられる容赦のない放射線からも生物を守っているんだ。こんな破壊なんか、地球が目覚めたらすぐにすっかり元通りの緑の平原になるさ」
なんでもないことのようにいう。その言葉通り大破滅はとまらず、次の爆発は無事に残されていた赤道付近の地域で起こった。
「なんで……」
「当然だろ。赤道付近しか生きられる土地がなくなったら、その狭い土地をめぐって争いが起きる。あとは核ミサイル打ち合って、全員地獄に道づれさ」
正志は旧人類のあがきを冷たくあざ笑った。
「わ、私達はどうすればいいの?」
破滅的未来を知って、正志にすがりつく生徒たち。
「ここで選択だ。早めに今の社会に見切りをつけて、親兄弟友人も捨てて、俺の元にくるか?俺に魂を売って新人類になるなら、生き残る可能性がある。もしイヤなら」
「嫌なら?」
「別に何もしないさ。このまま解放してやるよ。俺と縁が無かったという事で、大破滅が来るまで幸せな生活をしてればいいさ。あるいはなるべく南に逃げるとかな。運がよければ核ミサイルもふってこないかもしれないぜ。それに賭けるのも一つの生き方だ。確率は低いだろうけどな」
正志の言葉に考え込む生徒たち。いつのまにか周囲は荒廃した世界になっていた。
「ま、ゆっくり考えろ。この世界なら時間はたっぶりあるからな」
そう言い放って正志の姿が消えていった。
「さて、外ではどうなっているかな?」
正志が校長室のテレビをみると、井上高校を襲ったテロ事件が大々的に報道されていた。
「現在、井上学園は一生徒によって占拠されています」
テレビには早くも今回の騒動について報道されていた。
「学園の周りは警察によって封鎖されており、誰も出入りできない状況です」
「入ろうとしたパトカーは、何らかの攻撃を受けて大破したそうです」
「学園を占拠した生徒は、他の生徒・教師を人質に取っている模様です」
ひきつった顔をした女性キャスターが次々と状況を説明している。
「現在、学園から脱出できた生徒はただ一人で、警察によって事情聴取が行われています」
場面が変わって、地殻の警察署が映し出される。
「警察からの発表は?その生徒の名前はわからないのでしょうか?」
「現在、詳しい内容はわかっていません」
警察の前にいるリポーターの言葉は要領を得ない。犯人が未成年の生徒だということで、正志の名前などの個人情報の発表を躊躇しているようだった。
「だらしないな……せっかく上田を解放して警察に行かせたのに」
正志はテレビ放送を見て、一人でクスクスと笑う。
「なら、せいぜい俺の名前を広めてやろうか」
正志は校長室のパソコンを立ち上げると、画面に手を触れる。
「精神同期』
自らの精神を電脳世界に同期させて、持っている情報をコピーしていく。同時に日本中のコンピューターに対して支配するための触手を伸ばしていくのだった。




