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第3話 ワガハイを軽率に呼ぶでニャい!


 ……天国ニャン


 ふかふかのクッション。やさしい日差し。おなかは満腹、部屋には静寂。これが、使い魔として飼われるということなのか。

 いや、違う。ワガハイは使い魔ではない。

 ただの猫である。限りなく賢くて、少し喋れて、やたら美しい毛並みの猫――それだけの存在ニャン。


「ふあぁ……昼寝、最高ニャン……」


 魔法学園の寮—— アリスの部屋の片隅。

 きっちり整えられたベッドの上で、ワガハイ――もといルクスはのびをした。ルクスという名前は、アリスが勝手に名づけたが、正直いまだにピンときていない。ワガハイに名前は必要ない。ワガハイはワガハイなのだから。


 それでも、居心地はいい。


 三食つきで寝放題。気が向けば撫でてくれる美少女。まさに理想郷。いや、猫生第二章の始まりと言っても過言ではニャい。


「……って、なんか空気がざわついて――」


 そのとき。

 部屋の床に、なにやら光る魔方陣が現れた。ぴしり、と音を立てて、床の模様が亀裂のように走る。


「ちょ、ちょっと待つニャ! これはまさか――」


 閃光が包み。

 そして――


「ニャ…… ニャにが!?」


 眩しさが収まった先は、教室だった。

 騒がしい人の気配。制服を着た生徒たち。前にはあの令嬢・アリスが立っていて、後ろには黒板と…… 四十人くらいの目線。


「な、なんだこの猫……! 喋った!?」

「えっ……? 可愛いんだけど!」


 瞬間、教室が軽いパニックになる。


「紹介するね。名前はルクス、この子が、わたしの使い魔で――」


みんなの前に立ったアリスが言う。


「勝手に呼び出すなニャ! こっちはのんびりくつろぎタイムだったのニャン! 猫の権利侵害ニャン!」


 ルクスはむすっとしてアリスを睨む。アリスは「ご、ごめん……!」としゅんと肩を落とす。


「まったくニャン……ご飯三回で我慢してやってると思ったら……」


 周囲の生徒たちの興味津々な視線が突き刺さる。 ルクスはうんざり顔で、ぴょんとアリスの肩へと飛び乗った。


「本当だったんだね! アリスちゃんの使い魔、可愛い!」


 と、また別の少女がやってくる。


「なんだ、この女は? 誰ニャン?」

「ベリィちゃんだよ。私の友達なの」


 アリスが笑う。

 ベリィを皮切りに、どんどんとクラスメイトがやってきて。

 気がつけばアリスとワガハイの周りには人だかりができた。

 生徒たちがワガハイを見るなり、かわいい~などとなでていってくれる。

 ふむ。

 まあ、これも悪い気はしない。

 もっとみんななでてくれ!


「はいはい! みなさん、お静かに! アリスさん。使い魔の召喚ありがとうございました。次、ミーシャさん、前へ出て使い魔を召喚してください」


 教師とみられる眼鏡をかけた女が、手をパンパンと叩き大声で言う。

 なるほど、どうやら召喚の練習の授業のようである。


「ほら、もう満足だろ。じゃあ帰るニャン。呼び出し料は後払いで――」


 言うと、アリスはにっこりとほほ笑んで


「ありがとう、ルクス。来てくれて」


 まあ、悪い気はしないのニャ。

 ワガハイは魔法陣に運ばれて、寮へと戻った。



 放課後。


「アリス。ちょっと来てくれない?」


 教室の隅、自席に座っていたアリスのもとに取り巻きを連れた女生徒が現れる。 

「……カリミアさん」


 カリミア・フェルナンド。

 名門貴族、フェルナンド家の令嬢であり、アリスのクラスメイト。

 高飛車な性格で、気に入らない生徒を何人も辞めさせてきた、学園でも有名人の一人である。

 すると、カリミアは突然にアリスの髪をグイっと掴む。


「痛いッ! 何を……」


「アリス。口の利き方には気をつけなさい。 カリミアさまでしょ?」


 使い魔がいなかったアリスは、もとより、カリミアのターゲットの一人となっていたのだ。


 アリスの髪をがっしりと握ったまま、カリミアは不敵に笑い、そして告げた。


「さっきの“使い魔”の件、ちょっと話したくて。教室じゃ話しづらいこと、あるでしょ?」



 寮の部屋。

 ルクスは、丸くなっていた。

 しかし、どこか落ち着かない。爪の先がむずむずする。

 思い返せば、もう授業も終わってアリスも帰ってきてもおかしくない頃だというのに……

 アリスはまったく帰ってこない。


 いや、別にワガハイが心配することじゃないのニャン……


 なんて、部屋でごろごろしていた時のことである。


「ルクス、いる……!? アリスが、呼び出されてて……!」


 部屋に飛び込んできたのは、教室であったアリスの友達――たしか名はベリィだったニャン?


「……呼び出された? 友達にニャン?」


「うん……でも、その子、カリミアって言うんだけど、アリスちゃんのこともいじめている子で!! でも、アリスちゃん、ルクスには言わないでって! 私に……」


 ベリィは泣き出しそうな表情で、息を切らしていた。


 ルクスはぴょんと飛び上がり、ベリィの肩に飛び乗る。


「――案内しろニャン」


 するとベリィの表情が明るくなり——


「うん!」


「……一応、ワガハイは、アリスの使い魔だからニャン。別にアリスのことは心配してないけど、このままじゃ目覚めが悪いのニャン」


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