LVII
男は役者だった。往時には名脇役として脚光を浴びた。年老いても尚、彼の演技力は衰えるどころか冴え渡り、凄みが増したと評価された。愛妻を持ち、子供たちは皆、立派に独り立ちして、この上ない人生だと思っていた。
だから、医者から癌を宣告されても、従容として受け容れた。
とは言え、闘病生活は長く苦しいものだった。
セロファン師の足音が聴こえた時には、やっと解放されると思った。
たとぅ たとぅ たとぅ
ベッドの上から、黒に身を包んだ少年を見上げる。
「こんにちは。貴方の望みの色を言ってくれ」
そう言われた時ですら男は、この少年には何役が似合うだろうと考えていた。そしてすぐ、自分の考えにかぶりを振る。彼は黒一色の存在。無風の少年。セロファン師以外は似合わない。唇を開けるのも億劫だったが、彼はセロファン師に答えた。
「浅葱色を」
「浅葱色?」
「私が最初に脚光を浴びた役が新選組の役だったんだ。そこから私の役者人生が始まったと言っても過言ではない」
「承った。貴方に浅葱色のセロファンを」
セロファン師は上着から、びかびか光る浅葱色のセロファンを取り出した。
男はその色を目に焼き付けた。維新志士を睨みつけるかのような眼光だった。セロファン師は役者の世界など知らない。ゆえに男の思いも理解出来ない。自分の役割を無事に果たせたことに、満足していた。




