表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セロファン師は気が進まない  作者: 九藤 朋
56/58

LVI

悲しみや情愛といったものをセロファン師は知らない。

 彼の生業において、それらの感情は持っているほうが酷である。それゆえかどうかは解らないが、セロファン師の心は、喪の黒以外を知らず、黒以外は無色透明だった。

 和風の古民家は、内装が洒落ていた。リノベーションの効能か、古風ではあっても古臭いという感じはなく、どこかモダンにさえ感じられる。

 今時、珍しく日本髪を結い、着物をきちんと着付けた女性に、聴こえる。


 たとぅ、たとぅ、たとぅ


 顔を巡らせれば清涼な空気を纏う少年。

 セロファン師が立っていた。彼女は微笑む。熟年の艶やかな笑みは、諦めとほんの少しの恐れを擁していた。


「望みの色を言ってくれ」

「やっぱりね。あたし、病院では匙を投げられたの。だから、きっともうすぐ、あんたが来るって解ってた」

「芸妓さんだったの?」

「そうよ。だから、逝く時もこの姿でないと。ね」

「セロファンの色は?」

「灰紫にしておくれ。今、あたしが着ている着物みたいな」

「灰紫が好きなの?」

「……昔、好いた男がね。灰紫色の着物を着たあたしをやたら褒めたのさ」

 女性は遠い目をして、過去を回顧している。そんなものか、とセロファン師は思うだけだ。上着から灰紫のセロファンを取り出す。


「承った。向こうで逢えると良いね」

「そうだね……」


 セロファン師は知らない。軽い気持ちで言った言葉に、彼女がどれだけの情を籠めて答えたのか。びかびか光る灰紫を見た彼女は、笑ったように見えた。全てが終わって、改めて屋内を見まわしたセロファン師の頭に、ハイヒールが投げつけられた。

 白いスーツに金髪。


「ナナ。このハイヒールは君のかい」

「その人のよ。玄関にあった」

「勝手に扱っちゃ駄目じゃないか」

「あんたに言われる筋合いないわ」


 ナナはふん、と鼻息を吐くと、その場から跳躍して消えた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ