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セロファン師は気が進まない  作者: 九藤 朋
54/58

LIV

 そのホスピスは、(かぐわ)しい薔薇の花に囲まれていた。

 最期を静かに穏やかに、優しく彩る為の場所。生憎とその日は曇天で、薔薇の花たちも心持ち、不安そうに見えた。


 たとぅ、たとぅ、たとぅ、と木靴の音。


 セロファン師が、雷鳴と共にふわりと降り立つ。

 とある病室。

 ベッドに横たわる男性は、セロファン師の来訪を予期していたかのように、澄んだ眼差しで()()(たま)の少年の姿を捉える。

 横にいるのは彼の妻だろう。しかし彼女にセロファン師の姿は見えない。声も聴こえない。彼女はもう、夫の語る声を聴くことすら出来ない。

 曇天が僅かに青の笑いを見せる。こういうものを人は束の間の奇跡と呼ぶのかもしれない。


「こんにちは。貴方の望む、セロファンの色を言ってくれ」


 男性の唇がゆるゆる、弧を描く。

 そして彼は答える。


「卵色。カスタードの色を。僕は青が好きなのだけれど、妻には、その色によく似合うカスタード色のマフラーを贈ったんだ。彼女は、とても喜んでくれた」

「素敵だね」


 セロファン師の唇も弧を描いた。


「なるみ。愛している。先に行って、君を待つよ。君はゆっくりおいで」


 セロファン師が上着からカスタード色のセロファンを取り出した。びかびか光るセロファンが、この時は不思議と柔らかく発光しているように見えた。

 妻には夫の声が聴こえていない。ただ、動く唇を食い入るように見つめるだけ。なのに彼女は言うのだ。


「ええ、解ったわ、貴方。……解ったわ」


 繰り返された言の葉は、温かな雨降りだった。





陸 なるみさんご夫妻に捧ぐ。

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