LIII
屋上で、男とセロファン師は対峙していた。男の震える手には拳銃。
彼は裏切りの罪で所属していた暴力団から追われていた。そして自分の目の前にはセロファン師。導き出される答えは一つだ。
「もうすぐ君は死ぬ。その前に望みの色を言ってくれ」
湖面のような静かな顔で迫るセロファン師に、男は激しくかぶりを振った。空は青く透き通り少しだけ緑が混ざっているようで、まるであまねく存在に天が祝福を与えているようである。そんな日に、どうして血と硝煙の臭いを身に纏い、立たねばならないのか。男は逃げる過程でもう何人も組織の人間を殺していた。浴びた返り血が鉄錆びのように拭っても拭っても取れない。
「嫌だ。俺は生きたい」
「無理だ。君の死は定められている」
「誰に」
「天に」
「天なんてくそくらえだ」
「さあ、もう時間がない。望みの色を言ってくれ」
「嫌だ、死にたくない、死にたくない、死にたくない」
男はセロファン師に向けて発砲した。
一発。
セロファン師は一歩進む。
二発。セロファン師は二歩進む。
セロファン師は涼しい顔で、男に向けて鷹揚な歩みを続ける。弾丸はセロファン師の漆黒の服に溶けるように吸収された。
「化け物……!」
「僕はただのセロファン師だよ」
その時屋上に続く扉が乱暴に開き、幾人もの男たちが雪崩打って出て来た。彼らはセロファン師の姿を見ず、男を囲い込んだ。
何の宣告もなかった。
男は蜂の巣状に弾丸を浴びた。
それで全てが終わった。
セロファン師は物憂い吐息を零した。
死にゆくものに望みの色のセロファンを見せるのが彼の生業。
時にこうしたアクシデントが起きる。
それはセロファン師にとって不愉快で悲しむべきことだった。
淡々と。浅い平原を歩くかのように。




