XLIX
たとぅ、たとぅ、たとぅ、と。
木靴の音が降ってくる。
佐登琉は隣を見る。佐理ではない。心臓が苦しい。息が出来ない。
佐理は彼女を抱きかかえる。
射干玉色の服に、髪。真珠一粒ネクタイピンに、水色の鈴の髪飾りが鳴る。
ゆうらりと、彼はお辞儀をした。
「こんばんは、お嬢さん」
上げた白い面には湖面のような揺らがぬ微笑。
佐登琉は答えることが出来ない。ただ、佐理の腕に力が籠ったのが判った。
「さて。佐理。邪魔はしないでくれるかな。今日が彼女の寿命の尽きる時だ」
「…………」
「その顔では解っているようだね。うん。心臓がね。もう無理だよ。今まで保ったのが不思議なくらい。お嬢さん、見たい色を言ってくれ。……言えるかな?」
セロファン師が小首を傾げるとまた髪飾りの鈴が鳴った。
ふ、と、一瞬だけ佐登琉の息が楽になる。佐登琉はもう知ってしまった。
伝説の呪術師、セロファン師が自分のところに来た意味を。
「……金色と、白」
「佐登琉」
「良いのよ、佐理。解っていたから、来てくれたのね。ねえ、セロファン師さん。私、佐理の髪の色と、服の色のセロファンが見たいわ」
「今、彼は君の隣にいるのに?」
ふふ、と佐登琉が笑う。青い顔で。
「乙女心が解ってないのね」
「うん。僕には、そういうのは未知の領域だ。金色と白。承った」
セロファン師は上着からセロファンを取り出した。びかびか光る、金と白。
「ありがとう、佐理。来てくれて。大好きよ。私のナイト」
それが佐登琉の最期の言葉だった。
もう動かない少女の身体を抱いて、佐理はじっとしていた。
遺体に執着する彼の心が、セロファン師には理解出来ない。彼には色を死にゆく人に見せる使命さえ果たせればそれで満足で、それが全てだった。亡骸に用はない。
だから、本当にとても不思議だった。
微動だにしない佐理も、不思議と沈む自分の心も、姿を現した狭霧が、俯いて佐理の肩に手を置いたことも。
「何がナイトだ」
低い声で、佐理が呟いた。




