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セロファン師は気が進まない  作者: 九藤 朋
49/58

XLIX

 たとぅ、たとぅ、たとぅ、と。


 木靴の音が降ってくる。

 佐登琉は隣を見る。佐理ではない。心臓が苦しい。息が出来ない。

 佐理は彼女を抱きかかえる。


 射干玉(ぬばたま)色の服に、髪。真珠一粒ネクタイピンに、水色の鈴の髪飾りが鳴る。

 ゆうらりと、彼はお辞儀をした。


「こんばんは、お嬢さん」


 上げた白い面には湖面のような揺らがぬ微笑。

 佐登琉は答えることが出来ない。ただ、佐理の腕に力が籠ったのが判った。


「さて。佐理。邪魔はしないでくれるかな。今日が彼女の寿命の尽きる時だ」

「…………」

「その顔では解っているようだね。うん。心臓がね。もう無理だよ。今まで保ったのが不思議なくらい。お嬢さん、見たい色を言ってくれ。……言えるかな?」


 セロファン師が小首を傾げるとまた髪飾りの鈴が鳴った。

 ふ、と、一瞬だけ佐登琉の息が楽になる。佐登琉はもう知ってしまった。

 伝説の呪術師、セロファン師が自分のところに来た意味を。


「……金色と、白」

「佐登琉」

「良いのよ、佐理。解っていたから、来てくれたのね。ねえ、セロファン師さん。私、佐理の髪の色と、服の色のセロファンが見たいわ」

「今、彼は君の隣にいるのに?」


 ふふ、と佐登琉が笑う。青い顔で。


「乙女心が解ってないのね」

「うん。僕には、そういうのは未知の領域だ。金色と白。承った」


 セロファン師は上着からセロファンを取り出した。びかびか光る、金と白。


「ありがとう、佐理。来てくれて。大好きよ。私のナイト」


 それが佐登琉の最期の言葉だった。


 もう動かない少女の身体を抱いて、佐理はじっとしていた。

 遺体に執着する彼の心が、セロファン師には理解出来ない。彼には色を死にゆく人に見せる使命さえ果たせればそれで満足で、それが全てだった。亡骸に用はない。

 だから、本当にとても不思議だった。

 微動だにしない佐理も、不思議と沈む自分の心も、姿を現した狭霧が、俯いて佐理の肩に手を置いたことも。


「何がナイトだ」


 低い声で、佐理が呟いた。




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