45/58
XLV
その白く華奢な手には相応しくない手榴弾を持って、女性は言った。
「教え子が殺されたの」
セロファン師は眼差しだけで続きを促す。
「面白半分に、遊ばれて、いたぶった末、殺された。金持ちの、道楽息子に」
雨が降っていた。
しとしとと。
女性はそれだけが生きる、いや、死ぬよすがであるかのように、手榴弾を後生大事に抱えていた。
「だから、復讐を?」
「ええ」
「貴女も死ぬ必要性は、ないと思うけれど」
女性は微笑んだ。どこか潔い、雨に似つかわしくない晴れた笑顔だった。
「仮にも教師が人を殺すのよ? そんな自分も、罰しないと不公平だわ」
「……そう。最期に、どんな色を見たい?」
尋ねられた女性は、泣く空を振り仰いで、少ししてから言った。
「虹の色を。いずれ、全ては晴れることを願って」
「虹の色。承った」
セロファン師は上着から、びかびか光る虹色のセロファンを取り出した。
その手が、ほんの少し躊躇したのはなぜだったのか。
セロファン師には解らない。
あくる日、大企業の一人息子が、殺害されたという報道が流れた。
犯人は手榴弾を凶器とした女性教師。
果たして、その動機は何であったのかと取り沙汰された。




