表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セロファン師は気が進まない  作者: 九藤 朋
28/58

XXVIII

 物心ついてから、ずっと彼女はアイボリーの色に囲まれていた。

 アイボリーの壁紙、アイボリーのクローゼット、鏡台、絨毯。

 心臓の弱い娘の為に、両親がなるべく心安らかであるようにと尽くした結果だ。

 だがその心臓も、そろそろ限界だった。


 たとぅ、たとぅ、たとぅ、と。


 木靴の音が鳴る。


 少女は読んでいた本から顔を上げた。悟り切った顔を。


「やあ、こんにちは」

「こんにちは」

「僕はセロファン師。死に行く前に、君の見たい色を言ってくれ」

「アイボリー」


 余計なことは一切言わず、少女は即答した。


「アイボリー?」

「ええ」

「こんなにその色に囲まれているのに?」

「だってアイボリーは私がお父さんとお母さんから愛された証の色。幸福の色。だから」


 短い命を終える自分を、少女は幸福だと言う。

 だが言うことには筋が通っている。そしてこうスムーズに生業を進ませてくれる少女に、セロファン師は好感に近い感情を抱いた。彼は唇に笑みを刷き、上着からアイボリーのセロファンを取り出した。


 少女が息を引き取るのを見届け、セロファン師は戸外に出た。それから近くの神社に向かう。特に理由はない。何となく、だ。思えばそれも何かの符号だったのかもしれない。

 石柱に寄り掛かり、目を瞑りアイボリーの色を反芻する。


「見つけた」


 声に目を開けると、そこにはセロファン師と同じくらいの年恰好の少年がいた。


「君は?」

六条(ろくじょう)狭霧(さぎり)(かんなぎ)の系譜に連なる者だ」

「だから僕の居所が判ったのか。何の用だい?」

「あんたの生業を検分させてもらう」

「何だって?」

「俺にはそれが出来る」

「……それで、検分してどうするんだい」

「記録するのさ。都市伝説のセロファン師の実情を」

「迷惑だし、邪魔だよ」

「あんたは逃れられないよ。俺は昨日で十六になった。六条の人間は十六になると勘が冴え渡るんだ」


 セロファン師は先程までの平穏な心持ちはどこへやら、大層、憂鬱になった。

 ただでさえナナたちに生業の邪魔をされかねない日々だ。

 狭霧にまで付きまとわれたら鬱陶しくて仕事に集中出来ない。

 だが狭霧の瞳は意欲に満ちて、彼がこの場を譲らないことは明白だった。

 セロファン師は嘆息した。


「……好きにすると良いさ」


 セロファン師には読めない色が複数、そこかしこに生じたように思えた。



挿絵(By みてみん)





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ