表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セロファン師は気が進まない  作者: 九藤 朋
27/58

XXVII

 花や樹や。

 清水や優しい陽光を要は愛していた。


 対して暗いもの。

 俗世にある汚濁を彼は憎んでいた。


 その憎しみの対象にはセロファン師も含まれていた。

 要にとってセロファン師は汚濁を呼ぶ者。暗闇の象徴だった。




 たとぅ、たとぅ、たとぅ、と。


 木靴の音を響かせながら、セロファン師は現れる。

 古い日本家屋の一室、介護を受けて生き延びていた老人の元に。


「貴方の望む色を言ってくれ」


 微笑みを浮かべて言うセロファン師を、老人は凝視する。

 彼は痴呆を患っていたが、今、この瞬間だけは正気に戻った。


「――――やれやれ。ようやくお迎えが来たか。婆さんのところに行けるんだな」

「そうだね。何色にする? 今日はよく晴れた晴天だ。いっそ青い色にするかい」

「いや、いや……。婆さんが、よく着ていた割烹着の色。茶渋みたいな色にしてくれ」

「そんな色で良いのかい?」

「俺も婆さんには散々言ったんだ。見てるほうも気が滅入るから、もっと明るい色の割烹着を買えって。でも婆さんは、あれに関しては頑なに譲らなかった。この色が汚れが目立たなくて良いんだって。結局、ずっとあの割烹着を着てた」

「茶渋の色だね。承った」


 セロファン師は上着からセロファンを取り出す。

 美しくも明るくもない、冴えないこの色が、老人の最期の望みと言うのであれば。


 老人はしばらくセロファンを眺めて、満足そうに溜息を吐いた。

 それから目を閉じて、唇を湿すと言った。


「ありがとう」


 一瞬の後には、老人はもう息をしていなかった。

 部屋の窓から薫風が吹き込み、セロファン師の髪を揺らす。髪飾りの鈴がちりり、と小さく鳴った。



 要はその一部始終を見ていた。

 介入の必要性を、今回は感じなかった。

 老人は天寿を全うした。

 セロファン師に礼を言った。


 礼を。


 その一点が、要には許し難いことだった。色分けすれば黒、悪の存在であるセロファン師に、感謝の念など必要ないのだ。


 要は徹底的にセロファン師の存在を拒絶していた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ