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セロファン師は気が進まない  作者: 九藤 朋
25/58

XXV

 彼女は学校の屋上に立っていた。

 多くの学校では屋上に出る扉は施錠されているが、彼女の通う高校はその例ではなかった。


 上履きを脱ぎ、フェンスに手を掛ける。


 たとぅ、たとぅ、たとぅ、と。


 死の前触れの音がする。


「やあ、こんにちは」

「セロファン師……?」

「うん、そうだよ」

「やだ、本当にいたの」

「いるよ。現に今、君の目の前に僕がいる。さあ、望みの色を言ってくれ」

「見たい色なんてないわ……」

「それは困る」

「そんなものがあったら、私は死のうなんて思わなかった!」

「どうして死を選ぶの?」


 セロファン師には余り興味のない話題だったが、流れ上、訊いてみた。


「……好きな漫画が打ち切りになるから。好きなバンドが解散するから。体重が増えたから。嫌いな子が幸せそうだから」

「…………」

「そんなことでって思ってるでしょう」

「思わないよ。人が死を選ぶ理由はそれぞれだ」

「綺麗事を言わないで。死神の癖に」

「そうだね。でも僕が死を運ぶんじゃない。死が僕を呼ぶんだ」


 彼女の両目から涙が溢れ出る。


「私は生きたいけれど死にたいの。生きたいからこそ死にたいの」

「哲学だね」

「こんな辛い世界に生きるのが嫌なの」

「望みの色を、言ってくれ」

「ないわ。消えて」

「……ならせめて、君の最期を見守るよ。独りで逝くのは寂しいだろう?」


 彼女は涙を拭うとフェンスによじ登り始めた。その手は震えている。

 一歩、一歩。

 登るたびに彼女は死へと近づいて行く。

 セロファン師は観察する眼差しでそれを見ている。


 そして彼女がついにセロファン師の視界から消えた時、セロファン師は細く嘆息した。

 そもそも、セロファンを見せられもしないのに、なぜ彼女を見守ろうと思ったのか、自分でも酔狂だとしか思えない。彼女が死を選んだ理由がくだらないとはセロファン師は思わない。何に価値を重く置くかはその人次第だ。

 生きたくて死んだ少女。

 

「……そっちは優しい風が吹いてるかい」


 もう答える相手はいない。




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