XXV
彼女は学校の屋上に立っていた。
多くの学校では屋上に出る扉は施錠されているが、彼女の通う高校はその例ではなかった。
上履きを脱ぎ、フェンスに手を掛ける。
たとぅ、たとぅ、たとぅ、と。
死の前触れの音がする。
「やあ、こんにちは」
「セロファン師……?」
「うん、そうだよ」
「やだ、本当にいたの」
「いるよ。現に今、君の目の前に僕がいる。さあ、望みの色を言ってくれ」
「見たい色なんてないわ……」
「それは困る」
「そんなものがあったら、私は死のうなんて思わなかった!」
「どうして死を選ぶの?」
セロファン師には余り興味のない話題だったが、流れ上、訊いてみた。
「……好きな漫画が打ち切りになるから。好きなバンドが解散するから。体重が増えたから。嫌いな子が幸せそうだから」
「…………」
「そんなことでって思ってるでしょう」
「思わないよ。人が死を選ぶ理由はそれぞれだ」
「綺麗事を言わないで。死神の癖に」
「そうだね。でも僕が死を運ぶんじゃない。死が僕を呼ぶんだ」
彼女の両目から涙が溢れ出る。
「私は生きたいけれど死にたいの。生きたいからこそ死にたいの」
「哲学だね」
「こんな辛い世界に生きるのが嫌なの」
「望みの色を、言ってくれ」
「ないわ。消えて」
「……ならせめて、君の最期を見守るよ。独りで逝くのは寂しいだろう?」
彼女は涙を拭うとフェンスによじ登り始めた。その手は震えている。
一歩、一歩。
登るたびに彼女は死へと近づいて行く。
セロファン師は観察する眼差しでそれを見ている。
そして彼女がついにセロファン師の視界から消えた時、セロファン師は細く嘆息した。
そもそも、セロファンを見せられもしないのに、なぜ彼女を見守ろうと思ったのか、自分でも酔狂だとしか思えない。彼女が死を選んだ理由がくだらないとはセロファン師は思わない。何に価値を重く置くかはその人次第だ。
生きたくて死んだ少女。
「……そっちは優しい風が吹いてるかい」
もう答える相手はいない。




