XXIV
たとぅ、たとぅ、たとぅ、と。
木靴の音が聴こえた時、あ、あたし、死ぬんだ、と少女は思った。
人気のない場所で倒れてきた廃材に首から下の身体が押し潰されている。
苦しい。
セロファン師の都市伝説は知っている。だから、もうじき、自分が死ぬのだろうということも、彼女には理解できた。
冷静な思考は諦念に伴うものだ。
上を見れば曇った空。
こんな日くらい晴れてくれれば良いのに。今にも泣き出しそうで、まるで自分の心を見透かすようで嫌だ。
そして現れる黒衣の少年。
「やあ。こんにちは。君の見たい色を言ってくれ」
「……あたし、やっぱり死ぬの」
「うん。そうだね」
「助けてって言っても無理?」
「それは僕の生業ではないから」
「意地悪」
「ごめんね」
セロファン師は風がそよぐように微笑んだ。
「……紅茶の色が良いわ」
「紅茶?」
「おばあちゃんがね、」
少女はここで吐血した。けれど続ける。
「洋風の、お洒落な暮らし方をしているおばあちゃんが、淹れてくれる紅茶、ルビーみたいにすごく綺麗な色なの」
「承った」
セロファン師が上着からセロファンを出そうとした時、第三者の声が割って入った。
「その必要はないよ」
金髪、碧眼の白いスーツ。セロファン師とは正反対の外見の青年。
「佐里……」
「救急車を呼んだ。彼女は病院に搬送される」
「……同じことだ。生の時間が僅かに延びる」
「その僅かな時間が重要なのだと、君には解らないのだろうな」
そう言って佐里は少女の傍らに跪く。
「助けが来るまで頑張るんだよ」
少女は目を丸くして瞬きした。
セロファン師はやや憂いがちな表情で彼らを見ている。
やがて彼女は死ぬ。
その運命は変えられないのに。
佐里の行為が、セロファン師には不可解でしかなかった。




