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第六十二話 種蒔き報告

東千葉が片付いたら、すぐに東へ取って返したいところではある。

が、中々そうもいかないものだ。


不具合が発生したということではなく、やらねばならないことが多岐に渡ると言うこと。


如何に千葉介殿と、長年の盟友と言ってもだ。

工作により既に虫の息となっている東千葉の息の根を止める為だけに、俺自身が小城まで赴くことはない。


いや、なくはないが、この時期であればないと断言できる。

優先順位は、間違いなく少弐屋形にあるのだから。


それでも態々こちらまで来たことには当然意味がある。


まずは杵島にて、備えを貫いた前田伊予と会って労うこと。

そして藤津に下り、杵島を介して松浦まで手を伸ばした納富石見との会合の為だ。


杵島郡の前田伊予は良いとして、藤津郡まで行くと間違いなく高来郡の有馬を刺激することになる。

まだその時ではないので、今回は納富石見とも前田伊予の下で会う手筈とした。


さてさて、納富石見はどのような種蒔きをして来たのかな。

少弐の前には大抵の事は些事になると思いつつ、どうしても期待してしまう。


納富石見爺さんのえげつなさは、中々のものだと思っている。

息子である左馬助や、一門の越中守も太鼓判を押す程のものだからな。


今回はそれが自分に降り掛かることはない。

ならば、ワクワクしてしまっても仕方があるまい。


* * *


藤津郡と杵島郡においての、有馬方への嫌がらせは既知のことだ。

それに加えて、こちらに靡きそうな人選と敵対しそうな人選を提出された。


実にえげつない。


いや、情報は大事だよ。

知っている。


佐賀周辺ではその近さ故に、大した労力もなく情報を得ることが出来る。

筑後についても、赤司党という協力者がいるので問題ない。


一歩勢力圏外に出ると、普通なら情報を手に入れるのは非常に難しくなる。

普通なら、な。


如何に藤津に本貫があるとは言え、藤津全体から杵島、松浦、果ては高来に彼杵にまで手を伸ばすとか。

誰が想像出来ようか。


前田伊予を通じて各方面からの支援があり、藤津の本貫に一族郎党と言った手足となる者らがいる。

それは事実だが、それだけでここまでのことは普通有り得ないと思うのだ。


納富石見爺さんは澄ました顔で茶など啜っているが……。


とてもおっかない。


伊達に龍造寺本家で、長年に渡り執権を務めてきてないな。

当家においては既に長老格であるが、まだまだ現役も余裕そうだ。


* * *


「では、報告を聞こうか。」


咳払いを一つ、居住まいを正して真面目な空気へ。

大まかな内容は書状などで知らせを受けている。

しかし、やはり当人から聞かねば判らぬ感覚もあるだろう。


「承知しました。されば……」


そう切り出した納富石見。

こちらもまた真面目な表情。


* * *


大雑把に言うと、概ねこちらの思惑通りに事を運べているようだ。

詳細は一任していたので、知らない情報も沢山あったが。


まずは藤津郡。

ここは納富三郎兵衛が主格となり、手足を伸ばしつつあるようだ。

具体的な成果として、幾人かの現地領主たちが誼を通じたいと申し出ている。


次に杵島郡。

前田伊予のお膝元ではあるが、後藤や多久と言った勢力の大きい領主が他にもいる。

油断はならないが、今のところ静観の構えなので良しとする。


そして松浦郡。

松浦地方は広いので、東松浦をメインに成松兵庫らが動いているようだ。

特に、鏡城主・草野長門と渡りを付けることが出来たのが大きい。

草野長門は既に病死しているが、その後釜に筑前・原田弾正の二男が入った。


更に高来郡

うちとしては、まだまだ未踏の地である。

福島民部が動いているらしいが、明確な結果は出ていない。

今後に期待だ。


最後に彼杵郡。

有望な港がある地域だが、これまた未踏の地。

秀島主計が前渡しをしているようだが、手探り状態とか。

それはそうだろう。


高来と彼杵は有馬の本拠と言える。

分かっているだろうが、それでも無理しないように重ねて注意しておこう。


藤津は納富石見の一族が力を持っているので、比較的楽観出来る。

まだ遠いと言うこともある。


そこで、注視すべきは杵島と松浦だ。


杵島にある、後藤と多久の勢力は侮れない。

そこで納富石見は前田伊予と図り、まずは多久に目を付けたようだ。


多久は以前、有馬が攻め上って来た時に持ち堪えることが出来なかった。

そして今、有馬は藤津を越えて出てくることが出来ていない。


狙い目だ。


俺が出張るのは先になるが、それまでに工夫を凝らしておきたい。

石見爺さんなら言われなくともやるだろうが、主君として指示はせねばならない。

当人のその気が無くとも、独断専行と責められる危険があるからな。


そして松浦は、東松浦を基点にして佐賀と道を繋ぐ目途がたっている。

そうすると、筑前の原田弾正らとも繋がることが出来る。


これは大きい。


神代の勢力圏を通らずに筑前北部と繋がることが出来る。

肥前松浦郡の草野から、筑前怡土郡と志摩郡の原田。

そして筑前守護代の杉弾正。


道としては大分遠回りになるが、安全な経路が確保出来たのはとても良いことだ。


成松兵庫は良く頑張ってくれた。

恩賞は、彼が前々から願って止まなかったアレにしよう。

きっと喜んでくれるはずだ。


* * *


そう言えば、故・大内介様の下で筑前守護代をしていた杉弾正だが。

現在も、形式上は守護代のままだ。


大内家の家督を継いだ、左京大夫義長と先年和睦を為したからな。

その時、俺たちも肥前を任せて貰えるならという条件で、大内左京に和を通じている。


嫡弟たる六郎二郎に、一字「長」を賜ることになっている。

そろそろ伝わっている頃だろうか。


その辺りは落ち着いてから、皆を集めて為すこととなるだろう。


或いは、俺が敗死して六郎二郎が家督を継ぐ際に、な。


* * *


ともかく、納富石見と前田伊予との面談は実り大きいものとなった。


正直「誰がここまでやれと言った!?」とも思ったが、口にはしなかった。

偉いぞ俺。


「石見、大義。」


「ははっ。」


「伊予殿も、助かっております。」


「いえいえ。なんのこれくらい。」


納富石見は家臣だが、前田伊予は協力者であり家臣ではない。

実質はどうあれ、形式は大事なものだ。


なお、前田伊予からは落ち着いたら臣下の礼を取りたいと伝えられている。

今は独立勢力であるが、過去は千葉介殿の与力に近い立場にあった。


その辺りのこともまた、千葉介殿と話し合いを持つ必要がある。

東に向かう途中、寄って擦り合わせて置こうか。



半ば収穫し始めているのもありますが、一応まだ種蒔き段階です。

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