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第二十一話 緊急会議

帰還してすぐに皆を招集し、評定を行った。


但し、小田駿河の言っていた足下をちゃんと見ろという言葉が気に成っていた。

陰謀が進行していたことにこちらが気付いてなかったことは不思議ではない。


馬場の一件のような例もある。

しかし、馬場の一件は龍造寺家中の話ではない。

ならば足下がどうと言うものではないはずだ。

つまり、足下とは当家内部の問題が発現しているということではないだろうか。


そう思ったので、招集したのは俺が信頼している一部の人間に限ることにした。


……もしも、であるが。

その中に問題の該当者がいた場合は、まぁそれは諦めるしかない。

俺の限界がそこにあったということだ。


* * *


参加者は主催した俺と新次郎、そして一族筆頭である越前守。

執権の納富石見に小河筑後。

上級家老の播磨守と伊賀守、それに江副安芸。

旗本の石井尾張と馬渡越後に加え、偶々こちらに来ていた鍋島孫四郎が集まった。


他にも信頼している人間は沢山いるが、ひとまずはこれで。

ここで決まったことを、追々通知するなり再度招集するなりすれば良い。


まずは、小田駿河との会合で得たものを伝えた。

縁続きになるべきだという俺の意見を添えて。

新次郎に娘を嫁がせたいと思っているようだということも伝えたが、石見爺さんに一笑に付された


「新次郎様は御歳十八ですが、小田殿の未婚の娘は確か八つ程。釣り合いません。」


と、バッサリ。

てか小田駿河のオッサン、焦りすぎだろ…。

それほど新次郎との縁が欲しかったのか?


「さ、流石にそれは…。」


渦中の新次郎も流石に絶句している。

安心しろ。

お前には年齢的にも釣り合いのとれた、もっと相応しい嫁を探してやるから。


「それはもういい。そろそろ本題に入ろう。」


そう、本題はオッサンこと小田駿河が言った陰謀が進んでいる云々の方だ。


* * *


「やはり、殿の相続に不満を持つ者が主軸となるのでしょうな。」


「評定では満場一致となりましたが。」


「それでも内心はどうか分らぬからな。」


「筑後にいる少弐に心寄せる者も、未だいるでしょう。」


「大内と結んだことに反発する者もいますね。」


「大友が切り崩しを図っている、という可能性も…。」


様々な意見が出るが、いずれも確定ではない。

少なくとも、家中で陰謀と思わしき明確な動きはないようだ。


「ひとつ、気に成ることがある。」


「いかがした?筑後殿。」


ここまで黙って聞いていた小河筑後が零し、石見爺さんに促さる。


「殿と、御内儀の仲が宜しくないという噂が領内にあります。」


うん、それ噂というか事実だ。

仲が悪いというか、於与さんがまだ心を開いてくれていないというか…。


「そこに付け込んで、色々考えを巡らせる輩もおるでしょう。」


「確かに。不安がる者もおろうな。」


「夫婦の仲が冷えていれば、何かと宜しくありませんからな。」


「……殿?」


皆がじっとこちらを見てくる。

孫四郎は夫婦仲が円満の様で羨ましいよ。


「於与殿は心に深い傷を負っておられる。余り無理強いすべきではないと思うのだが…。」


それでも於安と遊んでいる時など、眺めている於与さんの様子が時折柔和な気配になることがある。

凝り固まった心も、少しずつであるが緩和されてきているように思う。

だからこそ、無理をさせたくはないのであるが…。


「確かに。奥方様には心安く居て頂きたい、とは思います。」


「しかし、それで家中に波風を立てているとならば……。」


難しい。

カウンセリングなど経験はないし、考えたこともなかった。

どうすれば良いかなど、全く分からない。


そして、そのことが今回の陰謀の一端となっている可能性があるということ。

そのため、どうすればよいか解らず沈鬱な空気が広間に漂う。


「この件に関しましては、この筑後にお任せ願えませんか?」


そんな空気を打ち破るように小河筑後が言った。


「少々時間を頂きますが、何とか致したく存じます。」


「左様よな。この件は筑後殿に一任し、我らは陰謀云々の方を追ってみようか。」


小河筑後と納富石見の両執権により会話が交わされると、さくっと決まったようだ。


「殿、それでようございますか?」


「あ、はい。」


* * *


緊急対策会議は、基本的に全て執権たちに任せることで議決した。


もちろん、俺が信頼している人物たちにも話を通しておくこととなった。

具体的には雅楽頭様に孫九郎と久助君に慶法師丸。

あと母上。


姉上は信頼出来ると思うが、義兄がイマイチ信用出来ないのでスルーしておく。


家中で言えば福地長門と堀江兵部に鍋島駿河、そして西村因幡と納富治部の兄弟などだ。

芦刈の鴨打陸奥と徳島土佐、小城の西千葉にも伝えておこう。


* * *


諸々の手配を終えて、少し考える。


今は天文十八年であり、一つの区切りに成るであろう天文二十年まで二年弱。

それまでに、家中を纏めてしまう必要がある。

問題はどのようにして纏めるか、だよな。


いっそのこと、不満の芽を炙り出してみるというのはどうだろうか?


………ふむ。

一考の余地あり、だな。


後ほど考えをまとめて、皆に相談してみよう。


まずは今出来ることを、一歩ずつ進めていくべきだ。


天文十八年(1549年)<主な生誕武将>

鬼庭綱元、朽木元綱、筒井順慶、松浦鎮信、山内康豊、留守政景

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