なろうラジオ大賞2 • 3 • 4 • 5 • 6 • 7 参加作品
奴等は風鈴の音色に聞き入っていた
先頭を歩いていた兵士が止まれのハンドサインを出す。
それから眼下に見えている集落の方を指さした。
集落には多数の感染者がフラフラと身体を揺らしながら佇んでいるのが見える。
感染者を駆除している俺たちは奴等、感染者をゾンビと呼んでいた。
理由は感染者が非感染者を見つけると噛み付いて来るからだ。
もっとも噛み付いて媒介物感染を行うだけで非感染者の肉を食う訳じゃ無いし、病原菌に感染して知性を無くしているだけで生きてはいる。
だからゾンビと違い頭だけで無く胸や腹を撃っても大量出血でもくたばる。
それに感染するのは人間だけで、他の動物がゾンビに噛まれても噛まれた直後に心臓麻痺で死ぬ。
俺たちは噛まれても大丈夫なように、全身を覆う防刃の防護服を着込んでいた。
因みに此の病原菌を流出させたのはご多分に漏れずC国。
もっとも感染が早すぎてC国自身が細菌の流出に気がついた時には、人民の大半がゾンビになっていた。
それでC国の総書記を含む生き残りは天安門とその周囲に立てこもり、包囲する十数億の元人民のゾンビと攻防戦を繰り広げでいるらしい。
俺たちはゾンビ共に気づかれないよう音を立て無いように歩き、集落に向かう。
集落ごとゾンビ共を包囲してゾンビ共を全て射殺。
射殺したゾンビを一纏めにして火炎放射器で火葬する。
俺は火葬されるゾンビたちの死体を見ながら、なんでこんな田舎の集落に群がり立ちつくしていたのかと考えていた。
そんな俺の耳にチリリン〜という音色が入る。
燃え盛る死体から目を離し、チリリン〜という音色が聞こえた方に目を向けた。
一軒の家の軒下に風鈴がぶら下げられていて、風に吹かれてチリリン〜という音色を周囲に振り撒いている。
その風鈴のチリリン〜という音色を聞きながら、奴等は風鈴の音色に聞き入っていたのかもという思いが頭に浮かぶ。
知性を無くしてはいるが、風鈴の音色を慈しむ感情は残っているのかも知れないなと思いながら。




