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【メモリーバンク】異端者扱いされた俺が“量子の魔法”を使ったら世界が変わる――記憶もスキルも無かったけど最強になって行く。  作者: カイワレ大根
第5章

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第93話 視えざる層の顕現

 ◆中層への到達と構造の異常

 塔の階段を、静かに一段ずつ登っていく。

 重たい沈黙が降りてきたように、三人の足音だけが淡く響く。


「……今、何階くらいまで来た?」


 リュークがつぶやく。


「感覚的には、そんなに上がってない気がするけど……歩いた距離からすれば、三層以上は進んでるはず」


 ルミエルは周囲を見回しながら応じた。

 階段は途中から、妙に曲がりくねった軌道を描いている。


 それは建築物の“構造美”というよりも、“あとから這わせた何か”の軌跡のようだった。

 まるで誰かが、塔の内側を無理やり曲げてでも導線を捻じ込んだかのように。


 シャドウファングが数度振り返り、鼻先を揺らして宙を嗅ぐ。

 耳もわずかに震え、警戒の色を浮かべていた。

 匂いも音も乏しいこの空間で、彼は明らかに“居心地の悪さ”を訴えていた。


「……さっきから、同じ模様の柱が何度も出てきてる気がする」


 ルミエルが足を止め、手で指し示す。

 確かに、踊り場ごとに設置された石柱に刻まれた紋様が、奇妙なほど反復していた。

 精緻な彫り込みがあるわけではない。だがそれ故に、無機的な“設計された反復”が際立つ。


「空間構造が、普通じゃないってことだな」


 リュークはわずかに肩を揺らし、首筋を押さえる。

 その視線の先、塔の下層はすでに薄霧に沈み、階段すら見えなくなっていた。


「戻ろうとしても、同じ場所に戻るかもしれないわね……」


 ルミエルが小さく息をついた。

 それでも、進むしかない。


 塔の中層域へと踏み出したとき、空気の“密度”が変わった。

 湿度はない。温度も均一だ。


 だが、肌を撫でる空気が、どこか“鈍く重たい”。

 呼吸をするたび、薄い膜のような違和感が、喉にじわりとまとわりついてくる。


 そして——階段の中腹に差し掛かった、そのとき。

 唐突に、頭の奥がざわめいた。

 思考ではなく、脳の芯をこすられるような、古傷が疼くような感 覚。

 何かを“思い出しかけた”ときに似ている。


 リュークがぴたりと足を止め、壁の一部を凝視する。


「……ここ、地図にも記録にも残ってなかった。 けど……来たことがある気がする」


 ルミエルが振り返り、ゆっくりと目を細めた。


「それって……記憶?」


「分からない。夢か、幻か……でも、体が覚えてるんだ。 階段の角度、壁の模様、空気の匂いまで——全部、知ってる気がする」


 リュークは壁にそっと手を当て、わずかに拳を握る。

 拳の先に伝わる石の冷たさが、どこか“懐かしくて怖い”。


 この塔の内側。

 記録にも、記憶にもないはずの空間が、

 静かに、確かに——“過去の自分”と重なりはじめていた。


 階段を上り切った先の中層も、外観からは想像できないほど入り組んでいた。

 登ったはずなのに、同じ装飾の通路に戻る——そんな錯覚を、彼らは何度も味わっていた。


「……また、この場所?」


 ルミエルが足を止め、壁にそっと手を添える。

 指先にはわずかなザラつき。だが、その模様も硬度も、どこかで感じた覚えがあった。


「さっきの階段……確かに上に向かってたよな?」


 リュークが低く呟く。声は押し殺され、反響も吸い込まれるように消えていく。

 シャドウファングが立ち止まり、喉の奥で低く唸った。


 その尻尾が、ごくわずかに揺れていた。

 警戒というより、違和感に敏感に反応しているような挙動。


「見えてる構造と、体の感覚がずれてる。歩いた距離のぶん、登れてない……」


 リュークの声に、ルミエルも頷く。

 通路の片隅には、壊れた魔導機装置の残骸。

 金属筐体は裂け、内部から微弱な熱が漏れていた。


 リュークがしゃがみ込み、手をかざすと、かすかに“脈打つような振動”が指先に伝わる。


「……止まってるはずなのに、まだ何か動いてる。 誰かが仕込んだ信号か……それとも、塔の“意識”か……」


 装置の中心部で淡く灯る青い光が、脈を打つように揺れていた。

 ルミエルがぽつりとつぶやく。


「……この光……夢の中で、あなたが触れてたものに似てる」


 リュークは反射的に目を細め、無意識に手を伸ばしかける——


 そのとき、青白い光が一瞬“ざらついた”。

 色が乱れ、まるで映像のノイズのように波打つ。


 直後——塔全体が、低く、震えるような音を発した。


 ——キィィィィィ……


 耳では捉えきれないのに、鼓膜の内側を削られるような軋み。

 空間がかすかに歪み、視界の端が揺らぐ。


「……! この音……どこかで……」


 リュークが顔を上げたとき、視界の奥に——

 ノイズのような“揺らぎ”が、チリチリと走った。


【解析対象:空間構造──記憶層に一致する記録波を検知】

【条件一致──《量子視覚》 起動可能】

 ……脳内に、冷たい文字列が流れ込む。


(やっぱり……ここで“見るべきもの”があるってことか)


 だが、リュークはすぐには動かなかった。

 腰のポーチに忍ばせた金貨。その重みが、指先に伝わる。


 カチャ


 と金属がわずかに触れ合う音。

 手のひらに数枚、取り出して数える。


「……またか。ギリギリだな……」


 残っていた金貨は、小金貨わずか十数枚。

 祠で、量子力学の記憶を開いたときもそうだった。

 気づけば、いつも“余裕のない残高”で選択を迫られている。


(……物理学の記憶、開放には“小金貨50枚”)


 再び、選択の場面。

 使えば、手持ちはほぼゼロになる。

 何かあった時の“保険”を、自ら削ることになる。


(開けるべきか……いや、まだだ。判断材料が足りない)


 **化学** **量子力学**の記憶は手に入れた。

 けれど、それらはまだ“完全に理解できた”とは言えなかった。


 特に、“物理的な反応”に対する核心——

 力がどう伝わり、どう蓄積し、どう現象を生むのか。

 そういった根本的な感覚に、まだ理解の穴が空いている。


(……物理学を先に開けば、それらが繋がるかもしれない)


 けれど、金貨は有限。

 次があるとも限らない。


(視るべきは“今”か、それとも“もっと深部”なのか)


 リュークは、拳を軽く握りしめながら、目を伏せる。

 ポーチの中、わずかに揺れた金貨の音が、やけに冷たく響いた。


 ――しばしの、沈黙。

 その沈黙は、選択を迫る空気そのものだった。



 ◆干渉と“視る力”

 リュークは、流れ込んだ文字を静かに考え込んでいた。


「量子視覚──起動可能」


 その一文が、やけに静かに、しかし深く胸に沁みた。

 使えば、先へ進む術が見えるかもしれない。

 だが、それは同時に、“何かを知る”という代償を払う気がしてならなかった。


「……どうするの?」


 隣で、ルミエルがそっと問いかける。

 責めるでも、急かすでもなく。

 ただ、静かに彼の選択に寄り添うような声だった。


 リュークは、ポーチの奥から小袋を取り出す。

 革の感触、金属の重み。中には、金貨小が約10枚。


(……またギリギリだ。余裕なんて、いつもない)


 それでも——彼は小さく、しかし確かに頷いた。


「……進むしかない。ここで止まっても、何も変わらないから」


 決意を込めて、指先に力を込める。


「……開放する」


 一枚ずつ、小金貨がふっと宙に浮いた。


 カチャリ……チャリ……


 と、乾いた金属音が連なり、

 空間に淡い波紋のような光がじわりと広がっていく。


 次の瞬間——

 リュークの視界が、“跳ねた”。

 塔の壁。その下層構造から、本来見えなかった“層”が滲み出す。

 光の糸。重なり合う幾何図。

 魔導装置の内部構造。空間のひずみ。


 それらが、まるで“塔そのものの神経回路”のように視界に現れる。

 視界の奥で、何層もの世界が“同時に存在”していた。


「……これが、“量子視覚”……」


 リュークは、思わず息を呑んだ。



 次回:視えなかった記録

 予告:リューク、シャドウファング、ルミエル――それぞれの内奥に眠る“記憶の影”が、塔の干渉によって呼び覚まされる。そこに現れたものとは。

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