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【メモリーバンク】異端者扱いされた俺が“量子の魔法”を使ったら世界が変わる――記憶もスキルも無かったけど最強になって行く。  作者: カイワレ大根
第7章

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第111話 蒸気の心臓、呼吸をはじめる――道具屋で目覚めた理とギルドからの急報

 ギルドでの報告を終えた翌日。

 朝の通りを抜け、リュークはルミエルと共に北通りの小さな道具屋を訪れていた。


 古びた木枠の看板がギィ……ッと風に揺れ、かすかな不安と期待を煽る。扉を押し開けると、乾いた薬草と油の混ざった匂いがズンと鼻腔に入り込む。


 棚には、用途の分からない奇妙な道具や、錆びついた部品、半ば壊れた古い魔導機器の残骸がガラガラと無造作に積まれていた。

 まるで廃墟の山から宝を探し出すような光景――リュークの胸はなぜかワクワクと高鳴っていた。


(火……水……熱。霧魔素核を使えば、もっと大きなことができるはずだ。ただ魔力を流し込むだけじゃ限界がある……突破口が欲しい)


 視線の端に、埃をかぶった分厚い書物がズズッと存在感を放った。

 道具や部品とは異なる、濃密な“知識の気配”。


 リュークの指先が、知らぬ間にその図面へ伸びていた。

 胸の奥で――バキッと、何かが弾けるような感覚が走る。


 「……これ、何ですか?」


 声に出した瞬間、自分でも驚いた。

 理由は分からない。

 どうしても目を離せなかった。

 まるでその線が、封じられていた記憶を呼び起こす“鍵”のように思えたのだ。

 店の奥から顔を上げた老人が、ふっと目を細めて笑う。


 「ああ、それか。昔な――“温度差で動く魔導装置”を試作した奴がいたんだとさ。

 魔石も魔力も使わずに動く、って理屈だったらしい」

 

「魔石……不要?」


 リュークの胸がドクンと鳴った。血が熱を帯び、思考が一気に冴えていく。


 「バカげた話だろう?」


 老人は肩を竦めた。


 「魔力なしに物が動くわけがない。……けどな、もしそれが本当に完成してたら

 魔導文明の根っこが、丸ごとひっくり返ってたかもしれん」


 そこで、老人の笑みがふと翳る。


 「結局、“何か”が足りなかったらしい。記録も途中で途切れてな。

 今じゃ、誰もその仕組みを覚えちゃいない。……忘れられた夢さ」


 淡々とした声。だがリュークの耳には、それがゴリッと大地を踏み砕くような重みに響いた。

 その“夢”の続きを――自分が見なければならない気がした。


 設計図に描かれていたのは、“熱源”と“圧力管”、そして中央に据えられた小さな円形の室。

 その先には、カチリと音を立てそうな弁と、上下に動くピストンらしき構造が薄く描かれていた。


 (これは……蒸気機関?)


 燃焼で加熱された水が蒸気となり、圧を生み出す。

 その膨張が管を伝い、弁を押し上げ、ピストンを押し出す――

 紙面には、まるで“呼吸する金属”のような循環が描かれていた。


 (空気じゃない……“蒸気”だ。

 熱を与えるだけで、自ら動こうとする――!)


 魔力も魔石も不要。ただの水と火で、世界を動かす力が生まれる。

 一度火を入れれば、金属の心臓がドゥンと脈打ち、

 蒸気が唸りを上げながら歯車を回す――


 その映像が、彼の脳裏で鮮やかに再構築されていく。


 リュークの頭の奥で、封じられた知識の断片がバキリと音を立てて繋がった。

 歯車が嚙み合い、弁が跳ね、蒸気が吹き出す音。

 “理屈”が“力”に変わる瞬間――その感覚が、確かに戻ってくる。


 「……そうか。水を熱して、膨張させる。

 その圧で弁を押し、ピストンを動かす……!」


 思わず声に出た言葉は、抑えきれない高揚を帯びていた。

 “火”と“水”という最も原始的な要素が、ここでは精密に手を取り合っている。


 「魔力も、魔石もいらない……これが、本物の“動力”だ」


 リュークの瞳が輝きを帯びる。

 それは、理を理解した者だけが宿す光――確信と歓喜が同居する瞳だった。

 ルミエルは隣でその表情を見つめ、少しだけ眉を上げる。


 「……何かわかったの?」


 「もしかしたら――これ、本当に“動く”かもしれない」


 リュークは息を整え、図面に手を置く。

 指先でなぞったその線の向こうに、確かな“鼓動”を感じながら。


 「“熱を力に変える”――

 この仕組みが完成していれば、魔導がなくても……世界を動かせる。」


 その瞬間、胸の奥にゴウッと熱風が吹き抜ける。

 忘れかけていたはずの感覚――かつて見た光景、読んだはずの知識が。

 今、確かに揺らぎながら甦ろうとしていた。


 リュークが本を棚へ戻そうとした――その刹那。


 ガタリッ!


 表の扉が勢いよく揺れ、乾いた金具の音が店に響いた。


「リュークさん、おられますかー!」


 慌ただしい声と共に、ギルドの使いの少年が顔をのぞかせる。


「ここにいたか。エリナさんが呼んでます、ギルドへって!」


「ギルド……?」


 ルミエルが眉をひそめ、リュークも思わず視線を合わせる。


「何かあったのか?」


 少年は息を切らしながら、目を丸くして告げた。


「例の“魔素核”です! さっき鑑定師の先生が、ドタバタ騒いでて……!」


 リュークの胸に、冷たい緊張が走る。


(……霧魔素核か。昨日提出したままだった。

 まだ処理中のはずだが――何か起きたのか)


「ありがとう。すぐに向かう」


 短く答え、リュークは本をそっと棚に押し戻した。


 そして老人に一礼すると、ギィッと扉を開け、ルミエルと共に店を後にした。


 ギルドの受付に着くと、すでにエリナが待ち構えていた。

 その表情には、普段の柔らかさが欠片もなく、緊張の影が滲んでいる。


「来てくれて助かったわ。――昨日提出してくれた“霧魔素核”、あれ……普通じゃなかったみたい」


 低い声で告げると、彼女は手招きで二人を奥へと促した。


「責任者が直接説明したいって。……こっち、別室を使わせてもらってるの」


 案内されたのは資料保管用の応接室。

 分厚い魔術書がズラリと積まれ、鑑定機器の金属部品がカチリと冷たく光る。

 部屋全体がひやりとした静けさに包まれており、息をするたび緊張が喉に張りつくようだった。


 奥の机には、魔素波形鑑定の責任者――老年の鑑定師が腰掛けていた。

 皺の刻まれた指が小さな魔石板をコツンと机に置き、重い沈黙を割る。


「未登録の波形です」


 老鑑定師の声はズシリと響いた。


「近いものはいくつかありますが、完全に一致するものは確認できません」


 ルミエルが小さく息をのむ。


「登録申請は可能ですが……“自然発生”であることの証明が必要になります」


「……証明、ですか?」


 リュークが問い返す。


「はい。魔素波形の記録。つまり、現地での観測ログか、適切な記録装置による追跡履歴。あるいは――」


 そこで鑑定師は、ふとリュークに視線を移した。

 老いた瞳がじっと彼を射抜き、言葉を選ぶように間を置いた。


「……“魔素視認系スキル”による個人観測でも、例外的に認可が下りることがあります」


(魔素視認……解析眼か)


 リュークは短くうなずいたが、口には出さなかった。

 心の奥ではゴリッと重たい思考が噛み合い、複数の選択肢が交差していく。


(金貨は足りない……今すぐ開放は無理だ。

 物理記憶の方が……いや――解析眼があれば証明できる。

 だが、メモリーバンクの秘密は明かせない……)


「当面、“霧魔素核”の報酬確定は保留になります。ただし、今回の井戸調査――正式な指名依頼だった以上、その達成報酬はすぐに支給されるわ」


 エリナは引き出しをスッと開け、革袋をコトリと机上に置く。差し出された袋はずしりと重い。

 袋の口紐を結ぶ指先に、金属の縁の冷たさがひやりと伝わる。中では硬貨がしゃらりと控えめに触れ合った。


「これは、報酬の一部よ。内容を精査して、最終報酬が確定するわ」


 彼女は落ち着いた声で続け、書類束をパサとめくる。討伐証明書と、依頼完了の報告印が押された公式文書――朱の印影が鮮やかに浮かんでいる。


「魔物の討伐と、魔素異常の沈静化、双方が確認されたわ。

 現地の地形情報と照らし合わせて、危険度も“想定上位”として処理されてる。

 後日になるけど、ギルドとしても正規の等級報酬を適用させてもらうわ」


 リュークは袋を受け取り、ちらと中を確認する。


「助かる。正直、想像以上に厄介な相手だった」


 リュークの言葉に、エリナは目を伏せ、深く息を吐き出した。

 その顔には、安堵とほんのわずかな苛立ちが混ざっている。


「ええ、聞いてるわ。現場で霧魔素に包囲されながら戦ったって……」


 彼女は小さく息を呑み、続ける。


「――無理をしたんでしょう? 本当に……もう、心配したんだから」

 手元の書類をまとめる指先が、かすかに震えていた。

 そこからは、規律を守る職員としての顔だけでなく、ひとりの人間としての想いがにじみ出ていた。


「……危険を承知で指名したのは、こちらの判断だった。

 けど――戻ってきてくれて、本当に良かったわ」


 エリナはそう言って、わずかに笑みを見せた。

 だがその目には、赤みが差していた。

 横でルミエルがやれやれと肩をすくめ、苦笑を浮かべる。

 小さく頭を下げながら、ぽつりとこぼした。


「ありがとう。……でも、リュークが無茶ばかりするから」


 その声音には、呆れと、少し拗ねたような響きが混じっていた。

 リュークはそれを受け止めるように小さく頷く。


 だが、その目は静かに前を見据えていた。

 霧の中で響いたズズッ……ガギッ!という圧迫音、突き刺す刃の手応え、肌を焼くような傷の熱さ――すべてを胸に刻みながら。

 そして、話題を切り替えるように口を開く。


「井戸の件だけど、あの中――確かに“魔素反応”が出てた。

 霧の中に潜んでいた魔物が、恐らく核の本体だったと思う。

 殲滅後、魔素の濃度は沈静化したけど……地形的に、不自然な部分が多かった」


 その語り口には冷静さが戻っていた。

 だが一瞬だけ、言葉を探す間が走る。

 あの霧の中で覚えた得体の知れない違和感――それはまだ、彼の中で形を与えられずにいた。


 エリナは頷き、すぐに記録板へと手を走らせた。


 カリカリ……ッ


 迷いのない速さで線が刻まれていく。


「わかったわ。詳細な報告書は後日でいいから、覚えてる範囲で地形図にも印をつけてくれる?」


「ああ、任せてくれ」


 リュークの返答に、エリナは一度だけ視線を合わせ、深く息を吐いた。


「……それと、霧魔素核についてはギルド本部で追加調査に回すことになったわ」


 声を低く抑えたその口調には、重みと慎重さが滲んでいた。

 受付の奥――掲示板を囲む冒険者たちのざわめきがどっと広がる。


「高額依頼が出たらしいぞ」

「次は俺たちだ」


 そんな囁きが耳に流れ込む。


(“魔素”じゃない……“熱”。魔力を使わず、温度差で動く装置……)


 人々の賑わいを背に、リュークはエリナへ一礼し、コツリと踵を返した。

 胸の奥ではまだ燻る違和感と共に、新たな“理”の影が静かに形を取り始めていた。




 次回:掲示板の一枚――緋銀鉱と“蒸気”が呼ぶ道

 予告:東方廃坑・緋銀鉱域へ。 解毒ポーションを手に、リュークたちは毒霧と腐食床の“観測”へ挑む。

100話以降は、仕事の都合もあり、更新が難しくなっています。

そのため、更新は 週2話程度 を目安に続けていく予定です。


お待たせしてしまうかもしれませんが、そのぶん丁寧に物語を紡いでいきたいと思っています。


「面白そう」「続きが気になる」と少しでも思っていただけましたら、ぜひ 「ブクマ」や「評価」 をポチッとしていただけると、とても嬉しいです!


感想は一言でも大歓迎です、それだけで物語の未来が大きく変わります。

これからも、さらに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、どうぞ応援よろしくお願いします!


今後の執筆の大きな支えになりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

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