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【メモリーバンク】異端者扱いされた俺が“量子の魔法”を使ったら世界が変わる――記憶もスキルも無かったけど最強になって行く。  作者: カイワレ大根
第6章

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第102話 地下通路に潜む“視えぬ意味”――解析眼を求めて

 ◆視えているのに、分からない

 足元に着地すると、冷えた石の感触が靴底を通じてじわりと伝わった。


 通路は狭く、両脇の壁には黒ずんだ苔が張りついている。空気は重く、湿気が肌にまとわりつくほど濃い。

 リュークは静かに息を整え、額へ指を当てる。


「量子視覚、起動」


 瞬間、視界に揺らぎが走る。

 灰色の壁の内側から、魔力の流れ――“微かな残響”が、糸のように浮かび上がった。


 その光の筋は、幾重にも交差し、ねじれ、ところどころでぷつりと途切れていた。

 空間そのものが、不自然に歪んでいる。


 だが、その“意味”が、分からない。

 視えているはずの情報が、解釈に至らない。


「……ここ、もとは水路だった。でも途中から構造が変わってる。

 魔術回路が途中で切られてる。……誰かが、あるいは“何か”が、後からいじった痕跡か」


 リュークは壁の奥を凝視する。

 量子視覚の網に引っかかるように、力の線が蛇行していた。


 しかし、それが内部負荷の逃げ道なのか、崩落の予兆なのか――判断できない。


(視えている。だが、それが“どう作用するか”までは、読み取れない……)


 ルミエルが、わずかに首をかしげるようにして呟いた。


「……でしょ? 視えてても、意味は拾えないよ。

“物理学の記憶”がないなら、構造はただの線にしか見えない」


 リュークは答えず、拳を握った。

 視界の中で、鮮やかに浮かび上がる情報群――だが、それは手の中をすり抜ける水のようだった。


「……ああ。視えてるのに、見えてないのと同じだ」


 その低い声には、焦りと悔しさが滲んでいた。

 歯がゆさが、視覚の中で揺れる光のように胸の奥をかき乱していく。



 ◆内部通路の異常

 さらに奥へ進むと、通路の一部に“段差”と“傾斜”が現れた。

 足元が徐々に沈み、片側へと歪むように傾いている。

 通常の建築基準では、到底ありえない不自然な構造だった。


「……地盤ごと沈下してる? それとも……“意図的に”傾けたのか」


 リュークは立ち止まり、足裏に伝わる感覚に意識を集中させた。

 量子視覚を起動すると、床の内部を走る“力の流れ”が視界に浮かぶ。


 だが、その流れは上方向――つまり、地中から天井へと“跳ね返って”いた。


(何かが……“抑えられている”? いや、それより――“上へ向かおうとしている”?)


 その時だった。

 通路の右手――苔むした壁の一部が、“ほんのわずかに”揺れたように見えた。

 バキ……と、細く硬いものが軋むような音が耳の奥で反響する。


「……気のせいか……?」


 リュークが目を細めて警戒する。

 シャドウファングが鼻を鳴らし、一歩前へ出た。

 毛並みを逆立て、喉の奥で低く唸る。


 それは敵意ではなく、本能からくる純粋な警戒の音だった。

 リュークは彼の隣に並び、視線を前方に向けたまま身構える。

 その背後で、ルミエルが量子視覚を使って奥を覗き込む。


「……いる。けど、姿じゃない。“気配”じゃなくて、“記録”が残ってる。

 ここで誰かが――何かをした。その“痕跡”だけが、まだ消えずに残ってる感じ」


 言葉を聞いた瞬間、リュークの喉がかすかに鳴った。

 深く、長く、静かに息を吐く。


「……今日はここまでにしよう。構造が不安定すぎる。

 奥に踏み込むには、まだ“準備”が足りない」


 彼の声には、焦りも恐れもなかった。

 ただ、“視たこと”に対する冷静な判断と、慎重な決断が滲んでいた。


 ◆撤収と報告準備

 リュークたちは来た道を引き返し、井戸から地上へと戻る。

 外の光が目に入った瞬間、こもっていた気圧と湿気が一気に抜けていくようだった。

 静寂と緊張に包まれた空間から、現実の喧騒が静かに戻ってくる。

 通りがかった住民が


「何かあったのか?」


 と声をかけると、待機していたエリナの部下が頷き、淡々と応じた。

 彼らは非常時の伝達役として、井戸の外に控えていたのだ。

 リュークは埃を払いつつ、無駄な説明を避けて一言だけ告げる。


「……初回調査終了。構造異常を確認」


 その声には、必要最小限の情報と、慎重な判断がにじんでいた。



 ギルドへの中間報告準備

 その夜。

 宿の一室にて、リュークとルミエルは手描きの簡易地図を前に、視た情報のすり合わせを行っていた。

 蝋燭の灯りが揺れ、紙面に描かれた線と文字が陰影の中に溶けていく。

 ルミエルは筆を止め、小さく息を吐く。


「……情報は“視えてた”。でも、あれじゃ……何もできない」


 リュークは紙を睨んだまま、苦い声で応じた。


「構造の“意味”が分からなかった。

 視えていたはずの線が、“どう崩れるか”すら分からなかった」


 彼の指先が、紙の上の線をなぞるように動く。

 ルミエルは静かに言葉を重ねた。


「“意味を読み取る目”が必要だよ。……たとえば、“解析眼”とか」


 リュークは目を伏せ、唇を噛んだ。


「……まだ手に入れていない。だけど、必要だ。

 俺は……“視えたことで満足してた”のかもしれない。

 でも、それじゃ何も“変えられない”んだ」


 その声は静かだが、確かな悔しさと決意が滲んでいた。


「だから、手に入れる。必要な金貨も、力も。

 ……そうしなきゃ、きっと次は、“誰かを守れない”」


 ルミエルはその言葉を遮らず、ただ静かに頷く。

 小さな灯火が彼女の瞳を照らし、その中に宿る覚悟の光が揺れた。


 そして――翌日。

 ギルドへの中間報告を携えたリュークたちは、次なる調査と準備へと動き始めることになる。



 ◆ギルド報告と“解析眼”の必要性

 ギルド本館・第二階――

 応接室の空気は、息を呑むように静まり返っていた。

 窓から射し込む午前の光が、石造りの壁に柔らかな陰を落とす。

 机を挟んで向かいに座るのは、調査担当官エリナ。


 リュークたちは、昨日の“井戸区画”における初回調査を報告し終えたところだった。

 エリナは手元の資料をぱらりとめくり、数ページを指先でなぞるように目を通す。


「……なるほど。内部通路に、地図との不一致があったのね」


 その声は淡々としていたが、わずかな緊張が滲んでいた。

 魔力反応の異常、構造の傾斜、そして通路に刻まれていた“再構築痕”――

 どれも、公式の記録には存在しない情報だった。

 リュークは頷く。


「はい。部分的に“誰かの手が加わった”ような違和感がありました。

 特に床の傾斜や、魔素の流れの偏りが不自然で……

 中には、崩落寸前の箇所も複数確認しています」


 もちろん、“それをどうやって観測したか”までは口にしていない。

 量子視覚も、記憶の断片も、ギルドに伝えるべきではない。

 あくまで“観察”と“直感”に基づく情報として報告している。

 エリナは手元の書類を揃えると、小さく息を吐いた。


「本部の判断はまだ下りていないから……


 この“井戸区画”の調査は、引き続き“特例扱い”よ。

 一応、これ以上の調査には“正式な許可”が必要という形にはなるけれど――」


 一拍置いて、彼女は視線を上げる。

 その目は、淡くも鋭い。


「あなたたちが“協力者”として動く分には、黙認される。……そういうこと」


 リュークはわずかに口元を引き結んだ。


「つまり……“自己責任”ということですね」


「ええ。そう受け取ってもらって構わないわ」


「正規班の派遣は未定。それまでに何か起こっても、あなたたちの判断と責任で対応して」


 エリナの声音は静かだったが、明確な一線が込められていた。

 リュークは静かに息を吐いた。


(やはり、ギルドは深く踏み込もうとはしない……それでいい。今はまだ、巻き込むわけにはいかない)


「……それでも、もう一度、確かめたい場所があるんです」


 その声には、わずかに熱がこもっていた。


「だからこそ、“構造の意味”を読み取れる手段が必要だと、今回の調査で痛感しました」


 エリナが僅かに片眉を上げる。


「観察だけでは、限界があるということかしら?」


「はい。たとえば――“どこが保たれ、どこが崩れかけているか”。

 ただ視えているだけでは判断できない。今のままでは、“壊れる前兆”すら見逃す可能性があります」


 彼の言葉には、井戸の奥で感じた無力感と焦燥がにじんでいた。


「……何かを“読む目”が必要なんです。もっと、正確に」


 その言葉は、“解析眼”を念頭に置いたものだった。


 だがもちろん、ギルドにその存在を知らせるつもりはない。

 ルミエルが隣で小さく頷いた。


「リュークの言う通りです。記録に残っていない構造ほど、外部からの観測では不完全です。

 でも、逆に言えば――今だからこそ、私たちの視点で掘り下げられるんです」


 エリナはしばし黙し、視線を資料に落としたまま考え込んでいた。

 やがて、ごくわずかに口元を緩める。


「……あなたたちの判断に任せるわ。ただし、何かが起きたときには必ず報告して。それだけは約束して」


「了解しました」


 リュークは短く頭を下げると、静かに席を立った。

 ルミエルもそれに続き、廊下へとつづく扉へと向かう。


 ギルドの建物の外では、午前の陽光が街路に差し込んでいた。

 だが、彼らの歩む道の先にあるのは、光ではなく――

 未だ視えぬ“影”だった。


 応接室を出て廊下に出た途端、黒い影がふわりと近づいてきた。


「……お前、待ってたのか?」


 シャドウファングが、口に何かをくわえている。

 その正体は、かじられた果実の皮らしきものだった。


「また拾い食いか……」


 リュークが思わず眉をひそめると、ルミエルがくすっと笑った。


「でも、なんか……ホッとするよね。

 さっきまでのギルド、空気がちょっと重かったし」


「お前、あの場でよく平気だったな……」


 リュークが小さく息を吐くと、ルミエルは肩をすくめてみせた。


「平気じゃないよ? 緊張はする。でも、考えすぎると“視えなくなる”の」


 その言葉に、リュークは一瞬だけ足を止める。


(……“視える”だけじゃ、意味がなかった。


 その先の“理解”がなければ――あの時、選べなかった)

 シャドウファングが、まるでその思考を断ち切るかのように一歩前へ出る。

 尾を振りながら、振り返るようにこちらを見る。


「……行くぞ。準備が必要だ」


 リュークがそう呟く。


「今のままじゃ、“視えたもの”にさえ、勝てない」


 ルミエルはその背に歩を並べ、静かに言葉を添えた。


「じゃあ、次は道具屋ね。……理論で戦うなら、まず“手”を動かさなきゃ」



 次回:道具屋の発見と再会――視える力と拒まれる記憶

 予告:街の道具屋で“視るための道具”を求めるリュークたち。

 しかし、そこで待つのは記憶を拒む影と――あの男との再会だった。

100話以降は、仕事の都合もあり、これまでのような毎日更新が難しくなります。

そのため、更新は 週2~3話程度 を目安に続けていく予定です。


お待たせしてしまうかもしれませんが、そのぶん丁寧に物語を紡いでいきたいと思っています。


「面白そう」「続きが気になる」と少しでも思っていただけましたら、ぜひ 「ブクマ」や「評価」 をポチッとしていただけると、とても嬉しいです!


感想は一言でも大歓迎です、それだけで物語の未来が大きく変わります。

これからも、さらに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、どうぞ応援よろしくお願いします!


今後の執筆の大きな支えになりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

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