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 今は私の隣で、祝辞を述べにくる人々に笑顔で応えている。


 いつもの王女らしい、美しい気品ある姿。





 各国からかなりの人数の使者が来ている為、結婚の披露宴は王宮で行われた。貴賓たちは食事と酒が振る舞われてそれぞれ和やかに歓談している。







 大聖堂での挙式の間、気が気ではなかった。



 今にも倒れてしまいそうな王女の小刻みに震える肩。ベールで顔は全く見れない。それがさらに不安だ。泣いているのではないだろうか?


 やはり私との結婚が辛いのか……





 これまでもっと大変な式典にも顔色ひとつ変えず参加していた王女のこんな姿、いいや、最近はよく見ていた。


 私といると駄目なのだ。臣下としてならともかく男として向き合うと、私は王女にとって凶暴な狼なのだと。



 私は震える子兎のような少女にとって、確かに狼ではあるだろう。彼女を抱き締めたい。その唇を思う存分味わいたい。こんな披露宴は早く終わらせて、ベッドへと直行したい……



 でも、実際には私からはさっき漸く頬にキスできただけなのだ。柔らかな紅く染まる頬に唇を触れるだけのキス。とても幸せだった。




 しかしキスをしたあと、彼女は呼吸を乱して涙を溢した。倒れはしないがふらりと私の胸に頭を預けてきた。抱き留めると嗚咽で揺れる胸は激しく動悸している。




 やはり駄目か……心配で、抱き上げて早々に大聖堂を辞した。



















「またやらかしましたねダーマッド様」


「本当にグィネヴィアのことになると、残念」


 王女の侍女のアリーが腹立たしげにそう告げる。私の部屋に来ていたジェラルドが楽しそうに一緒になって私を責める。


 ジェラルドは、私のいる王宮すぐ側の騎士の詰所にも度々押し掛けて来ていたがこの王女の近くの部屋に移ってからは自分の部屋よりもここにいるのではないかと思うほど入り浸っている。たまにエセルレッド王子が来てる時は離れるが基本私にベッタリだ。何しでかすかわからないこいつを見張る手間が省けもするが。


 国王は恩赦だから、と言ってはいるがジェラルドに甘過ぎる。ジェラルドはまるで我が家とばかりに自由にこの王宮を彷徨いている。王宮の皆も当たり前のように恭しく接している。何故だ。王国うちの王子じゃないぞこいつは。


 結婚式を普通の挙式に変更したことはもう皆に伝わっている。準備が多少変わるからだ。大変なのは花嫁衣裳だろう。通常では白いドレスを着るはずだ。安易に変更したのに了承してくれたが大丈夫だろうか?


 アリーがその確認に来ている。そのついでにキスを省いたこととやっぱりした方が良かったかと悩んでいることを話した。



「「この残念ヘタレっ」」


 ふたりに揃って罵倒される。息が合ってるな。



「……だって、私が目元に唇付けただけで、気絶するんだぞ?キスなんてして、結婚式の最中に倒れでもしたら……」


「予めわかってれば心の準備くらいするっての」


 ジェラルドが嬉しそうに私の頭をなでなでするがほっとく。


「そういうものか?嫌がらないか?」


「寝てらっしゃるダーマッド様の頬にキスされたから、姫様も望んでいるかも、と今相談されてるんでしょう?」


「そうなんだが。いや、でも……大丈夫か?王女からのキスは寝惚けた私の勘違いかもしれないし」


「まじヘタレ……じゃあ、せめて頬にされてはいかがですか?」


 アリーが食い下がる。それは、出来るなら私だって、したい。


「ダーマッド様はいつもご説明が足りないんですよ。直前でもいいので許可を取ってくださると女性は安心するものなのです」


 そういうものなのか。それは直そう。そう言えばシャルロッテにもよく言葉が足りないと怒られたな。



「それはそうと、ダーマッド様の婚礼衣裳ですが」


「私は騎士服を着れば良いだろう?」


 儀礼用の騎士服は黒に金の繍が華やかだ。父上も結婚式の際はこれを着た。ちゃんと盛装だ。


「まぁ、普通騎士様はそうされますが、私といたしましては姫様に最高の結婚式をして頂きたく」


 さっと持ってきた箱を差し出す。開けると豪奢な白い服が入っていた。


「なんだ?これ。いつの間に?」


「これ、僕の」


 ジェラルドがはぁいと手を挙げる。


「え、やだ」


「やだって言うなよ。僕の婚礼衣裳だよ。結局使う予定がないから一度も袖は通してないから。ダーマッドに着て貰いたいんだ。作ってくれたのはここの国王だし。王妃様がグィネヴィアの好みど真ん中な意匠を選んでね。そんなに背格好変わらないだろう?僕より少し背が低いだけだし」


 ジェラルドが喋りながら、私の拒否は関係なくアリーが上着を羽織らせてジェラルドがパンツを取り替える。グィネヴィア王女の好みの服なのか……。


「うわ、最低。僕よりも背が低いのにパンツは裾直し要らないなんてなんて嫌みな身体なんだ」


 ジェラルドがわっと泣く素振りをする。うざい。


「そうですね。ダーマッド様の方が細身ですから、渡りだけ詰めましょう。上着は袖丈を少し、ですね」


 アリーが慣れた手付きでピンを刺していく。


「いや、こんな派手な服、私には似合わないだろう」


 豪奢すぎる。ジェラルドの派手な顔ならぴったりだろうが。アリーとジェラルドが私をじっと見たあとふたりで顔を見合わせている。ほら……、


「やっちゃう?」

「しかないですよねぇ。でも倒れる人が出ませんか?」

「出来るだけ事前に告知と、あと近衛にマメに回ってもらおう」

「じゃあ、ハーラさんにお願いしときますね。私より適任です。姫様の支度もありますし」


 何をボソボソ言ってるんだ?近衛ってジェラルドおまえ隣の国の王子様だろうが。


「ダーマッド大丈夫だ」


「ダーマッド様!素敵な結婚式にいたしましょう!」


 いい笑顔だな。とても和気藹々とジェラルドとアリーが出ていった。仲良しだな。









 当日朝、タマル女帝の侍女たち五人がハーラを筆頭に真顔で私の控え室にやって来た。見たことあるメンバーだ。淡々と私の服を着替えさせ髪を弄る。顔や身体のマッサージもされた。念入りに指先まで手入れされる。


 ジェラルドは当たり前のように最初から控え室にいてこの光景を楽しそうに眺めている。なんなら私と一緒にここにきた。私の親族だったか?両親はすでに聖堂だ。



 出来上がったらしい。細部までチェックするようにじっくり見たあと、五人は顔を見合わせて頷いた。


「会心の出来です!」


「素敵です!これは大変!清純なご令嬢方が倒れちゃうわ」


「ダーマッド様!今度こそ鏡見てくださいね!」


 女装のとき頑なに鏡を見なかったことを根に持っているらしい。姿見を目の前に持ってこられた。タマル女帝が銀獅子隊を数人引き連れて控え室に入ってくる。


「うわぁぁぁぁぁ、ダーマッド!素敵じゃのう!麗しいぞ!やはり妾のところへ来よ!」


 乙女のようなポーズでうるうるしながら何を言っている。


「ダーマッド殿、男装でもやっぱり美しいのう……」

「ほんまじゃほんまじゃー」

「やっぱりわしらがお守りせんといけんのー」


 銀獅子隊は風格ある騎士の出で立ちでいつもの呑気な会話をしている。男装じゃない、男だ。あと女帝を守ってろ。


 侍女が焦れったいように姿見をふるふるして迫ってくる。仕方なく目をやると、あれ、誰だ?




 これ、私か。……意外に、この白い婚礼服が似合っている気がする。


 髪形か?髪全体をコテで巻いて後ろに無造作に流している。よく童顔だと言われるが、額、額を出すとそうでもないらしい。


 そういえば母上が昔から絶対前髪で額を隠しなさいと言っていたがなんでだったんだろう。




「グィネヴィアが喜ぶよ、愛しのダーマッド。思ったとおりとても似合ってる。世界一格好いい。今日は本当におめでとう」


「妾には残念じゃが、ほんにめでたいことじゃ」


「おめでとうございます!ダーマッド様」


「ほんまにおめでとー!ダーマッド殿」



 ジェラルドが私の肩を掴んで後ろに並ぶのが姿見に映る。なるほど派手な王子と並んでもこの格好ならさほど見劣りしない。そんなに地味に見えない気がする。



 ……グィネヴィアが喜ぶのか。


 そうだな、地味で冴えない男の姿そのままよりも多少着飾って美しい王女の隣に堂々と並びたい。


「準備をありがとうハーラ殿に侍女の方々。タマル女帝もジェラルドも銀獅子隊の人たちも、みんなありがとう」


 祝いの言葉に感謝を述べる。なんだかんだ私のことを気にかけてくれてありがたい。迷惑だし振り回されてばかりだけど、多分、まぁ、…根はいい人たちだ。



 喜ぶグィネヴィア王女を想像してにやけが止まらない。


 本当にもうすぐ結婚式だ。幸せ過ぎてどうしよう。



 ふと顔を上げると全員が瞳をうるうるとさせて私を見ていた。なんだ?


 大聖堂へ移動して王女が来るのを待つ。


 気になって何度か振り返る度、あちこちから小さな悲鳴とどさりと人の倒れる音がする。

 そういえば貴婦人方はドレスを着るために身体を無理に締め付けるから着飾る時は倒れる人が多いと言っていたな。

















 披露宴ではどんどん酒を勧められる。グィネヴィア王女に飲ませようとするやつは睨めばいいが、私は断れない。



 王女は酔ったりしてないだろうか?きっとすぐ紅くなるタイプに違いない。あの可愛い紅く染まった頬を私以外の男に見せるなんて許せない。グィネヴィア王女に注がれるお酒も殆ど私が飲んだ。



 結構飲んだな……。


「おい、ダーマッド、飲み過ぎだぞ」


 ジェラルドが当たり前のように側にいる。


「そうか?酔っているように、見えるか?」


「顔には出てないけど、首が紅い。ごめんけどこれは僕でも噛みつきたくなるな。美味しそうすぎる」


「やめろ。グィネヴィア王女殿下の前で変なこと言うな。勘違いされるだろうが」


「あー、それそれ、ねぇグィネヴィア?」


 なんだ?グィネヴィア王女も微妙な顔をしている。


「もう君の奥様なんだから。いつまでも殿下はおかしいでしょう?」





 あ……そうだ。どうしよう……






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