歴史召喚士としての真の目覚め
孫子が風のように去っていった後、バルトは呆然と立ち尽くしていた。
「……結局、僕は召喚し続ければいいってことだよね。」
一ヶ月で結果を出すためには、効率を極限まで高める必要があった。
バルトは前世の受験勉強を思い出し、まずは「計画」を立てることにした。
幸いなことに、孫子という「冥府のサーバー」がダンジョンに常駐している。
そこに次々と召喚体を送り込み、経験値を稼いでもらうという寸法だ。
バルトは深く息を吸い込み、昨晩調べた歴史資料のイメージを膨らませた。
「まずは……効率的な学習と、環境を整えるための『知恵』が必要だ。」
手に持った二十センチ程の杖に、持てる魔力を凝縮させていく。
今度は一人の武将ではなく、複数の「スペシャリスト」を思い描いた。
「召喚ーーーん!」
眩い光の中から現れたのは、薪を背負って本を読む少年と、 奇抜な羽織に身を包み、
怪しげな歯車を弄ぶ男の二人だった。
「二宮金次郎です。寸暇を惜しんで学ぶ背中、お見せしましょう。」
「おやおや、面白そうな世界じゃ。私は平賀源内、エレキテルの源内よ。」
前世の知識があればこそ、バルトは彼らの「概念」を正確に形作れた。
「金次郎さんは僕の魔力運用の効率化を、源内さんは杖の改造をお願いします!」
「承知いたしました。」
二人のスペシャリストが加わったことで、バルトの特訓は劇的に加速した。
金次郎の指導により、バルトは魔力を一滴も無駄にしない「節約術」を習得。
源内は「魔法科学」の視点から、魔力の出力を三倍に跳ね上げる増幅器を
木片と魔石だけで作り上げ、それをバルトの杖へと組み込んだ。
準備は整った。バルトはここから十日間、食事と睡眠以外の全時間を
「召喚体の派遣」に費やすという、前世でよく耳にした社畜顔負けのデスワークに突入した。
十日後、自室の空気は魔力の残滓で濃密に淀んでいた。
約束の時間、空間が歪み、ダンジョンから帰還した孫子が姿を現した。
「……ほう、お主。顔つきが変わったのう。」
孫子の言葉通り、バルトの瞳には精悍な光が宿っていた。
「孫子殿、おかえりなさい。今の僕の数値……見ていただけますか?」
バルトは学校からこっそり持ち出した簡易測定器に手を置いた。
表示された数値は、魔力量:8500、魔法レベル:620。
わずか十日間で、BクラスはおろかAクラスの領域にまで足を掛けていた。
「驚いたか?儂がダンジョンで暴れ回った分の経験は、主であるお主に全てフィードバックされる。
それが『歴史召喚』の理よ。」 孫子は満足げに頷くと、懐から一枚の古びた竹簡を取り出した。
「だが、コンテストで勝つには『実技』のインパクトが足りぬ。
そこでお主に、さらなる『偉人』たちのリストを授けよう。」
バルトはその竹簡を受け取り、そこに記された名前に目を剥いた。
そこには東洋の武将だけでなく、西洋の科学者や、 果ては伝説上の聖者たちの名前までが、
バルトの記憶を介して並んでいた。
「ニュートン、テスラ、キュリー夫人……それに、モーセ?」
「お主の知識があれば、彼らの『法則』や『奇跡』を魔法として出力できる。
いいかバルトよ。お主はただの召喚士ではない。
積み上げられた人類の叡智を顕現させる、『歴史召喚士』なのだ!」
コンテストまで残り二週間。バルトの特訓はさらに過激さを増した。
ある日は服部半蔵を召喚し、気配を消して教師の書庫から秘術を盗み見、
またある日はニコラ・テスラを呼び出し、雷魔法の極意を伝授された。
「電気とは、愛と振動……そしてこの巨大なコイルです!」
テスラが持ち込んだ謎の装置(召喚体の一部)が放つ青白い火花を見て、
バルトは「これ、魔法じゃなくて科学じゃないかな……」と冷や汗を流した。
しかし、その威力は本物だった。
バルトの魔力は日ごとに膨れ上がり、もはやBクラスの器に収まらない。
そんな折、予行演習として全生徒が参加する「合同ダンジョン探索」が始まった。
バルトの班には、あの魔力測定で出会った筋肉バカのマヤと、 アイドルのミウ、
そして高慢なAクラスの先輩二人が割り当てられた。
「おい、落ちこぼれのダーオ。せいぜい俺たちの荷物持ちでもしてな。」
Aクラスの先輩が嘲笑うが、バルトは「はいはい」と聞き流す。
今のバルトにとって、彼らの挑発は赤子の泣き声にも等しい。
だが、探索の最中。 運悪く、通常では現れないはずの「地獄の番犬」が姿を現した。
「ひっ、あ、あんなの勝てるわけない……!」
Aクラスの先輩たちが腰を抜かし、ミウが恐怖に震える。
マヤが筋肉を誇示して立ち向かうが、炎の一吹きで吹き飛ばされた。
三つの首を持つ巨獣が、鋭い牙を剥いてミウに飛びかかろうとしたその時。
「……やれやれ。まだ隠しておきたかったんだけどな。」 バルトが一歩前に出た。
右手には、源内が改造した「魔導科学杖」が握られている。
「召喚ーーーん! 第一陣、織田家精鋭鉄砲隊!」
突如として、洞窟の中に火縄銃を構えた数十人の足軽が現れた。
「撃てえッ!」 バルトの号令とともに、轟音と火薬の匂いがダンジョンを満たす。
放たれた弾丸はテスラの電磁加速を付与されており、
ケルベロスの強固な皮膚を易々と貫いていった。
「な、何だ今の……? 魔法じゃない、こんなの見たことないわ!」
ミウが呆然と呟く中、バルトはさらに杖を掲げた。
「これでおしまいだ。召喚、伝説の闘魂、アントン!」
突如として現れた、赤いマフラーを巻いた巨大な男の影。
『元気ですかーーーっ! 1、2、3……ダーーーッ!!』
その咆哮とともに放たれた闘魂のビンタが、ケルベロスの首を文字通りへし折った。
静まり返るダンジョン。 崩れ落ちた巨獣の前で、バルトは照れ臭そうに鼻を擦った。
「あ、すみません。ちょっとやりすぎました?」
コンテスト当日。バルトが披露する「歴史の重み」を前に、
学校中の常識がひっくり返るまで、あと三日だった。
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最強の光神は、二度と夜を許さない。 〜国民的ゲームの主人公になって、絶望の淵にいた多種族を全員幸せにします。……でも、照れるとすぐ体がピンクに光るのは勘弁してください〜
の執筆に全力を尽くしており、他に手が回りませんでした。こちらは12話で一旦完結しましたので、
戻ってまいりました。どうぞよろしくお願いいたします。




