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酒罵微忘碌  作者: 久世
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妖怪スナック 後編

 当時、キャバクラなどで行われるコスプレイベントには、どの店にも必ずと言って良いほどエヴァンゲリオンのアスカだの、綾波レイだののキャラクターに扮した女子たちが発生していた。初めましての会話から「私アニヲタなんだよね〜」なんて言う嬢は驚くほど多いのだけど、だいたいエヴァを知っておけば、会話の突破口にはなっていた。そういう意味ででは、真琴さん攻略のためにエヴァを勉強した僕の行動は、その後にも通じる大事な資産になったと言える。

 

 真琴さんとのデートは、本当に公開日初日の朝一の初回上映だった。新宿ミラノ1、8時頃開始の回だ。


 真琴さんも家は店の近所ではあるので、ご近所同士一緒に行けば良いものだが、そこは別行動。現地集合となった。店以外で会う真琴さんにドキドキしながらも、今日はデートではあるが純粋なデートとは言えない、真琴さんにとっての別の意味で特別な日であることは重々承知の上でついてきている身でもあるので、彼女のエヴァ熱を邪魔しないような行動に終始する。


 今はトー横と呼ばれている歌舞伎町シネシティあたりには、全長約2メートルの初号機フィギュアや、綾波レイの等身大フィギュアなども展示されており、エヴァンゲリオンファンたちの熱気ムンムン。僕の僕自身も熱気にまみれたいところではあったけれど、そんな冗談は言えないほど、待ちに待ったコアなエヴァンゲリオンファンたちに圧倒される。初回上映に来ているような層なのだから、そりゃそうだ。


 そして上映が始まり、あっという間に、終わる。


 ここで大きな誤算が発生した。映画が終わっても、まだ朝10時ということだ。普通のデートであれば、夕方に映画を観て、そのまま食事なり飲みになり行けばよいのだが、歌舞伎町とはいえ、朝10時。始発よりもっと前の時間帯ならまだしも、さすがに10時という中途半端な午前中は、飲み屋は24時間営業の安いチェーン居酒屋ぐらいしか開いておらず、ランチにもまだ早い。といって、映画だけ観てそのまま帰るというのは、さすがにいただけない。


 どうしようか思案していると、真琴さんの方から「近所のフィギュアショップに等身大フィギュアあるから行こう」とお誘いを受けた。


 ノープランすぎたことは、さすがに反省し、少し情けなさを感じつつも、これ幸いとついて行く。とはいうものの、フィギュアショップなんてそれほど広いスペースでもなく、あっという間に見学は終了し、「次どうしよっか」ということになるのだが、まだ11時を少しすぎた程度。しかたがなく、歌舞伎町の朝といえばの24時間営業の老舗喫茶店、珈琲貴族エジンバラへ向かう。ここは雰囲気もよく、新宿駅からも程近い有名な喫茶店だ。※2014年にビル解体のため、場所を移転しているそうだ


 ようやく一息ついて、感想などを述べ合う。いや、述べ合うというのはいささか盛った。9割方一方的に彼女の感想にうなづき共感するだけなのだが、そう言う行為すらも楽しく感じられるのだから、恋とはかくも人の感情を操るものかと、いくつになっても感心する。


 しかしながら、あいにく付け焼き刃の僕が相手では、彼女がエヴァを語り尽くすには役不足なのは否めない。小一時間ほどで喫茶店は退店し、ランチでもと言う次へのアクションをいざなう会話はうまくいかず、結局そのまま帰宅することになった。8時開始のデートが、12時過ぎにはお開きだ。


 夜の人間は、夜の人間であって、昼に馴染むのには、相当な時間と努力と工夫が必要ということであろう。お酒を奪われた僕は、翼の溶けたイカロスのようだった。


 ちなみに、彼女とはその後、船橋にあるイケアへの買い物デートへも行くことができたのだから、しぶしぶエヴァデートを承諾したというだけではなさそうでもあった。ただ、イケアデートも、あいにく真っ昼間からのスタートで、電車で遠出し買い物をし、いくつかは配送したが、当然のようにたくさんの荷物を持ち帰ることになるので、「ただ買い物に付き合った」だけで、荷物持ち的な存在として直行直帰だったことは、今も淡い思い出として残っている。


 真琴さんには、通算2年ぐらいは、ことあるごとにちょっかいを出そうとしていたけれど、僕の引っ越しによってお店に通うこともなくなり、やがてフェードアウトした。


 夜の人間は、夜でしか輝き得ないということなんだろう。


 酔怪人間 「はやく《昼間》の人間になりたい」  

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