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王都の決闘士 【完結】  作者: ただのぎょー


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侍女アルマ

 朝日が顔に当たり、目を覚ましたアルマは自分がベッドの上に横たわっていると気づいた。


「おはよう、アルマ」


 鈴を転がしたような声が聞こえる。すぐ横で琥珀の瞳が自分を見つめていた。

 彼女のベッドにその身を横たえられていたと気づき、飛び起きて間合いを取る。


「まあ、寝起きから元気なのね。おはよう、アルマ」


 楽しそうに微笑みながら、何かを期待しているようにじっとアルマを見つめる。


「……おはよう?」


「ええ、おはよう」


 もう目を覚ますことはない、あるいは次に目を覚ました時は拘束され牢の中であると思っていたが、なぜこの部屋で寝ていたのか?


「なぜわたしはここに……?」


「だって、アルマ、新しいメイドさんよね?」


 ……殺しに来たという認識すらされていなかった。

 色々と説明したところ最終的にこう言われた。


「うん。じゃあ暗殺者はやめてメイドさんになって欲しいな」


 この件はすぐに父親であるスカンディアーニ公に伝えられ、アルマに暗殺を命じた貴族はすぐに一族郎党処刑された。

 闘技場の砂が彼らの血を吸ったことであろう。


 だが実行犯のアルマは殺されず、なぜか彼女の言う通り、トゥーリアの侍女として仕えるよう命じられた。

 ファウスティアーノ、現スカンディアーニ公にしてトゥーリアの父に尋ねてみた。


「なぜわたしを生かすのです?」


「君がトゥーリアの魔法を受けて怪我をしていないからだ。

 彼女に仕えた乳母ナース女家庭教師ガヴァネス侍女レディースメイド、その他の使用人たち。どれも長続きはしない。君なら続けられるだろう。それだけだ」


 彼女があの夜に気を失ったのは、囚われていた貴族家で心身が休まらなかったことと、トゥーリアの魔力へ抵抗するために魔力を消費しすぎたためだ。

 トゥーリアの魔力を受けて肉体が傷ついた訳ではない。

 それはこう見えてアルマが筋力を鍛えていることと、〈念動〉を逆方向に使用して抵抗することができているためだが、このような人材をスカンディアーニ家が逃すはずはないのである。


「では、逃亡防止の首輪でも何でもしていただいて構いませんので、1つ願いがあります」


「言ってみよ」


 アルマはトゥーリア付きの使用人として仕えることを受け入れる代わりに、スカンディアーニ公に1つ願い出た。


「ラツィオの闘技場で決闘士として戦わせて下さい」


 失われた自信を取り戻すために。

 力を鍛えるために。


「君を雇うのはトゥーリアに仕えさせるためだが?」


お嬢様(・・・)は今後も魔力容量が増えるかと思いますが、その際にわたしの魔力、筋力が鍛えられてなければわたしが死ぬのですが?」


「……一理あるか。良かろう。

 まずはハウスメイドとしてメイド長ハウスキーパーの管轄に入り、彼女からメイドとしての教育を受けたまえ。

 それが一定の水準に達すれば来春に決闘士として立つことを認めよう。

 無論、トゥーリアの世話を続けながらな」


 アルマは頭を下げた。

 公は立ち上がり、執事により外套を羽織らされる。

 ラツィオで多忙であるにも関わらず、急ぎ時間を作って屋敷カントリーハウスへと戻ってきたのだ。


 部屋から出るとき、彼は振り返って言った。


「冬に会う時までに、淑女の礼(カーテシー)くらいはとれるようになっていたまえ」


 こうしてアルマはメイドとしての教育を受けつつ、トゥーリアに仕えることとなった。そうして翌年、決闘士としてデビューすることとなったのだ。




「……そこからの話はあなたたちもよく知っているでしょう」


「黄金の野牛組合に入り4年間40戦全勝でS級決闘士に。

 ……しかしそのお前が手も足も出ないほどその捻る者、あー、トゥーリア様は強かったのか?」


 ロドリーゴの問いかけにアルマはしばし考えて言った。


「奥様が強いのは間違いありません。

 単純な魔力容量と出力で言えば王国で、いやエルフや魔族など含めても最上位と言っていいでしょう。

 ですが彼女は正しく呪われ子なのです。

 魔力の制御ができず、それ故に戦う術を伝えられていない。出力勝負にしなければ勝ち目はあります。例えばヴィンスなら奥様に勝てる可能性もあるのではないですか?」


「可能性があるとして〈解呪〉を全身に纏う、かな」


 ヴィンスは即答した。

 それで身体を直接捻られないようには出来る。ただし、周囲の建物などを破壊させて雪崩れさせられれば別だ。

 アルマは頷いた。


「魔術師の戦いは戦闘の条件や相手の手の内を知っているか、そして何より相性によって左右されるところが大きい。

 わたしは大体の相手に有利を取れますが、わたしが念動士である以上、念動士として隔絶した力を有する奥様には決して敵わない。

 逆にいかに強大な力を有する奥様であっても、結局は〈念動〉しか使えないのです。

 〈解呪〉であったり不可視、非物理の攻撃には対処できませんからね」


 今ヴィンスが即答したように。強者はその対策が考えられてしまうのだ。

 対策されづらいような戦いをする、対策への対策を用意する、これが高位の術者同士では必要となる。


 ダミアーノが酒杯をあけつつ言った。


「しかしお前は組合に住み込みじゃなく通いで来てたが、まさか公爵家から来てたとはな……」


 組合は男所帯で美貌の女エルフの決闘士だ。

 住み込みじゃないのは単にトラブル避けと思っていたが、よもやこんな理由であったとは。

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i521206
― 新着の感想 ―
[一言] トレーニング目的で決闘士になって、サラッとS級になるアルマはやなりパない( ˘ω˘ ) 好きなように書いたデビュー作が、即書籍化したなろう作家みたい( ˘ω˘ )
[一言] アルマにとってトゥーリアとの相性が悪かったことが、良かったのですね。決闘士兼メイド爆誕。(*´Д`*)わーい
[一言] 生かす理由がお母様の侍女が出来そうだからというのも凄いです。
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