アルマ北斗七星・5
ξ˚⊿˚)ξ <ただいま!
週末はワクチンの副反応でくたばってましたが大体元気です!
という訳で連載再開。
エンドまで毎日投稿の予定です!
控室にてそれを見ていたヴィンスは額に手を当てて呻く。
「そうきたか……」
「え、どういうこと?そんな話聞いてなかったってことよね?」
ブリジッタの問いかけにヴィンスは首を横に振る。
「弟子で対戦相手の俺に師からも闘技場の職員からも一切告知されてないんだがどういうことだ……ああ、そうか」
ヴィンスはどさりと椅子に座り、ダミアーノの酒袋を掻っ払って一息に煽る。
こちらに告知されていなかろうがなんだろうが、どうあっても決闘を受けざるを得ない戦いに思い至ったのだ。
「おいおい、なんだよ」
「ダミアーノ、A級昇格祝いは中止だ。どうやったか知らないが、アルマ、B級昇格戦に立ち塞がるらしいぜ」
「はぁ?」
「1週間後って言ってたし間違い無いだろ」
その後、各級の優勝者を称える表彰式において、正式にその旨が告知されたのであった。
そうして夜、表彰式を終えて組合へと戻る彼らを少年が出迎えた。
「組合長!みなさん、お帰りなさい!
それとヴィンスさんおめでとうございます!」
白銀の野牛の決闘士見習いとして加入した少年の1人、ジェレミアが彼らの元へと駆け寄る。
街灯の下、ヴィンスをきらきらと尊敬した眼差しで見上げる。
「お、おう。ありがとう」
ヴィンスが面食らったように戸惑い、ダミアーノが尋ねる。
「わざわざそれを言うためにここで待っていたのか?」
「いえっ、お客様が!ちょうどそれをお伝えに行こうかとしていたところでした」
「客?」
「はい、記者のロドリーゴさんと……」
そこで口籠もり、僅かに顔を赤らめた。
「き、綺麗な女の人が!あ、あの、銀髪に赤い瞳で。名前を教えてくれないんですがロドリーゴさんがこの人は大丈夫って……」
ジェレミアは10歳。当然アルマを、少なくともその顔を知っているはずもない。
「それは確かに俺の客だ。大丈夫」
ジェレミアを天幕へと帰し、家へと戻ると、そんなに広くない応接室の家具が全て廊下へとどかされていた。アルマが〈念動〉で全てどかしたのだろう。
そして部屋にはロドリーゴとアルマが床の絨毯に直接座っている。
部屋の奥、壁に寄りかかるように座っていたアルマが笑みを浮かべる。
「やあ、老けたな。ダミアーノ、エンツォ」
「てめっ……!いきなり消えやがって!……久しぶりだな」
「ああ、久しぶり。お前は変わらんな」
ダミアーノは一瞬怒鳴りかけたが、それを抑えてアルマの差し出した手を握って座った。
エンツォは拳を握り、アルマと打ち合わせる。
「君はチェザーレか」
「はい、アルマ北斗七星。俺の名を存じていただけるとは。
かつて貴女の決闘に感動した餓鬼の一人です。本日はお会いできて光栄です」
チェザーレはアルマの手を両手で拝むように握った。
「ヴィンス」
「師アルマ……」
「すまない、ヴィンス。どうしてもあなたと戦いたかった」
「……俺も気づきました。いつか貴女に挑みたかったのだと。
もっとも、こんな早くになるとは思いませんでしたけどね」
ヴィンスは苦笑し、アルマは歯を見せて笑った。
ヴィンスがどいてブリジッタが前に立つと、アルマの目が愉快そうに細められる。
「こんばんは、ブリジッタ嬢」
アルマははすっぱに聞こえる口調から一転、ゆっくりと落ち着いた声を出す。
ブリジッタの表情が驚愕に染まった。
「うそ……」
「嘘ではありませんよ」
「だってメイドさんですよね?」
再びにやりと笑う。
「別にメイドさんのS級決闘士がヴィンスの師匠でも構わないでしょう?」
「……メイド?」
ロドリーゴが呟いた。
「ねえ、我が弟子。彼らにどこまで伝えているんです?」
「何も。ただ、アルマという師匠から修行を受けてラツィオに来たとだけ」
ふむ……とアルマは考えた。
「ダミアーノ、エンツォ。あなたたちは慎重だ。わたしもそうだったが訳ありの奴らを受け入れて何も尋ねずにいてくれる。
それ故にヴィンスを預けるに値すると考えていた」
「ああ、そうだな。裏社会じゃあ知ってることが命取りだったりするものだからな」
「だが今日は聞きなさい。エルフという種の物語を、アルマというエルフの半生を。そしてヴィンスとの関係まで」
ダミアーノがため息をつく。
「俺たちに巻き込まれる覚悟を決めろと?」
「そうでもあり逆でもあります。あなたたちに何かあったら私やヴィンス、貴族が護りに動くということ」
そう言うと虚空から酒の瓶を数本と人数分の酒器を取り出す。
「せっかくだし良い酒を持ってきました。これに免じて聞きなさい」
「あー……、俺は聞いて良いのか?」
ロドリーゴが尋ねた。
「君のとこの新人の件では既に私も関わらされているの」
「それは……」
ピーノを追放するための調査にはアルマも関わっていたと明らかにした。
「どこまでを記事にしたいか、いつ記事にするか、何を秘すべきか。
ラツィオの名物記者がそれが分からないなんてことは無いでしょう?もちろん、聞きたくなければ帰ってもいいのよ?」
ロドリーゴは帽子を取って頭を掻いて笑った。
「そりゃ殺生ってもんだ。聞かせて頂きます」
全員が車座に座り、酒を手にしたところでアルマが口を開いた。
「では順に、我らエルフの物語から始めましょう。
長い話になりますが、夜は長い」




