アルマ北斗七星・4
ξ˚⊿˚)ξ <今日はちょっとだけ長め。
後書きにお知らせあり。
同刻、闘技場内。
「竜殺しヴィンス!鮫使いベンチリーの繰り出す無数の鮫を全て撃破して勝利です!
そしてこれで今季B級8勝2敗は唯一!B級優勝が決定だ!」
アナウンサーが高らかに叫ぶ。
爆発的な歓声。
今、ロドリーゴの前に広がる闘技場の砂地は、その半分に海が広がり砂浜のようだ。
そしてその海は砂浜には大量の血で赤く染まり、無数の鮫が腹を上に転がっている。
その中でもあまりにも巨大な5mはある巨大な鮫の上、ヴィンスがベンチリーの首を掴み、縊り上げていた。
海が、鮫が消える。
ベンチリーは鮫のいる海を召喚し、鮫が砂地や空を泳げるようにするという奇妙な魔術を使う。
ちなみに決闘士は調教や使い魔など仲間を連れてきたり呼んだりしてはいけないのだが、ベンチリーは闘技場の環境を変える魔術であり、野良の鮫がそこにいるだけという理論でそれを認めさせた。
率直に言って頭おかしいとロドリーゴは思う。だがまあ興行的に言って盛り上がる決闘士であるのは間違いない。
ヴィンスがベンチリーと握手し、綺麗な礼をした。
来季のA級昇格を祝う声も歓声に混じる。
ここからはA級決闘士たちによる戦いである。その前にしばし長めの休憩が入る。
例年通りだ。
だがロドリーゴは眉を顰め、首を傾げた。
何かに違和感がある。何だ。
観客はまだ大いに湧いている。今のヴィンスの決闘は見応えがあった。
更にはこれからA級の決闘だ。観客の期待は否応にも高まっている。
「ロドリーゴ先輩、どうされましたか」
共に取材を行っていたザイラが尋ねる。
「何か違和感がある。新入り、些細な事でもいい。気づいたことがあったら教えろ」
2人は周囲を見渡す。
オペラグラスを覗いていたザイラが小さく、あ、と声を漏らす。オペラグラスを手渡しつつ耳打ちした。
「先輩、闘技場のアナウンサーの背後、闘技場職員が盛んに出入りし、次々とメモを」
ロドリーゴはそちらを見る。確かにラツィオの名物アナウンサーが〈拡声〉の魔道具から離れ、何か職員と言い合っている。
オペラグラスを別の方向に、貴賓席でもそうだ。王の侍従に職員が何か告げている。
「決闘の進行に大きな変更があるみたいだな」
「何でしょう……今日決闘のA級決闘士に急病人がでたとか?」
「わからん」
ロドリーゴは帽子を目深に被り直す。
「俺は調べに行く。決勝の記事はお前が書け」
ザイラは表情を引き締めて頷いた。
ロドリーゴは記者たちのスペースをそっと後にした。
廊下を歩いて旧知の職員でも走っていないかと思ったが、流石にそんなことはなかった。少々考えて一度闘技場の外に出る。
この時間ではA級決闘士の控室は既に立ち入り禁止だ。
決闘士に関する問題なら、決闘士用の受付へと回れば情報が得られるかもしれないとの考えだ。
受付を覗いた途端、正解と分かった。
受付に男性職員が座っていたのだ。
闘技場のカウンター業務は基本的には女性が行っている。
「ジュディッタ嬢はいないのか?」
「……ここは決闘士用受付ですよ。記者の方はお引き取りを」
受付の視線の動きをロドリーゴは逃さない。
「なるほど、来客対応中か」
職員は舌打ちした。
女性の笑い声が響いた。
少ししてジュディッタが奥から出てくる。
「こんにちは、ロドリーゴさん」
「よう、忙しいのでは?」
「全くです。てんやわんやですよ」
「さっきの笑い声、来客は女性か。誰か聞いてもいいものかね?」
「伝言をそのままお伝えします。『鼻のきくやつだ。今夜取材受けてやるから黄金の野牛組合に行ってろ。今は帰れ』だそうです」
闘技場職員が大慌ての来客、女性、その伝法な物言い。そして極め付きは黄金の野牛組合を指定したこと。
該当する者など1人しかいなかった。
「マジかよ……」
ロドリーゴは額を叩いた。叩くその手は震えていた。
「マジです。マジついでに今日急にお越しになられたので、こちらも何も準備もなく本当に忙しいのでロドリーゴさんも大人しく記者席に戻ってください」
そう言ってジュディッタは戻っていった。
数時間後。
今季のA級覇者が決定し、これから表彰という流れになった時。
アナウンサーが声を上げた。
「皆様、ここでお知らせが御座います。
ラツィオ100年の歴史の中、A級決闘士の中で優勝を遂げた覇者たち。その中でも特に優れた成績を収められた方々に、S級決闘士という名誉が与えられているのはどなたもご存じでしょう。
本日、このラツィオの闘技場の歴史に名を残す偉大なる5人のS級決闘士のうちの紅一点、剣舞士・念動士。
アルマ北斗七星様が決闘士として復帰をなさいました!
皆様、盛大な拍手でお迎えください!」
客席の誰もが困惑した。
アルマ北斗七星。観客の誰もがその名前は知っている。
だが2年連続覇者となって以降、突如姿を消し、その行方は杳として知れないのではなかったか。
そしてその復帰の噂など誰も聞いたことなど無かった。
拍手が起こった。
それは闘技場の職員であった。
貴賓席からも拍手が起きた。今季、毎節欠かさず顔を出すローズウォール家の席からだった。
拍手は段々と伝播し、満場の拍手となった。
その時、式典の為に慣らされていた砂地。そこに天から一振りの剣が降り、砂地に刺さった。
抜き身の鉄剣が刀身の半ばまでを砂に埋める。
そしてまた剣が降る。
剣は砂地の外周近く、等間隔に次々と落ちる。巨大な正七角形の頂点であった。
拍手は静まり、観客がその剣に注目する。
7本の剣は誰に触れられることなく、同時に動き出す。
剣はゆっくりと対角線を描くように向かいの剣に向かって同時に動く。
砂地には美しき星の形、七芒星が描かれた。
そしてふわりと音もなく。
七芒星の中央に天から乙女が舞い降りた。
褐色の肌に長い耳。緑がかった銀の髪を靡かせて。
身に纏うは白銀の胸当て、女性用の優美な形状。
後は肘当てと脚甲という軽装で、腰には2振りの剣を佩く。
その鞘は白地に翠の優美なるものと、黒に翠の無骨なるもの。
美術品の目利きであれば分かるであろうか。
白き鞘の剣がスカンディアーニ公爵家の宝剣、エペ・ド・リスであると。
黒き鞘の剣が今年の春に討伐された悪食竜の鱗を加工したものであると。
その瞳からは魔力の籠った緋色の光が漏れ出で、小柄な身体からは無限の闘志が溢れるよう。
双剣を抜いた。
音を失った闘技場に、鞘走りの高い音が響く。
にやり、と獰猛な笑みが覗いた。
観客の全員が理解した。あれは乙女ではない、戦士の魂を連れ去る戦乙女であると。
彼女はまるで舞うような柔らかな動きでその場で一回転すると剣を左右に擲つ。
それは動きからは想像もつかぬ速度で闘技場の壁に刺さり、彼女が両手を天に挙げると双剣は跳ね上がるように天へ。
闘技場の壁を、そこに張られた結界、円筒形の透明な観客を保護するためのそれごと切り裂いた。
巨大な硝子が崩れ落ちるような轟音が響く。
剣は螺旋を描くように天を舞うと、ひとりでに戦乙女の手に戻り、鞘へと収められる。
彼女の唇が動いた。
「結界師共、観客を護りたかったらもうちょっとマシな結界を張ることだな。
1週間後、ここで決闘を行う。対戦相手はヴィンス竜殺しだ」
客席が爆発的な歓声を上げる。
その中、彼女は貴賓席に向けて淑女の礼を取ると、夕暮れの空へと飛び去った。
ξ˚⊿˚)ξ <お知らせ。
りすこ様からイラスト頂きました!
ヽξ˚⊿˚)ξノあざます!
チェザーレのイラストだったので、彼の登場シーンのあたりに貼り付けさせて頂きました。
『招嵐術士』の回ですね。
また、挿絵有るとこには(挿絵有り)と入れておきました。
それと、休載のお知らせです。
具体的にはコロナの2回目ワクチン接種ですね。
接種明後日なんですが、ちょっとその関係もあって明日はバタバタするのでお休みいただきますわー。
復帰は……副反応次第なのでなんともですがw
まあ来週頭までには再開するくらいのつもりでいます。万一ムリそうなら活動報告などで告知する感じで。
ξ˚⊿˚)ξ <よろしくですのー。




