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王都の決闘士 【完結】  作者: ただのぎょー


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84/111

アルマ北斗七星・1(挿絵有り)

ξ˚⊿˚)ξ <本文ラストにイラストありです。砂臥環様から。


あざますの!

 夜は長い。

 だがブリジッタの心臓の音を聞いているうちに、ヴィンスの身体の強張りもいつか解れていく。

 闇の中、密やかに声が交わされる。


「抱いてもいいよ」


「……抱かない」


「強情……」


「そうだな」


 ベッドの上の陰が動く。


「硬くなってるのに」


「淑女はそういうことしない」


「じゃあ身体に手を回して」


 ヴィンスの手がブリジッタの背に回される。彼が息を深くついた。


「……ありがとう」


「ふふ、どういたしまして」


 結局、2人は日が昇ってから眠りに落ち、昼過ぎに暑さで目を覚ました。


「おはよう」


「ん……」


 ヴィンスがブリジッタに声をかけ、彼女はまだ眠たげに頷いた。

 ヴィンスは彼女の頭を抱き寄せ、その唇を啄んだ。

 ブリジッタの目が見開かれる。


「おはよう!」


 ブリジッタはヴィンスを強く抱きしめ、自分からも彼の唇を啄んで立ち上がった。

 2人が身支度をして下に降りると、ダミアーノたちは食事中である。


「おはよう、心配をかけた」


 皆、口々に挨拶を返す。


「おはようチェザーレ」


「おお、どうだ」


 ヴィンスの拳がチェザーレの腹に突き刺さった。


「ああ、もう元気だ。……感謝している」


「この野郎……まあいいさ」


 それから、ヴィンスの怪我も治り数日後。

 決闘後の口約束を律儀に守り、嘉睿ジャルイが黄金の野牛組合に訪れた。彼は今季は休場し、改めて修行を行うと言っていたのをダミアーノが引き留め、その結果、それ以降ちょくちょく組合にやって来てヴィンスに武術を教えるようになった。

 彼は無所属だ。来季、黄金の野牛に来ないかとダミアーノが誘っているらしい。


 その後、ヴィンスは勝ちを重ねていく。元々の彼の武術が功夫の理により洗練され安定した。

 嘉睿が遠距離攻撃に特化した決闘士に負けたこともあり、8勝2敗がB級優勝のラインとなった。


 決闘士の人数の増減のあるB級、C級とは異なり、A級は特殊であり、別格である。

 A級はイレギュラーによる増減はあれど、常に10人と決まっている。

 ここの順位戦は他と異なり総当たり戦なのだ。


 そして、A級に欠員が出れば年末にB級の上位が昇格する。例えば欠員が2人出た場合は上位2名が昇格となると言う意味だ。

 欠員が出ない場合。

 順位戦終了後、A級最下位とB級優勝者がプレーオフの決闘、A級昇格戦を行うこととなる。


 ただ今年に関してはシーズン開始前に今季限りでの引退を表明したA級決闘士がいたため、ヴィンスが最終戦に勝利すれば、その段階でA級への昇格が決まることとなる。

 いや、決まるはずだった。




 秋。


「トゥーリア奥様、ユリシーズ様。お暇を頂きとうございます」


 ローズウォール家のタウンハウス。夫妻の向かい、席に付かず地に跪き、額を床に付けているメイドがいる。

 トゥーリアはため息をついた。


「アルマ。あなたの願いは分かるわ。でもきちんと口にしなさい」


 アルマは跪いたまま額を上げた。


「は。ヴィンセント坊っちゃまと、殺し合いたく御座います」


「決闘士として復帰するということ?それとも私闘かしら?」


「彼は私闘は受けてはくださらないでしょう。決闘士として復帰を考えています。

 ただ、決闘の後に私が生きていたら、自ら命を絶っても構いません」


「あなた……」


 トゥーリアが隣の夫を見た。

 ユリシーズはしばし黙考して口を開く。


「主人の子と殺し合いたいとはな。この場で叩き切られても文句は言えぬと分かっているか」


「はい」


 緋色の瞳は真っ直ぐ翠の瞳を見据える。


「あのスカンディアーニの離れで初めて顔を合わせた時、君と戦っておくべきだったかな?」


「いえ、決闘士・魔術師の戦いには相性による優劣が出過ぎます。

 直接刃を交えたとして、私は奥様には勝ち目がありませんが、旦那様には勝ててしまうでしょう」


 事実であった。決闘士と魔術師は戦闘へのスタンスが違う。よほどの実力差が無ければ1対1で戦った場合、勝つのはほぼ間違いなく決闘士だ。逆に数を相手にするのであれば、魔術師の方が比べるのも馬鹿らしくなるほど圧倒的な戦果を上げる。

 ただ、アルマはトゥーリアに対してのみは勝ち目がない。同じ〈念動〉使いであり、単純に出力が違いすぎるからだ。


「決闘士の頂点、闘技場40戦無敗のS級決闘士であるアルマ北斗七星がその命を投げ打ってでも、弟子であったヴィンスと戦いたいと?」


 アルマの褐色の頬が紅潮する。それは闘志であり、恥辱であり、恋焦がれるようでもあった。


「はい。彼は私の手により育ち、そして私の手を離れて大きく花開きました」


 ユリシーズは大きくため息をついた。


「よかろう、いとまを与える。

 決闘士ヴィンスはヴィンセント・ローズウォールにあらず。故に殺したとして責は負わせぬ。ここで死ぬならそれが彼の定めであろう。

 ただ、ヴィンスが死んで君が生き残った場合、当家に仕えるのは苦しかろう。逃げれば追わぬ。

 共に生き残った場合、君が嫌でないなら戻って来るが良い。決闘士と兼業しても構わんよ」


「ありがたき、幸せ」


 アルマは一度地面に額突ぬかづくと、立ち上がった。


「どうするのだ?」


「まずは闘技場へ。しばらくは身の回りが騒がしくなりますので、いい宿でも用意させます」



アルマ・北斗七星(セプテントリオン)(イラスト:砂臥環様)

挿絵(By みてみん)

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i521206
― 新着の感想 ―
[一言] 今さらですが、ふと気になりました。 この世界でエルフは人間のことをどう思ってるんですか? アルマはローズウォール夫妻に大恩を感じてそうですが、一般的なエルフはどうなのかなーと。
[一言] ヴィンスの理性がチートすぎる( ˘ω˘ ) そして抗いなさいbot師匠兼若い娘に嫉妬メラメラ師匠兼逆光源氏師匠兼無職のラスボス師匠キターーー!!!!(大歓喜)
[一言] カッチカチやぞー!
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