戦士の帰還
ξ><)ξ投稿が5分遅刻しましたの!
次いでブリジッタも気付く。
「チェザーレ!おかえり!」
「よう、我らが姫よ!ご機嫌にしていたか?」
チェザーレ、ヴィンスも話には聞いていた。
黄金の野牛に所属するB級決闘士で、無限の複合獣の策略により、決闘士の規約をたてに従軍させられていると。
なるほど、どうやら彼が帰ってきたようだ。
旅の埃に塗れた丈夫そうな外套は軍で支給されたものか。
「はじめまして」
ヴィンスも声をかける。
男が彼に視線を向けた。煤けたような肌に伸びた無精髭。赤毛の蓬髪は乱れに乱れ、その奥から金の瞳が強い光を放つ。
「ああ、チェザーレだ。君はヴィンスか、噂に聞いているぜ。若いの」
「ええ、ヴィンスです。よろしく、チェザーレ」
少しヴィンスより小柄で細身だが鍛えているのが充分に伝わる体躯。握手をしたが武人の手をしている。腰にはサーベル、得物であろうか。
天幕の中からダミアーノも顔を見せる。
「チェザーレか!」
「おお、我らが親父殿!心労をかけたか髪が後退してないか?」
チェザーレが両手を広げて抱き着こうとし、ダミアーノが蹴りを入れて留めた。
「うっせえ、髪の話はすんな!あと抱きつきたいなら先に公衆浴場でも行ってからにしろ」
チェザーレは髪を掻く。埃とフケが舞い、ブリジッタが3歩後ろに下がった。
「そうさせて貰うわ、あと床屋も行ってくる」
「おう、ついでに服を洗濯するか買うかしてこい。そしたら酒でも飲もう」
ダミアーノは懐から銀貨を数枚渡した。
と言う訳で2時間ほどして戻ってきた男は、髭も剃り落とし、さっぱりとして燃えるような赤毛に匂い立つような色気を振りまいていた。
先程は50前後の浮浪者に見えたが今は30台の男盛りというところか。
「誰が香水までしてこいと言ったよ」
「戦場帰りで金はあるんだよ。どうにも血臭と糞の臭いが鼻の奥にこびり付いている気がしてな」
「ふん、血塗れなのは戦場も闘技場も同じだろうが」
「違いない」
ダミアーノとチェザーレは軽口を叩きながら歩く。
こうして夕飯にはちょっと早いが黄金の野牛の面々は食事処へと向かう。ちょうど、ヴィンスが新人戦で優勝した時に祝勝会をした店ということになった。
コースを頼み、まずは酒、スカンディアーニ公領、公都フローレンティア近郊の上等な赤の瓶が開けられた。
「チェザーレの帰還に」
ダミアーノが酒杯を掲げる。
「黄金の野牛組合の繁栄に」
チェザーレが答える。
「「「乾杯!」」」
こうして宴となった。
チェザーレがラツィオを離れて2年以上。話すことはお互い山ほどある。
まずは軽く自己紹介をしてからの話となった。
海老に豪快にかぶりつきながらチェザーレが話す。彼の作法は闘技場と軍で揉まれて作られたのだろう。粗野に近いが野生的というか躍動感、生命力を感じさせて不快にならない。
「戦争っても結局あれだ、新大陸航路絡みの平定だよ。王家と南方の諸侯と無限の複合獣が儲けるための戦争だろ」
「元気みたいで良かったけど戦争はどうなったの?チェザーレは活躍した?」
そう尋ねるブリジッタは即席で作法を叩き込まれたのを良く吸収している。女家庭教師が見れば不足を感じるだろうが、品良く食器を操り食べ物を口へと運ぶ。
「戦況は一進一退。だがこいつを見ろよ」
チェザーレは羽織る上着の胸元を開けて見せた。
シャツの上に翼を広げた鷲の描かれた十字の勲章が見えた。
「鷲付き鉄交差勲章か」
縦の線は矢または剣を意味し、横の線は杖を意味しているという。故に交差紋と言われるものだ。
ヴィンスが感心して呟き、皆が彼を見る。
「戦場で敵を倒す方面で多大な功績を成した者に与えられる勲章だよ。鷲付きは王のお目見えなしに戦場で直接与えられる中では最も高位のものだ」
「くわしいな」
ヴィンスは曖昧に笑う。
幼い頃その最上位のもの、金剛石月桂樹鷲付き黄金交差勲章に実際に触れたことがあるとは言えまい。それはユリシーズの胸か屋敷に飾ってあったので。
「そこまで活躍できたなら軍で立身出世を狙っても良いんじゃないか?」
エンツォがそう尋ねたが、チェザーレは首を振る。
「親父たちが無限の複合獣に狙われたのを残してきたとあっちゃ、気になってしょうがねえよ。とりあえず元気そうで良かったが」
「新しく入ったこのヴィンスが去年は頑張ってくれたしな。チェザーレ、お前は好きに人生を歩んでいい。
ただあれだな、決闘士としての復帰は今シーズンは無理だな。今季はもう締め切られちまったよ」
ダミアーノがぼやく。
「いや、そうじゃねえ。今年になって、それもつい最近だ。情勢が変わったか?特に戦況に変化は無いのに急に俺だけ解放されたんだよ」
「ああ、決闘の契約のせいか」
「ふん?」
インノチェンテとの決闘の話をする。
「なるほどねえ。随分と王都は面白かったみたいじゃねぇか。
まあなんだ。とりあえず金もできた。組合も運営は順調となるとあんまりやることもねえなぁ。正直、今すぐに決闘でばちばちやったり戦場に戻るって気分でもなかったので助かったが」
「ふむ、引退か?」
「いや、多分だが違う。俺も闘技場を去るものを長く見てきたがそういう心境でもない。
ただ、緊張の糸が途切れたんだと思うぜ。どうせ戦うことしか出来ないのは分かってるさ。ただまあ、暇なのも性に合わないんだ。何かやることないか?」
エンツォが笑う。
「そんなお前向きの仕事が1つあるぜ」




