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王都の決闘士 【完結】  作者: ただのぎょー


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悪食竜戦・決着

ξ˚⊿˚)ξ <今日9/14は話のキリの問題で2話更新しますよ。んで明日は更新お休みします。


こちらは本日1話目。

「ブリジッタ!」


 ヴィンスが叫ぶ。だがブリジッタは体重を軽くさせてわざと吹き飛んだようであった。闘技場の壁面に着地するとそのまま壁をかけて砂地に戻る。


「大丈夫!」


 悪食竜の動きに自由度が増した。

 結局のところ戦士でもない人間のインノチェンテが動きを指示しているのだと、戦士としての動きも竜としての動きも理解できてないということだろう。

 それは牙や尾をどこまで戦闘において有効的に使えるのかということなどに現れる。

 そしてインノチェンテはブリジッタの身柄を得ようとしていたため、そちらに致命傷になりかねない攻撃は避けていたというのもある。


 猛攻を正面から受けていたヴィンスにとって圧は減少したとも言える。

 一方で動きが予測しづらくなった。

 そして自分に意識を集中させるのは難しくなった。


 今もブリジッタに食らいつこうとし、戦斧でギリギリ受け止められたところだ。

 だが竜は鋼鉄の斧をその牙で噛みつきひしゃげさせた。

 ブリジッタは斧を手放して離脱、試合開始直後に投げた斧を拾いに走る。

 そこを追撃にいこうとした竜にヴィンスは拳を叩きつけて止める。


 竜が後退した。


 ――まずい。


 ヴィンスは思う。

 ブリジッタは斧を拾い上げたところ。悪食竜、ヴィンス、ブリジッタが一直線に並んだのである。


「避けろブリジッタ!」


 悪食竜が毒の吐息を2人に向けて吐いた。ブリジッタが横に飛んで回避する。

 ヴィンスはブリジッタの飛んだ方向を見てから逆に避ける。その初動の遅れは当然竜にも分かる。竜はその首を振り、ヴィンスの半身に毒の息を浴びせかけた。


「〈抗毒アンチドート〉!」


 酸と毒の入り混じったような液体。体表から煙が上がり、溶けていく。術式で毒が中和仕切れていない。だがそれでもヴィンスは倒れない。不屈の信念と再生能力を以って敢えて前に出る。


 動きの鈍ったヴィンスに悪食竜が迫る。

 鉤爪で掴まれるのは避けた。だが避けきれず血が舞う。

 そして悪食竜がヴィンスの右腕、二の腕の根元付近に食らいついた。

 筋繊維が断裂し、骨が砕ける音。


 それでもなお、ヴィンスは動かない。ブリジッタからは彼の背中の、脚の筋肉が膨張するのが見える。

 組技系格闘士グラップラーがタックルを止めるかのように。胸板と残った左手で竜の頭突きを、突進を受け止めてみせたのだ。

 その中で、ヴィンスは叫ぶ。


「今だ!」


「っ!〈重力反転リバースグラヴィティ〉!」


 ブリジッタは天に向かい落ちていった。




 魔術師には得手となる属性がある。それがとても強く現れる場合があり、例えばブリジッタは重力系術式しか使えない単系統魔術師である。

 逆にアルマは念動士サイキッカーであるが、他の術式を使えない訳ではない。

 ヴィンスの父ユリシーズは薔薇の王の号を有する、植物系術式を極めた大魔術師である。植物系は四大の精霊系や生命を扱う治癒系とも関わりが深い。彼はそれらもある程度扱え、さらには召喚術サモニングにより使い魔(ファミリア)まで使役する万能の術者だ。


 ではヴィンスはどうか。彼は強化術士エンハンサーだ。一般的には〈筋力強化〉などに代表される肉体操作系術式を得手とするものが多い。

 それとも彼がバルダッサーレ戦で見せた〈自動再生〉から見るに、治癒系だろうか?

 どちらも否である。


 悪食竜が首を振る。ヴィンスの腕が肩口近くから食い千切られた。

 ヴィンスが吹き飛ばされ、〈血液増加〉を使う。毒に塗れた血が大量に宙に撒き散らされた。


 ヴィンスは闘技場の壁に叩き付けられる。

 それでもなお彼の左手は動き、極めて単純な『<』の字を、炎を表す魔法文字ルーンを描いた。


「くたばれクソ竜」


 彼の唇が不敵に歪められた。


 彼がヴィンセント・ローズウォールだった5歳の時。

 〈点火〉の術式。彼が慎重に蝋燭に火を灯そうとしただけで右手を炭化させた。あれは彼の魔力容量キャパシティが大きかったためではあるがそれだけではない。彼の得意術式がそちら側にあったためだ。

 火霊系でもない。父ユリシーズと、彼を治した宮廷魔術師のクィリーノのみが知る特性。彼は温度の操作に適性を持つのだ。


 これは師のアルマですら知らない。

 言ってどうなるというのか。彼が燃やせ、凍らせることができるのは自分の体だけなのだから。

 だが、それを考え続けた結果がここにある。

 身体から一部を切り離して使えば良いのだ。


 あの時よりも魔力容量がさらに増えているヴィンスが相手を燃やすつもりで火を起こしたらどうなるというのか。

 その答えが悪食竜の口内にあった。


 竜が声を上げた。それは咆哮でも吐息でもなく悲鳴であった。


 頑丈な、歳を重ねた地竜である。

 仮に人間の腕程度の分量の溶岩を飲んだとして、舌をちょっと火傷するかどうかという存在なのだ。

 たかが腕程度が高熱を放ったとして、なぜこうも痛みを覚えるのか。


 腕が燃え尽きない(・・・・・・)ためだ。


 ヴィンスの腕は1000度を超える高温により発火し、だが燃える端から高速で再生を続けているのだ。


 竜は息を吸い込み、肺を高熱で炙られながらも毒の吐息を吐く。

 口内の燃え続けるヴィンスの腕を緑の毒液と共になんとか吐き出した。

 悪食竜が憎しみの形相でヴィンスを睨む。


 ヴィンスは左手の親指を下に向けた。竜がその身振り(ジェスチャー)の意味を分かるとも思わないが。


「もう遅い」

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[一言] (((((( ;゜Д゜)))))はわわ
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