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王都の決闘士 【完結】  作者: ただのぎょー


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悪食竜戦・後

 インノチェンテがその魔力の全てを竜の支配に使わねばならないことは分かっている。故に魔力を使用せず、近寄る必要もない飛び道具を使うであろうとは想像していた。

 ただの銃弾でヴィンスに致命傷を与えられるとは思わない。

 だが、銃弾に付与魔術エンチャントで呪いなどかけられていれば話は別だ。


「銃を捨てなさい!」


 インノチェンテはブリジッタに銃を構える。

 ブリジッタの胴の大半は斧に隠れ狙えない。脚でも撃つか……?そう考えるも、ここで撃ち損じたらブリジッタの斧が自分を両断するのは間違いない。だが……。

 インノチェンテが逡巡しているとブリジッタが言う。


「調教師を攻撃するのが望ましくないとされているのは、直接戦闘に参加している訳ではないからよ。武器を持って介入するのならあなたを殺す大義名分ができる。

 3秒以内に銃を捨てなさい。3……」


 インノチェンテが舌打ちをしながら足元に銃を落とした。

 ブリジッタが走り、斧を振り上げる。インノチェンテが慌てて後退するが、ブリジッタはそちらに目もくれず、拳銃に斧を振り下ろした。


 西暦(C.E.)時代の骨董品が鉄屑へと変わる。


「大人しくしてなよ」


 そう言って、インノチェンテから視線を外し、竜を観察し、攻撃するタイミングを狙う。


 ヴィンスは言っていた。俺が絶対に隙を作るから必殺の一撃を叩き込んでくれと。その時を待ちつつ、少しでも牽制をするのだ。




 ヴィンスは竜と拳を交わす。突進を回避し、時に弾き飛ばされても即座に〈血液増加〉で血を補充させつつ再生させる。

 出血をとめる術式でなく〈血液増加〉を使っているのは毒持ちの敵を相手にしているときにも有用だ。傷口から汚染された血が溢れ出る。

 ヴィンスの拳は鱗をさらに何枚か破壊し、引きちぎる。

 そしてその露出した肉の部分を殴っていく。

 傷は与えられている。竜の血も流れていくが致命傷には程遠い。


 互いに攻撃は通っているのだ。だがお互いにまるで効いていないかのように動き続ける。

 悪食竜が再び吐息を吐いた。


 ……1人で戦っていたら、これで負けたかも知れん。ヴィンスは思う。

 毒液による汚染範囲が残り続けているのだ。超長期戦は難しかった可能性がある。

 ブリジッタはどうだ。

 竜の体躯が巨大すぎてなかなか視界に収められない。それでも一度銃声が響いてから、インノチェンテから妨害らしきものは発生していない。彼女がインノチェンテを上手く牽制してくれたのは間違いなく、ときおり斧を竜に叩きつける音がする。




 悪食竜グラトニアゴは苛立っていた。

 目の前にいる人間に。自分より遥かに小さい生き物であり、動きが速い。

 彼が今まで食ってきた人間は、無様に逃げ惑い泣き喚くもの。金属を身に纏い、無謀に攻撃を仕掛けようとしてくるが鱗を貫けず絶望の表情を浮かべるもの。その2種類だけであった。

 この正面にいる人間は、今まで対峙してきたどの生き物より素早く、金属や爪で武装している訳でもないのにこちらの鱗を貫いて痛みを与えてくる。

 大した痛みでもなければ大きな傷でもない。

 だが不快だ。

 そしてこちらの爪や腕が掠り、それだけで出血するような脆い生き物のくせに、生意気にもそれを即座に治癒させて攻撃を続けるのだ。

 何よりこの自分を恐れていないのが不快だった。


 後脚の方にいる人間もまた不快である。こちらは巨大な金属で武装している。

 その攻撃は鱗を貫く程ではない。だが巨大な武器で何度も叩かれているのは振動が響く。

 自分を恐れているのは明らかだ。だがそれにも関わらず自分に攻撃をしかけ、それゆえに即座に後退して自分の攻撃範囲から離れていくのだ。


 そして何より不快なのはインノチェンテと唯一自分がその名を知る人間だ。

 竜たる自分がこの矮小なる人間の命に従わねばならぬ屈辱。

 竜は強者に敬意を払う。例えば自分の前に立つ人間はひょっとするとその資格もあるのかもしれない。だがインノチェンテにそれはない。

 なぜ彼が従っているのかといえばその手に持つ杖にあった。

 あれは竜の祭器ではない。龍の祭器だ。

 その祭器の芯に龍の一部が含まれている。齢1000を優に超える偉大なる金龍の力の破片。

 それを有するに相応しい人物には見えないのだが、それでも従わざるを得ない威があった。


 戦いは続く。

 既に日は落ちかけ、無数の篝火と魔法の光が眩く砂地を照らしていた。


 そして均衡が崩れた。インノチェンテから放たれる支配の魔力が緩んだのだ。


 インノチェンテは窶れていた。

 それは昨年の秋より竜の支配を続けているためである。

 竜を支配するのには膨大な魔力が必要だ。この半年間、魔力を補うために魔力を回復させる飲み薬(ポーション)、魔力を蓄えた竜鱗を粉薬に加工したもの、魔力蓄積機マナバッテリーなどあらゆるものを駆使して不足を補ってきた。

 だが、1度の戦闘がここまで長引いたのははじめての経験であった。


 魔力の急激な枯渇、さらに戦闘の緊張もある。インノチェンテの意識が一瞬遠のき、そして悪食竜はそれを待ち望んでいた。

 杖を通じて来る指示が邪魔なのだ。


 悪食竜はその場で身を回す。そしてその太く、長大な尾を以って、ブリジッタをインノチェンテごと薙ぎ払った。


 尾がブリジッタを大きく弾き飛ばし、インノチェンテに直撃した。

 インノチェンテが衝撃に完全に意識を失い、その手から竜呼びの鉤爪杖が落ちる。

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i521206
― 新着の感想 ―
[良い点] ふむふむ! 身の丈に合わない魔物を使役なんてするもんじゃないですな! ざまぁ!
[一言] インノチェンテ、竜に倒される。(完) まさかの結果。
[一言] 自由だー!
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